第九十二話 「一悶着」
アーサーが青い塔でミナとの激闘を繰り広げている裏の話だ。
二度寝から覚めることがない。
小さな可愛いイビキが部屋中に響き渡ることは無い。
なぜなら、かわいい吐息のようなイビキなのだから。
髪の毛の乱れ。
ベットの上で寝ているのだから仕方がない。
おそらく、頭を枕の上に乗せて、正式な眠り方をすればこんなにも乱れることは無いであろう。
少し長い髪の毛がベッドを通じて逆だっている。
寝相の悪さは一級品であろう。
枕はそもそもベッドに存在しなくなっていた。
ベッドの側面へスポン。
たまに寝返りを打ちつつも、気持ち良さそうな寝顔が空間を穏やかにしているようだった。
彼女の名はモナ。
モナ・スペルディである。
数年前と比べたら彼女なら、こんな姿をして眠ることは無かったであろう。
一人孤独に生きてきた人生にやっとの光と思われる、アーサーの存在が大きな要因だ。
まさかの、シャワー終わりの二度寝は正直矛盾していて、本来なら、逆であろう。
バスタオル姿。
乾かし漏れの髪の毛のまま、二度寝は起きた時の寝癖がさぞかし酷いであろう。
バスタオルもほとんど脱げており、布団の替わりのように大きな胸を隠す程度。
そんな彼女はアーサーが外出していることすら知らないであろう。
【モナの夢】
憧れ。
野望。
夢。
お金。
希望。
理想。
展望。
その他全てをかけても捨てきれないもの。
あなたよ。
アーサーあなたよ。
私は親、兄弟共々誰もいない。
既に無くなっているのだ。
つまりどういうことか、孤独だ。
でも、孤独でも悪くないことがある?
人それぞれ、孤独が辛いだの、一人は無理だのと言う人も大勢いるが、私は平気だ。
空が日常。
空が普通なのだから。
一人で孤独でいることも別に悪くないことがある。
相手のことを考えなくてもよい。
お金も出費も減るであろう。
何より自由に全てのことができるということだ。
楽しい人生の始まり。
でも、毎日訪れる夜になると、気分がすくむ。
非定型鬱と言えるのだろうか。
でも、朝になって太陽の光を浴びれば一瞬のうちに気持ちを切り替えることができる。
やっぱり孤独っていう影響が出ているのでは?
でも、そんなことを考えていることが鬱なのだからやめにした。
魔族と人族のハーフがなんだ!?
どこの時代もどこの場所でも差別というのはあると聞くが、何がダメなんだ?
どちらにしろ生き物だぞ!
そんな時だ。
私が彷徨っていた時代。
そんな時、一件の任務で彼と出会った。
老いぼれ。
おっさん。
キモッ。
第一印象だ。
彼にすべてを打ち明けた。
なぜだか。
動物的直感から彼には話していいと思えるようになった。
恋は突然に。
今まで恋愛に無縁の日常。
する気もなかったし、言ってしまえば避けていた。
自分のただ生きることにしか執着のないダメダメの人生。
明日生きるためにどう行動すらば良いのかだけの日々。
赤の他人のことなんて、人生なんてどうでも良くて、暗く、ドス黒い仕事で生計を立てて生きる人生の選択肢しか無かった。
彼の言葉は強烈だった。
心の奥に縛られた鎖が砕けて落ちる。
そんな感覚。
心が洗われる。
たとえ、相手に対してにくすみ、嫌味を持っていても口に出すことは無いであろう。
それが道理のある人物だったら。
道理にかける人物はやたらと相手の傷つくことを重点的に押し付けてくる。
彼は違った?
素直に物事を話して、素直な気持ちを言葉で伝えてくる。
そんな人、今まで出会ったことがない。
それだけで気持ちを揺るがすことは無いのだが。
彼の強さ。
信念の強さ。
信頼感。
任せられる頼れる強さ。
彼は普通の人では無い。
色んな意味で普通の人では無い。
例え、仮に彼が嘘で偽ったとしても正直許せるし、何か闇を抱えているのであれば、助けたいと思える。
全てを投げ出して彼に捧げれる思いがある。
『恋は突然に』
そんな言葉は私に非常にマッチしている言葉と思う。
心。
技術。
体。
全てを捧げてもいい。
彼が望むのであれば。




