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アメリア宅は私にとっての宝の山!

 アメリアの家へに初めて訪問した夜。私が嗅いだのは懐かしいあの匂いでした。


 両親が精霊燈夜に出かけたあと、私はアメリア宅で食事をいただきました。

 夕食は至ってシンプルな野菜たっぷりのスープとバケットだったのですが、スープは野菜の旨みがしっかり溶けこんでいてコクがありまろやかですし、バケットもパリッとして口当たりが軽く、焼き加減が絶妙でした。

 ママは料理に色々と手を加えてしまうから、複雑な味になるんだな。きっと…。

 ママには内緒ですが、アメリアはママより料理の技量が上です。

 アメリアはお菓子は作らないので、お菓子はママが最高ってことで…。

 ママ、お許しください。

 うーん、ママのお菓子は格別美味しくて最高ですけど、実は料理の腕になるとパパの方が確かなんですよね。

 腕前に順位をつけると、アメリア、パパ、エド、ママ…。だったりします。

 食事も終わり、後片付けをしているアメリアの目を盗んで、私は食卓の椅子から降りて室内を探索していました。体が小さいと降りるのも一苦労です。

 アメリア宅はこじんまりとしています。一人暮らしで子供が居ないのもあるのでしょうが、物が散らかっていません。必要最小限のものにしか置いていないので、整理されてスッキリしています。

 私は居間から部屋に続く扉の前で鼻を掠めた匂いへ敏感に反応をして、蔦の模様で飾られたドアノブをジッと睨みつけ仁王立ちをしてしまいました。

「そこの部屋には入らないように…。って、既に興味津々じゃないか」

 食器洗いのあと、濡れた手をタオルで拭いながら、呆れた口調でアメリアは私へ問いかけました。

「そんなに入りたいのかい?」

「…匂いがする。大好きな匂い」

「大好きな匂いなのかい?まだ、オリーには馴染みのない匂いだと思うけどね」

 少しカビたようなスモーキーな独特な香り。インクが滲んだ古書の並んだ棚から放つあの懐かしい匂い。

 私の瞳の輝き方が尋常ではなかったのでしょう。何なら星でも瞬かせそうです。アメリアは諦めたように私に言い聞かせました。

「仕方ないね。オリー、特別に入れてあげよう。むやみやたらに中の物を触ってはいけないよ」

「うんっ」

 本!本!本!本に会える!

 うぉー‼︎

 勿体ぶるように静かにゆっくりとアメリアは扉を開きます。

「明るく照らしておくれ」

 アメリアが精霊に願うと暗かった部屋に明かりが灯りました。小さな天窓が二つほどあるぐらいで、夜ということもあり真っ暗だったのですが…。

 灯された室内を見た私は、興奮して心中を隠しきれず叫びました。

「本だ‼︎」

 ヒャッホィー‼︎

 何なら喜びに小躍りしたい衝動に駆られましたが、そこは頑張って堪えました。

 凄いです。

 アメリアの家は一戸建ての平家でしたが、その部屋からは地下へ続く階段が延びています。地下二階程の深さから平家天井の高さまである四方壁面に備えられた棚へ、本がびっしりと敷き詰められ並んでいました。

 アメリアはミニマリストと思っていましたが、そうではなかったようです。

 アメリア家はリビングが広いのですが、そこにはベットもあり、外観からみてもっと空間があるはずなのに、あと一部屋しかないのが不思議で仕方なかったのです。

 これで1LDKなのって思ってたのよね。

「危ないから、下まで手を繋いで降りようね」

 アメリアが手を差し伸ばして私を促します。私はアメリアの手を握りしめました。

「魔法書?」

 踏板を軋ませながら下り、私は階段脇の本棚の背表紙を確認します。

「もう文字が読めるのかい?」

 パパが私のためにいつも絵本を読み聞かせてくれたので、簡単な文字なら読めるようになっていました。同じ年頃の子供より早いのだと思います。

「うんっ、パパが寝る前にいつも本を広げて読んでくれるの」

「そうかい?だから本の匂いが好きなのかい?」

「うんっ、家にも絵本はたくさんあるの。でも、アメリアのとこの方がもっとたくさんで多い」

 雲泥の差です。

 家にある本と比べようがありません。ここには何千冊…。もしかしたら、万は超えているかも?

「アメリアは魔法書を読むの?」

「そうだね。私はこの村では珍しく魔法を研究しているんだよ」

 よっしゃー‼︎

 魔法が学べる‼︎

「私も読みたいなぁ。魔法のお勉強がしたい‼︎」

「まだ、早いだろ?それにスフェンの皆は魔法なんて学ばなくても、自然に魔法が扱えるからね」

 そうなのです。スフェンの村人は精霊と会話ができるため、精霊に乞えば簡単な魔法を使えるのです。

 パパみたいに村の外からやってきた人は別なのですが…。

 スフェン村は精霊に護られている土地なので、外部から人は来ません。精霊が阻むのです。精霊が勝手に結界のようなものを張っています。

 ただし、ごくたまに精霊に愛されし人、外部の人間でも精霊の加護があれば

「あれっ?この人。仲間かな?」

と精霊が勘違いするのでしょう。迷って来る人もいます。

 精霊と友達になれるような相性の人間は穏やかな性質を持っているらしく、大きなトラブルもなく村で過ごせるのだそう。

 パパは例外だったのかな…。パパも光の精霊を従えているので簡単に入ってこれたらしいのですけどね。

 なので、スフェン村で生まれ育った村人は皆が精霊と交流することができます。

 精霊は契約を結ばないかぎり言葉を交わすことはないのですが、大体、こんな事を言っているのだろうと感じとることができるのです。

「アメリアも何で魔法が使えるのに、研究?するの?」

「おやっ?そうきたかい?まぁ、そうだね。私も魔法は使えるのに研究しているね」

「私はみんなの力になるような魔法が使いたい‼︎今、使っているよりもスゴいやつ‼︎」

 この村を失いたくないからだとは口が裂けても言えなくて、子供らしい理由を強調しようと発した言葉が、本当に幼子らしく訳がわからないものでした。

「そうかい…。オリーはまだ小さいから、早いとは思うけど…」

 ですよね。結構、子供の幼稚な動機で魔法を享受してほしいって言ってるようなものですしね。

 前髪を後ろへ撫でつけるように指で梳かして、困ったように眉をさげるアメリアです。階下にたどり着くと私の手をそっと離しました。

 まず、私はそびえ立つ本棚を見上げました。やはり、魔法書の類がほとんどを占めています。

 部屋の中央にはオーク材で出来た木目の美しい重厚な書斎机とセットで椅子が備わっていて、階段下の空いた隙間にはクラシカルなカウチソファが置いてありました。ソファから手に届く場所に小さなサイドテーブルもあります。寝転んで読書をしたいときには快適そうです。

「研究院で教鞭をとったこともあるけど、初等ぐらいの子供には教えたことないからな。それよりも幼いオリーにちゃんと教えられるかね…」

 独りごちて、一つに束ねた銀髪の髪を片手で乱すアメリア。括っていた紐を解くと、乱雑に散らばった髪を手櫛で整えて、再度結び直します。

 アメリアの銀髪が、光を弾いてサラサラと煌めきます。いつも自分のことをお婆ちゃん扱いしていますが、見た目からはそれほど年寄りには見えません。

 シルバーのような灰色瞳が神秘的な雰囲気を醸しだし、スッとしていて眼光が鋭いので、人へキツい印象も与えることもあるのですが、アメリアが大らかで人当たりの良いことは皆が知っています。

「アメリアって先生だったの?」

「あぁ、昔ね。私の授業は厳しいらしくて人気がなかったんだけど…。オリヴィアは大丈夫かね?」

 そこで挫けていては、スフェン村を救う大業を成し遂げれません。私は首がもげそうなほど力強く頷きました。

「アメリア先生‼︎お願いします‼︎」

 私は最敬礼をしました。気持ち的には土下座をしたいぐらいです。私の大仰な態度にアメリアは訝しんでいるようですが、ここでアメリアの協力を得なければ前に進めませんから…。

 この閉鎖的なスフェン村でこんなチャンス滅多にありません。いえ、ここで逃しては二度と来ないのです。

「わー分かったよ。だから、オリー。顔をあげとくれ」

 アメリアは胸の前で腕を組み、釈然としない面持ちで、渋々、約束してくれたのでした。

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