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第八十四話「宿舎」

 コツコツコツコツ。

 木目調の床をかかとで蹴飛ばしながら足音が聞こてくる。

 こちらに近づいているように感じてスっと顔を向けた。

 三人組の若い兄ちゃんだった。


 オラついた姿勢に手をポケットに突っ込みながら俺たちに視線を向けている。

 髪型はオールバックの金髪にアホ毛が二本。

 そいつの左右には、明らかに子分と思われる背が高いノッポと小太りのデブ。


 背の高いノッポと小太りのデブはおそらくボスである中央の金髪に話しかけていた。


「兄貴、兄貴! あの女いい体してやすぜ」


 どうやら、モナに対しての話のようだった。


「兄貴にピッタリですね」


 中央の金髪は言った。

「だよな! 俺の嫁にしてみるか!?」


 三人は高々しく笑った。


 モナは隣でワイワイはしゃいでるにもかかわらず知らん振り。

 モナに眼中にも音すら入っていないようだった。


「兄貴、兄貴! あの女きっと緊張してますぜ」

「こんなかっこいい兄貴を前に目も合わせられずいるんですよ」


「いや、兄貴! あれは待ってるんですよ! 声をかけられるのを待ってるんですよ! いっちょかっこいいところ見せてやってください」


「そ、そうかー!?」


「そうですよ! 見てくださいあの体。 それにプロポーション。少し歳はいってるけど抱くには丁度いいプロポーションですよ!」


「ああ……そ、そうだな」


「胸はどれくらいでしょ?」


「俺の長年の感覚だとFだな」


「さっすがは兄貴! 経験値の差ですかね 笑」


「突き出たおしり、しまったウエスト。顔立ちも申し分ないですよ兄貴!」


「あんた達! うるさいわね!」

 モナは三人になげかけた。


「見てください兄貴、兄貴! 逆に話しかけられちゃいましたよ 」


「兄貴がモタモタしてるから女の方から話しかけてきましたよ! きっと女も待ちきれなかったんでしょうね!」


「今です! 今がチャンスです!」


 金髪の兄貴は無許可にモナの肩に腕をのせて馴れ馴れしく言った。


「姉ちゃん! 可愛いねー」


 モナは腕を組んで微動だもしなかった。


「……気安く触らないでくれる?」


「そんな事言うなよー モテるんじゃないの?」


 少しばかり苛立ってきた。

 こいつの言動に苛立っているのだ。


「なんとか言ってくれよー」


「……話しかけないで」


 こいつを今すぐ殺して魔物の餌にでもしてやろうと

 モナに対して場所も弁えず無礼な言動に苛立っている。

 相手のことを考えない言動……


 ボディータッチの多い男に対してモナは避けようともせず、微動だにしない。

 なぜモナは言葉だけで何も動作で示さないのか。


「やめてくれる? 私、想いを寄せてる人いるから」


「……!」


 そうか、おかしいのは俺の方だ。

 俺がやってきた言動というのはモナにとって辛い気持ちになるということ。

 モナが味わっていた感情をいま俺が感じているんだ。


 猫耳のお姉さんとの会話や視線の動き。

 モナはその時こんな気持ちだったんだ。


 人の感情も考えず繰り出す言動がいつの間にか相手を傷つける。

 モナが動きに示さないのは、俺に気を使っているから。

 やろうと思えば対処ができる。

 彼女の気持ちがわかった気がした。



「俺たち近くの宿に泊まってるんだけどさぁー……」


「あのー……」


「あ? なんだおっさん!?」


「私の連れなのでやめてもらっていいですか?」


 正直に言おう。

 こいつらと戦わなくても力の差はあると思っている。

 若さでは勝てないが、こんなところで変な事件も起こしたくないので丁重に帰って頂こうと思う。



「……連れ? おっさんの?」

「なわけないでしょ!?笑」

「おっさんいくつだよ 笑」


「いや、ほんとに連れなのでやめてくれます?」

「一緒に旅をしていて、信頼してる大事な人なんだ!」


「えっ! おっさん 笑 もしかしてこの子のこと好きなの? 笑 」


「……」


「いやー、無理無理。親子ほどの年の差の恋愛なんてないから 笑」


「……気が済むまで仰っても構いませんが、今すぐ彼女から手を離してください!」


 金髪の兄ちゃんはため息をゆっくりついた。


「あのさ、おっさんもうやめときな! 恋心かお遊びか分からねーけど、おっさんじゃ釣り合わねーし。とっとと消えな! な!?」

「おっさん、うぜーよ!」


 至近距離で俺に睨みをきかす若者。

 なんという威圧感。

 別に怖くは無いがさすがにイラつく。


 俺も兄ちゃんに睨み返そうとしたところで、いきなり兄ちゃんの顔面が頬から形を変形させていくのが見て取れた。

 兄ちゃんの頬が窪み、くぼみの原因は頬に迫り来るモナの拳である。

 つまり、モナは金髪兄ちゃんの顔面を思いっきり殴ったのであった。


 金髪の兄ちゃんは二回転程して床へ倒れた。


「兄貴!!」

 子分の二人の声が重なった。


 戦闘不能。

 兄貴は泡を吹いていた。


 モナは腕を組んで言った。


「あんたね! いい加減にしなさいよ! 私に何しようがそれ相応の大人の対応はするわ。でもね! アーサーのこと悪く言うなら絶対に許さないわ!! 死んで償いなさい!!」


 こんなに言葉ではっきりとした気持ちの伝え方は嬉しかった。

 普段、表に表現しないことを言葉で伝えてくれたことに感動している。

 モナの表情を窺うと、目が合ってもあちらはあちらで恥ずかしかったようですぐに視線をずらした。


 俺たちの間には複雑な恋愛感というのが感じ取れた。




※※※




 猫耳の女性から紹介してもらった宿舎へたどり着いた。

 相変わらず、俺が猫耳お姉さんとの話終わったあとも一言も会話がなかった。

 単純に機嫌が悪かったようだ。

 やはり女の子は難しい。

 会話ひとつない、周囲の現場音のみのまま宿舎へ向かうことに。


 ギルドから少し歩いたところの裏通りにその建物はあった。

 裏通りと言っても、辺境で汚い場所ではなく、大通りから外れた裏通りってことだ。

 この街は基本的に裏表がない。

 街もどこも綺麗でそれが売りでもある。


 建物の前に仁王立ち。

 外観はとりあえず綺麗で、こちらもやはり白を基調とした四角いボックスのような建物。

 昼間なのに緑色の照明が散らされている建物だ。

 どことなく違和感というのが抱いてきた。

 猫耳のお姉さんに紹介してもらったところだよな?

 再度もらった宿舎の地図を確認して見てみると、間違いなくここだった。

 立て掛けられた看板にも宿舎と丁寧に書いてある。


 確かに、食事も美味しくて、比較的綺麗な場所を案内してくれたようだし、モナも先程の一件で不機嫌になってる、早々に宿舎を決めたいこともあり、迷わずここへ決めた。


「とりあえず、受付済ませましょ」


「そうね……」


 宿舎の中へ入ると、すぐ受付があった。


「いらっしゃいませ……」

 

 女性、年配者の声だった。

 すりガラス越しの年配者。

 鼻から上がすりガラスに隠れていて、口元だけが見える状況。

 どこか奇妙だった。

 そもそもこのすりガラスの意味がわからない。

 そんなに顔が見られたくないのかとも思った。

 それに店内も薄暗く、間接照明が照らされる程度、ここが本当に猫耳のお姉さんのおすすめとは疑いたくなるようなところだった。

 まあ、せっかく来たのだし、選んでるのもあれなのでここへ決めた。


「2部屋お願いしたいのですが……とりあえず1週間ほど」


 一応、モナの配慮も込めて別々の部屋にと思っていたが彼女が割って入ってきた。


「1部屋でお願いします!!」


 勢いのある口調。

 受付のテーブルにバンっと手のひらを叩きつけて言った。


 まあ、モナが言うのならいいだろう。

 モナは言葉を発したあと、息をハアハアさせながら俺を見た。


 なんだ…?


「1週間でよろしかったですか?」


「はい、1週間で」


「かしこまりました。毎日15時にベッドメイキングが入りますので、その時間帯は使用できないですがよろしかったでしょうか?」


 受付の年配者の声はとにかく一定で、強弱すらなく、落ち着いた口調だった。

 不気味すぎた。


 そもそも、ベッドメイキング?

 あるところもあるとは思うが必要が無い。

 遠慮したい。

 完全プライベートにしたいところ。



「ベッドメイキングは無しにして頂きたくて……」


「それは難しい注文です。なぜなら、若い子たち、特に最近の子達は激しいので撒き散らしてしまうので、ヘヘヘヘッ、清掃を後々にしてしまうと、固まってこびり付いた物が取れなくなってしまうもので……ヘヘヘヘヘッ」


 この年配者が何を言っているのか意味がさっぱり不明だった。


「はい…」


「食事は朝と夜の2回。そちらにバイキング形式でご用意致しますので、ご自由にお使いください」


 俺から見て右手にフリースペースと共に、陳列された残りのご飯。


「あ、はい…」


「当店は他店と違い料理に力を入れているところもありますので、堪能できるかと……」


「わかりました……」


「では、1部屋をお二人で1週間ということでよろしかったでしょうか?」


「お願いします」


 そう言うと、料金は前金らしく支払った。

 値段は1週間で銀貨7枚。

 7万円ほど。

 ちょっと高いかな!?


「こちらがお部屋の鍵になります。ごゆっくりお寛ぎくださいませ」


 年配者はすりガラス越しに鍵を差し出した。

 アクリル製の棒のキーホルダーが着いていた。

 304。

 部屋番号だ。


 俺は鍵を受け取りその場を後にしようとすると


「言い忘れましたが、当店のアメニティは全てセルフサービスになりますので、あちらをどうぞ


 受付の横、左手には棚が用意されていて、そこにはシャンプーなどの石鹸類、髪留め、櫛が用意されていた。

 アメニティブース。


「モナここでいる物とって……」


 俺より早くアメニティ棚の前に現れていたモナが複数のアメニティを早くも手に取っていた。

 さすがはモナだ、アジリティはこんな身近な動作でも軽快だな。


「なに選んだんだ?」


 モナの手には石鹸類はもちろん女性が使用する物が手にいっぱいあったが、一つ奇妙なものを手に取り、眼光が鋭く開いた目つきで手に取ったあるものを恐ろしくまじまじ見ていた。

 それに、持つその手は小刻みに震えていた。


「おいおい、どうしたんですか? そんな顔して、まるでお化けにでも出会ったように……」


 覗き込んで、手に持っているものを確認。

 それは、俺とモナ、そして、この宿舎がどういった宿舎なのか人目で把握できるものであった、


 マジックカット。

 両手で摘まむように持ち、一方の手を手前、もう一方を奥へと縦方向に互い違いに交差させるように引っ張ることで最も力が集中した部分の穴が起点となり切れ目が広がり道具を使わず指だけで簡単に開封することができる。


 四角い形状と円を描いたでっぱり。

 円の直径32~36mmほど。


 コンドーム!!!


 ここはラブホテルだ!!




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