第八十五話「ニャルファーのおもてなし」
本来、宿舎というのは単に一夜を過し、明日を迎えるための準備場所と言える。
仕事で出張のため、家が無いため使用する者や、冒険者などが街を点々とする際に使用する。
いわば、そういうことをする場では無い。
基本は。
だが、猫耳のお姉さんが紹介してくれたのはラブホテルというあいびき部屋だった。
何を思ったのか、俺たちの感じを見てアドバイスのつもりだったのであろう。
単に名前を言わずに宿舎という名を借りてラブホテルに誘ったのだ。
そもそも、猫耳お姉さんは俺に興味を持っていたのでは無いのか?
俺に惹かれていたのではないのか?
少しガッカリだが、よくよく考えてみれば、未だに童貞のおっさんにチャンス到来じゃないか。
何をへこたれているんだ?
卒業のチャンス。
そもそもいいんだよな……
だって、モナは俺の事好きなんだよね!?
というか、五年も一緒に旅をしていてそういうことが一つもなかったことがある意味おかしい。
いいんだよね。
いいんですよね。
OKですよね。
ガチャっと304の部屋番が書かれた扉を開けると、大層広い部屋だった。
窓は閉められて暗いが間接照明が照らされて良いムード。
中央にキングベッドが一つ。
天井はなぜか鏡張りでお風呂も広い。
なんかドキドキしてきた。
モナもドキドキしてる?
彼女は俯いてとにかく無言だった。
現在の時刻は昼の14時。
まだ早い。
「よっよし…とりあえず準備出来たら中央の街まで行ってみよう!」
「……」
彼女は不気味に無言だった。
おそらくだが、彼女は我慢しているのだ。
考えてみてくれ、そもそも一部屋にして欲しいと言ったのは彼女の方だ。
そういうことも想定して言った発言とみている。
とにかくこの無言の意味。
解読したかった。
心臓がバクバク鼓動を強く打っているのが肌で感じる。
これが本当に緊張していること。
初めてのこととはこんなに緊張するものなのだろうか。
いくら強い相手と戦う時よりも、女の子に告白することよりも、行為をするまでの過程はどれだけ緊張するものなのか。
倍以上緊張している。
皆はこんなバクバクを経験してこの道を通ったのか。
「……」
俺が緊張したのはわかる。
彼女はどうだ?
今この状況、この立場、この立ち位置、この空間においてどう思っているのか。
緊張しているよな?
いや、緊張していないのでは?
彼女か生娘とは考えづらい。
俺はともかく、この美貌。
誰が放っておく?
こいつは確定で卒業しているはずだ。
なら、緊張はしないのでは?
すると、何もしない俺に対して嫌悪感を抱いたのか、目の前にいるモナが行動を示した。
後ろ姿のモナはどことなく綺麗だった。
アウターがスルッと床へ落ちた。
スラッとしたスタイルに突き出たおしりとお胸。
へっこんだお腹。
ナイスバディー。
俺は股間に血が上るのを感じた。
表情も可憐で頬が赤く、そういうことだということを互いに認識した。
振り向き際の顔の角度。
とにかくゾワゾワした。
何も発せなかった。
魅了させられたのだ。
スタイルといい、表情といい完璧に近いものだと、女神だ。
「初めてだから……」
「……?」
「緊張……してる……」
「……!」
「アーサーは緊張してる?」
「……おれは」
「やさしくしてね……」
燃え上がるような血の高ぶり、股間から脳内にぶちまけるよく分からない高揚と物質。
興奮が最高潮を達したことが身体中でわかる。
もう我慢できない。
する必要ないんだよ。
衝動が抑えられない。
「モ……モ……モナ……」
彼女をベッドに勢いよく押し倒した。
バウンドしながら彼女は身体を預けた。
両腕は顔上に、内股。
アラビアンビキニから漏れ出る横乳と下乳がさらにエロさを際立たせる。
様子を窺ったが、彼女はそっぽを向いて目を合わせようとしなかった。
それに抵抗も見られず、OKというサインにも感じた。
彼女がこちらに目を合わせてくれるまで俺は彼女を見つめた。
「……そんなに見つめられると……恥ずかしい……」
彼女の一撃は凄まじく俺の心を高ぶらせた。
首筋を舐めて、キスを繰り返した。
その度に彼女が喘ぎ声をあげてくれた。
それもまた股間を硬くさせてくれる。
次は唇にキスした後、徐々に下に移動しよう。
ありがとう。
「やさしくしてね……」
彼女は目を瞑り、唇を待っていた。
童帝卒業…ありがとう。
バンッ!!
密室プライベート空間を扉音が邪魔をした。
俺とモナは入口ドアを凝視した。
「お二人ともー 街をご案内しますねー!!」
勢いよく扉を開けて、この完璧な雰囲気を邪魔したのは、ギルドで出会った猫耳のお姉さん。
ニャルファーだった。
「ご準備出来ましたー?」
「あれれー……プフ 笑」
「ごめんなさいー!おじゃまでしたー?」
俺とモナはすぐさまベッドから起きて、ニャルファーを睨んだ。
「そんなに睨まないでくださいよー まだお昼ですよ! お二人ともお盛んですね プフフフッ 笑」
こいつの笑い方に大いに腹が立った。
よし今から魔物の餌にしてやるから表出ろ。
モナは悲鳴をあげるどころか、周囲にあった家具や置物をニャルファーに投げまくった。
「またお前かー!! 出てけー!! 見るなー!!」
※※※
モナの投擲技術が1ミリとも炸裂することなく事なきを得た。
炸裂したと言えば、部屋にある家具やら壁がぶっ壊れた程度だ。
程度というのは少しどうかと思うが、めちゃくちゃになった部屋であった。
とにかく、俺も含めて落ち着いた状況を作り出すことに成功した。
モナとニャルファーは卒業するはずだったベッドに腰を据えて座っている。
モナは足と腕を組んでそっぽを向いて、ニャルファーはニヤニヤが止まる気配はなかった。
「プフフフッ」
「まだ笑うか! いい加減にしないと私の拳があなたの顔を無惨な姿に変えるぞ!?」
「ごめんごめんニャ。いやー私笑い上戸でさー」
「つい、耳に二人の変な声が聞こえたから覗いて見てしまってー 笑」
「それに発情の匂いがドアから漏れ出てたから私も興奮しちゃって、プフフフッ」
「プライバシーってのはあなたの頭の中にはないわけ?」
「ありえないでしょ!」
「部外者が人の部屋に入るなんてほんとサイテーね!」
「部外者と言えば部外者だけど、意外とそうでもなくて……」
このままだと見ていて辛かった。
二人とも喧嘩ばかりで終わったことなのだからもういいのでは? 俺だけでも大人の対応を……
「と、言うと?」
「この宿舎の経営者の娘だから」
「えっ!?」
「はっ!?」
「一応こっちが本業でギルドの受付が副業ってわけ」
「ほんとはどっちかに絞りたいんだけど、どっちも辞められなくてねー」
「それだけ君の仕事が評価されているってことでは?」
「それもあるんだけど、ギルドに来た冒険者、特に男女二人組にはいつもここを紹介しててね」
「なるほどな、一石二鳥って訳か」
「でも、なんで男女二人組限定?」
「いやいや、そんなの決まってるじゃないかー」
「こうやって、男女二人組一つ屋根の下。やることって決まってるよね」
「……」
この後に続く言葉に俺は動揺した。
なぜか、俺らのことではないか。
「セックス」
「……」
「あ、う、うん……それで理由は……」
「単純。やってるところ見たいから プフフフッ」
モナは立ち上がって怒りの形相で拳を突き上げて襲いかかる。
「おまえー!!」
すぐに間に入ってモナを静止。
その拍子にモナをベッドに押し倒してしまった。
左手はモナの胸をがっぽり覆い、あまりの大きさとハリに片手では収まりが悪かった。
「お、おおおー!!」
ニャルファーの耳と尻尾が異常に発達した。
「こんなに間近でセックスが見れるとは、観察させてもらいます!!」
モナの目尻から涙がポツポツと流れ出てきた。
溜まっている物が流れてるように言葉も引きつっていた。




