第0章 〈プロローグ〉
ただの思いつきです。優しく呼んでやってください。
〈プロローグ〉
「…ここはいったい…」
気づくとそこは、知らない部屋、空間。
辺りの無数の人々が俺の事をまじまじと見つめ、目の前には高貴そうな老人が1人、高そうな椅子に座ってこちらを見下ろしている。なんなんだこの状況は…。
今田俊夫21歳、無職。今までその辺にいる普通のニート生活をして生きてきた、ただの引きこもりだ。そんな俺が、なぜこのような状況になっているのか、少し時計の針を戻して話そう。
――――――――――――――――
「…さてと…そろそろ出発するか。」
早朝4時。敏夫は身支度を済ませ、玄関の前に立っていた。
なぜ早起きか?皆まで言うな。なんて言ったって今日は、俺の推しゲーム、『ネクストファンタジーシリーズ』通称「NF」の最新版、『ネクストファンタジーVI』の発売日なのだ!
数量限定の初回限定盤は、特別なデザインのパッケージでの販売になり、やはりファンとしてはこれを見逃す訳には行かないのである。
「行ってきまーす!」
誰もいる訳のない一人暮らしのアパートに、ウキウキでそう声を発して扉を開く。
この時間帯から並ぶことが出来れば、余裕で買う事が出来るだろう。
「どんなデザインなのか、早くお目にかかりたい…!」
というのも、デザインはまだ一般公開されておらず、実際に買わないと見ることは出来ない。
俺が今日という日をどれだけ楽しみにしていたか、この世の誰もそれを知ることは無いだろう。
―――――――――――この後悲惨な未来歩くことを、まだ俊夫は知らない。
10分ほど歩き、少しづつ街並みが賑やかになってきた所で、事件は起こった。
足になにか感覚を感じた。
「…なんだお前、こんな所で。」
足に顔をすりつかせてきたのは、野良猫だった。
「にゃー」と鳴きながらこちらを見ている。随分と人間に懐いているようだ。
可愛い。
「ほ〜れ、よしよーし。」
思わず俺は足を止め、猫を撫でていた。
俺は断然猫派なのだ。
そんなこと誰も聞いてねぇよという自虐ノリツッコミをギリギリ喉に留めた所で、ふと我に返る。
「こーしちゃいられない!早く行かないと!」
そう。俺は何としても初回限定盤のNFを手に入れなければならないのだ。
さらに少し歩いた先、交差点の横断歩道で、あることに気づく。
「げっ…」
またも足になにか感覚を感じ、顔を下に向けるとさっきの猫がいた。
着いてきてたのか…。
「お前なぁ…。俺に着いてきたって、限定版のNFを見れるという収穫以外、何も無いぞ…?」
それともまさか、こいつはその限定パッケージを見たいのだろうか。やるな、NFオタク猫め。
そんなありもしない空想を頭の中で繰り広げていると、信号が青になった。
歩を進める。
―――――その時だった。
足元にいた猫が、勢いよく俺の横へ飛び出した。
ばか!そっちは車が!
気づいた時には、俺の足は既に動いていた。
そうして俺の人生は、そこで幕を閉じた。
――――――――――――――――
はずだった。
死んだと思ったら、気づくと知らない部屋。走馬灯?
にしてはこんな場所も、状況も、知らなすぎる。
いや、この場所、状況、現実でなければ見覚えがある。
そう。NFだ。
つまりこれは、巷で言う、「異世界転生」なのでは…!?
もしそうだとするのなら、目の前にいる老人は王様。となると次に発する言葉は―――――――
老人が口を開いた。
「勇者様!どうか悪しき魔王をお倒し下さい!」
キター!
これはもう間違いないだろう。
そう。俺は、異世界転生を果たした。
…はぁ…NFの限定パッケージ、見ないまま転生しちまったぜ…