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ユニペグの提案?乗りますよ!乗ってやりますよ‼︎

 あれから、家に帰るとパパは普段通りで私に接してきました。

「どうした?オリー?早く入れよ。今日はパパが丹精込めてご飯を作ったんだ。美味しいぞ」

 私は沈痛な面持ちで家路につき、玄関のドアを開けると、パパがテーブルへ皿を並べていました。

 思わずパパを見上げて、扉の取手へ手をかけたまま、私は立ち尽くしてしまいます。

 ぎこちなく動けずにいる私へ、パパが満面の笑みを浮かべて近づき抱きあげます。そして、耳元で囁きました。

「さっきのことはママには内緒だぞ。オレも忘れる…」

 そして、私の頬にキスをして食卓まで移動し、椅子へ座らせました。

「オリーも少しは大きくなったかな。前よりも重たくなったよ」

「そうね。子供の成長って早いのよね。大きくなるためにもたくさん食べてね」

 ママに気づかれた様子もありません。パパはすぐ表情にでるので、ママに隠し事ができないのです。

 私は二人へ笑みを返したのですが、頬がひきつっていないか不安でたまりません。

 けど、何事もなかったかのように、二人は会話を続けていたので、私も合わせるように話へ加わりました。

 パパは私の決心をなかったことにしたのです。


 翌日、私は今後のことを相談するため、アメリア宅へ向かいました。

 パパもママもアメリア宅に行くことを咎めませんでした。私がアメリアへ魔法の授業を受けていることを知れば、ママはいい顔をしないはずです。ママは私が怪我することを極端に嫌っています。パパは黙ってくれたようでした。

 暖かいハーブティーを注いだカップを並べて、取手を軽く指先で摘んで飲み物を啜り、アメリアが口を開きました。

「剣術を教えてくれないなら、盗み見るだけでも訓練になるかもしれないよ」

「だって、パパとエドが対決しているとき、私は全く筋が読めないんだよ」

 私は不服な顔をして意見を述べます。魔法技術を向上するため、魔法の動作や許容範囲の分析ができるように目も慣らしてきましたが、村名物、不定期的に行われるパパ対エドワードの対戦の動きには到底ついていけませんでした。

 パパを魔法で攻撃していたときも、パパの行動に内心舌打ちしたほどです。私はまだまだ未熟です。

「何だい?ザックとエドの旦那レベルをすぐに習得できると思ってるのかい?」

「そんなことないよ。でもそうなれたらいいなぁ」

「オリーには生まれもった精霊の祝福が尋常じゃないほど溢れているから、魔法の素質はもともと有り余るぐらいなんだよ。だから、魔法に関しては桁外れに成長も早かったけど…。剣はね…。ザックの血をひいているからといっても、筋力も弱いし」

「鍛えるし!何なら筋力強化の魔法で…」

「おやおや、早速ズルしちゃうのかい?」

「しっ、しないもん」

 あれっ、背中に冷や汗…。そうですよね。まずは体を鍛えなきゃいけませんよね。

「とりあえずは観察してみな。ザックは鍛錬しているとき、基礎練から始めるから、そこを見てみればいいんじゃないか?少しは勉強できるだろう?」

 アメリアの言うことにも一理あると納得して、私は助言をもらったその日、アメリア宅近所の広場へ行くことにしました。

 アメリアの授業はお休みです。元々、アメリアの手が空いているときや農閑期に集中して教わっていたので、自由がきくのです。授業のない日はアメリアの家で好きなだけ魔法書を読んでました。

 アメリアの裏庭を横切って広場へ向かうと既にパパが居ました。

「ふっ!はっ!とぉっ!」

 アメリアが言っていたとおり、パパは剣の基本の型を何度も繰り返していました。

 パパの一連の流れるような動作はとてもキレイで見惚れてしまいます。パパはお酒好きな人ですが、強靭な体は日々の訓練で崩れることがないのですね。流れる汗がひとしお色気を際だてます。ママがメロメロなはずですね。

 私は樹木の影から目眩しの術をかけて見守っていたのですが…。

 あれっ?パパと目があった気がする。

 動きをとめて、後頭部をガシガシと乱暴に搔くとパパは歩きだします。

 私は近場にあった落ちた木の枝を両手に持ち、顔を隠しながら、こっそり後をつけます。魔法をかけているので誰にも見られていないのですが、何となくお忍び感をだしてみたくて…。

 パパは村の主要の道(畦道ですけど)を前進していきます。ときおり、村人と挨拶を交わし談笑をします。村長の家の角まで来たとき、足取りが早くなりました。そして角を曲がると

「パパが消えた…」

私は完全にパパに巻かれたのです。

 次の日から、もちろん、いつもの稽古場へ現れることはありませんでした。


 アメリアが畑仕事に行っているとき、私は結界を自分で張って魔法の技術を磨きをかけます。

 パパから剣術を習えないのなら、少なくとも魔術を精密に仕上げなければ、敵わない相手になることは疑いようがありません。魔族はこの広大な土地の全てを無に帰すのです。

 風の槍の命中率をあげるため、私は木々の枝から舞い落ちる木の葉を相手にしていました。地面に葉がつく前に貫きます。

 これは初歩的な練習なのですが、枝から離れた瞬間、葉を粉砕することは私にとって簡単なことでした。

 アメリアがいる時でなければ、高度な術を施すことは許されていないのです。私は焦りでいっぱいでした。

 そこへ、いとも容易く結界内にエドワードが乱入してきました。私の結界なんて苦にもしないエドワードに苛立ちを感じます。

 違いますね。実力不足の自分に対して腹が立つのです。

「ザックと喧嘩したらしいな」

「むっ…。してないもん」

 私は訓練の手を休めることなく、エドワードへ返答しました。

「誰から聞いたの?」

 エドワードは私の質問に答えることなく尋ねます。

「何でも剣術を習いたいとか…。あの夢のせいか?」

「覚えててくれたんだ」

 私は魔法訓練をやめて、エドワードを振り返りました。幼子の話を真剣に聞いてくれていたことが素直に嬉しかった私は頬を緩めていました。

「だから次の誕生日も駆けつけただろう?」

 エドワードは真摯な眼差しで私を見つめます。

「うんっでも、生まれた年と4歳の誕生日以外はいつも来てくれたけど、四年に一度なら、8歳の誕生日には来てくれないんでしょ?」

「そうなるな。でも、閉幕したらすぐに来るから…」

「分かってるよ。ありがとっ!」

 歯痒さで語尾が強くなってしまいました。

 エドワードは何も悪くないのです。心から私の心配をしてくれています。

 歴史書編纂はユニペグにとって存在意義なのかもしれません。歴史の正しい文献を残さなければならないという何事にも代え難い一大事業なのでしょうから…。

「私が剣術を教えてやろう…」

 私の必死な態度が伝わったのでしょうか。エドワードから提案されますが、私は大きくかぶり振りました。

「パパがいい…」

「私の方がザックよりも強いぞ」

 エドワードがムキになって突っかかるので、可笑しくなり吹きだしてしまいます。ユニペグの寿命を考えると仙人ほど年月を過ごしているのに子供のようです。

「そんなの知ってる。…パパの娘だから、やっぱり、パパに教わりたいの」

 私は理由を説明します。お子様染みていることは分かってますが、今の私はエドワードと違って、正真正銘、子供なのです。

「ふむっ、こだわりがあるというか、頑固なところはザックに似てるな。…弓はどうだ?」

「弓?」

 私はおうむ返しに尋ねました。

「そう弓だ。後衛の攻撃にはなるが、例えばそうだな…。剣は近接武器だから敵に近づかなければ攻撃できないが、弓は遠くから射的できる分、敵に気づかれる前に攻撃できる。的中が必須だがな。まぁ、気配を消すのが得意なザックでれば、剣でも背後から不意打ちで襲いかかれるだろうが…」

 えっと、結構、卑怯な戦法に聞こえますが…。

「弓やる‼︎」

「剣はいいのか?」

 私は決意します。

 剣の達人になる前に弓を極めてやる!

 道のりは厳しいでしょうが、最悪の事態は絶対回避しなければいけません。

 私の魔法適応力はチートです。これを活かしてやれることは全てやってやる!

「剣はいつかパパに習う‼︎諦めない‼︎けど、今はできる技を身につけたいの‼︎」

 強い口調で私が伝えると、長身のユニペグは膝を折り、精悍な面持ちで私の頭を優しくそっと撫でるのでした。

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