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弟の恋人に殺されてしまいました。

 私はオタク最高‼︎会社員でしたが、死んでしまいました。

 佐伯 若葉 享年27歳。

 若すぎます。まだまだ、人生を楽しみたかった。死因は、多量出血。失血死です。弟の恋人に刺されてしまったのです。


 私はぽっちゃり系なチビで容姿も自信がないようなオタクでしたけど、それでも清く?正しく生きてきたつもりでした。

「姉ちゃんはさ。痩せたら何とかなるって、顔なんて化粧で何とでも化けれるんだし…。ほら、最近、目が細くても、韓流俳優で男前とかたくさんいるじゃん」

 弟よ、韓流俳優様に失礼ですよ。

 あの方々はね。ただ目が細いのではなくて、切れ長で美しい形をした目鼻立ちをしているんです。ただ痩せただけであんなに尊いお姿になるはずがないでしょうよ。

 それに私は女子ですよ。女子の魅力アイテムの一つである胸がないんですよね。太っているのに胸がないなんてなぁ…。痩せたら、ないどころか、げてしまう。めて…。

 弟は身贔屓みびいきを差し引いてもイケメンです。

 男にしては手入れもしてないのに何じゃこりゃ(怒)!というような白く透明感のある肌をしており、前髪で隠している黒瞳は綺麗で澄んでいて鼻筋が通っています。女性に見間違うほど中性的な顔立ちで、国宝級とは言いいませんが、ただ歩くだけで女子達が色めきだち魅入ってしまいうような美男子です。社交性もあり男女構わず周りにいつも人が群がっています。

 ただ、それに関しては羨ましいとは思いません。私は一人が好きだからです。これは強がりとかではなく本心です。

 私は幼い頃から本の世界が全てでした。物心ついたとき、本を片時も離さないぐらいには…。本の世界は無限に広がっていて、心地よかったからです。

 保育園のときに容姿でからかわれた体験から、自分の殻に閉じこもったのだろうと両親談。

「誕生日に髪を可愛く結ってリボンで飾ったのをブスと言われて、お友達との会話が少なくなった」

 とか…。当時は繊細だったんですね。

 そこの辺り覚えてはいないのですけど、目立つ行動や言動は相手に付けいる隙を与えると思ったのではないでしょうか。私はできる限り、自分の存在を忍術のように消して毎日を過ごしてました。

 つまり、本が友達だったのです。本の中は誰にも邪魔されず自分が主人公で楽しんでいられるのですから…。

 マイペースな性格ではありましたが、社会での団体行動を乱すことはありませんでした。クラスや会社にはいるのです。誰かが一人でいるのを見過ごせない親切な方が1人か2人は…。私はその方々を見極めるのにけていました。その方々の優しさに助けられながら何とかここまで日々を過ごしてきたのです。

 また、弟が容姿や人柄で人気者であったため

「えっ!あれが佐伯のお姉さん?」

 と揶揄やゆされながらも、一目を置かれていました。弟は何故か姉っ子で…。

 ありがとう、弟よ。あっでも、弟のせいで殺されてしまうのですけどね。

 一人が好きだからと言って、人生は悲観していませんでした。私には本があります。本は読んでも読んでも、次々に製作されるので、新たな物語が待ち遠しくてたまりません。


 殺された日も

『貴方を奇跡の光で包んじゃうぞ。聖女の奮闘記 続編』

 の購入を楽しみに一日の仕事をひたすらそのためだけに頑張っていました。

 会社では毎日慎ましく仕事へ挑み

「美人でもなく愛想もないけど、仕事だけは確実にこなす佐伯」

 という称号をいただいていました。影で囁かれているこの愛称を話すと、弟は何故か憤っていましたが、私には十分過ぎる評価だと思っています。

「姉ちゃん、今日は誕生日だよね?今日のために予定あけてたんだ。メシ行こう!」

 その日は弟から珍しくメッセージが入ってました。このメッセージをみる限り、姉思いの優しい弟と思えるかもしれません。

 ですが、家族以外の女性に対して弟は紛れもなくクズです。自分でもモテると自負している弟は、同時に複数の女性と交際をしています。

「えっ‼︎だって、向こうから抱かれたいとか大胆に迫ってくるんだ!一発やっとかなきゃ、反対に失礼にあたるんじゃない?」

 弟よ。左の頬をグーで殴ってもいいですか?

 弟の取巻きに何をされるかわかったものではないので、実際に拳を握ったことはありませんが、たしなめたことはあります。ただ、頬をぶってでも強く叱責すれば良かったと、腹から大量の血を流しながら後悔しました。

「嫌だ。予定がある」

 私はメッセージへ返信しました。

「姉ちゃんに予定あるわけないじゃん。彼氏はもちろん、誕生日を祝ってくれそうな友達もいないだろ?」

 直様すぐさま、返信が返ってきます。

 私には大切な書籍を購入するという使命があるので

「本屋に行く」

「じゃあ、その後に待ち合わせしよう」

「すぐ、読みたい」

「えぇー!可愛い弟がお店を予約してまで、祝おうって思ってるんだからさ」

 私は全身を震わせながら

「この暴君めっ‼︎」

「それが貴女の弟です」

 断れない定め…。それがこいつの姉というものか…。

「いつもの本屋に行くので、本屋前18時に」

「了」

 深いため息を吐く私でしたが、もうすぐ就業時間。きっちり本日分の仕事を済ませましょう。

 弟は姉の誕生日と称して、デート前に店をリサーチしたいだけなのです。そして、私の誕生日にも関わらず、勘定は姉に支払わせるつもりでしょう。そういう弟です。


「姉ちゃん、待った」

 本屋の前。私は鞄を腕に掛けて、本を読むのに没頭していました。弟が時間に20分遅れたぐらいで腹を立てる必要はありません。その間、本を読めたのですから…。

「相変わらずだね。いいけど…」

「何?読んでるの?」

「語ってもいいなら、教えてあげるけど」

「勘弁してよ。今語られたら予約時間に間に合わない」

「何時?」

「うーんと19時かな…。ここから歩くけど良い?近くなんだ」

 弟は目立ちます。何せ美男子なんで…。

 私はいつも存在を空気へ隠すかのごとく静かに潜んでいるのですが、弟の近くにいるとそうはいきません。

 容姿が違いすぎて、姉弟と結びつけるのは難しいのです。顔立ちだけでなく…。弟の身長178センチ、体重59キロ。私は153センチ、◯☆キロ。すいません。どうしても、体重は公表できません。

「あの人たち、どういう関係性?」

 と、疑問に思っても、無理はないのです。ここでも、道を歩きながらチラチラと垣間見る女性が数人。

「美味しいと思うよ。友達に勧められたんだ。スイーツが絶品らしい。甘いもの好きだろ?本当はダイエットさせなきゃって思うんだけど、今日は特別な日だからさ」

 弟が私のお腹をさすりながら無垢むくな笑顔を向けるので、私は弟の頭を軽く小突こづきました。

「公衆の面前で人のお腹を触るな」

 弟の斜め背後から長身の美人が顔を引きらせてこちらを窺っているのに私は気づきました。

「だって、年に一度の誕生日は一緒に過ごしたいじゃん。オレんときも祝ってよ」

 弟は屈託くったくなく話を続けます。

 弟は女にだらしない男ですが、姉思いの優しい子なのです。数年前、両親を交通事故で亡くしてからはこの世で二人だけの家族なのだからと支えあって生きてきました。

 姉の誕生日に奢らせようとたくらむのは、いかがものかと思いますが…。

「潤くん?その人誰?」

「えっ?」

 先ほど、目の隅で確認した女性がすぐ側に近づいていました。

 とても綺麗な人です。黒髪を肩甲骨あたりまで伸ばしていて、サラサラと揺れています。

 女性の第一印象は、艶々と光沢のある美しい髪質の人だなってことでした。私の髪はうねり癖があって、いつも誤魔化すために結っているから羨ましかったのです。

「今日、私と過ごせないのはその女のせい?」

 弟の恋人なんでしょうか。弟の彼女は片手の指以上はいるので、その一人であることは間違いないでしょう。弟は焦ったように口走ります。

「何、言ってんだよ?この人は…」

 手にキラリと鈍く光るナイフ?だったのでしょうか。彼女が私へ目指して突進してきます。弟が動いて、その道筋を遮るように立ちはだかろうとするので、咄嗟とっさに弟の腕を有りったけの力を込めて引っ張りました。

 ドスンっ。

「痛っ…」

 腹に突き刺された刃物。真っ赤に溢れる血。広がる血溜まり。

 女性が歪んだ顔で私を見つめてます。

 折角の美人さんなのにもったいない。

「ね…ね…ねぇねぇちゃん…。姉ちゃん‼︎」

 膝から崩れ落ちる感覚。弟が私の背中を抱きとめます。

 良かった…。アスファルトで頭まで打ったら洒落にならんし…。

「嫌だ‼︎あんたまで先に逝くなよ‼︎嫌だ‼︎誰か‼︎誰か‼︎誰でもいい‼︎姉ちゃん‼︎姉ちゃん‼︎姉ちゃんを助けてくれ‼︎」

 緊急事態なんだろうとは思いましたが、慌てふためく弟の姿が可笑しくて、頬を緩めてしまいました。

「泣かないでよ。潤ちゃん…。まるで私が死んじゃうみたいじゃない?…」

 意識が遠のいていきます。真っ暗な闇に堕ちていくみたいに…。体が指先が動かない。

 私って、幼い頃もそうだけど、誕生日が厄日なのかしら…。

「お…ねぇ…ぇさん?う…そ…」

 女性の声が耳に届きました。表情は瞼が重くて開かないので窺い知れませんが…。

 あぁ、…うん。

 貴女も弟に惑わされたのよね…。

 ごめんね…。不甲斐ない弟で…。

 こんな事になるなら、もっと女性に誠実であるように教育しとけば良かったわ…。そうしたら、こんな誤解しなくて済んだのにね…。

 …後悔先に立たず。

 あぁ、重たい身体が地面に沈んでいくみたい。

 冷たいなぁ。

 潤ちゃんに抱きしめられているはずなのに…。

 身体が凍えるように冷たいや…。

 何だか眠たいな…。

 ごめんね…。潤ちゃん…。


 こうして私は27歳の生涯に幕をとじたのでした。

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