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第八十二話「新キャラ」


 海や港近辺に生息する鳥たちの声が穏やかに聞こえる。

 まるで、会話しているようにも聞こえるが、そんなことでは無いであろう。

 人間には到底訳の分からない会話の動機、主張、それが彼らの本来。

 港に上がる鮮魚を奪うつもりだろう。

 群れで作戦を立てて奪う算段を話し合っているのかもしれない。

 鳥たちのさらに奥に。

 ギラギラの太陽が水平線を引き立たせて、キラキラと反射。

 雲ひとつない晴天はこの場所にとても似合う。

 心地よい風が満遍なく吹く。

 塩分が混じり、少しねっちょりするが気持ちが良い。


 次第に近づく海というのは新鮮極まりない。

 海が身近にある住人にはわかることでは無いであろう。

 海と共に暮らす住人にとって身近すぎて、新鮮さを感じないからだ。

 初めて海を見るもの、久々に海を感じるものにとって、海というのは口を開けて、微笑みが自然と溢れるものだ。


 潮の匂い。

 お日様の匂い。

 魚の生臭い匂い。

 これは海の街では普通の匂いだ。



「アーサー見てー海よー!!」


 モナはテンションが爆上がりだった。

 なぜなら海が見えたからだ。

 トカゲの背中から乗り出して見渡す海は一望なのだろう。

 大の大人がここまではしゃぐとは中身は本当に子供のままのようだった。

 本当に……情けない。

 ガキが……。

 俺が海を見たところでそんなはしゃぐわけが無い。

 子供じゃないんだから。



「アーサーも見てーすごーい!」


 なびく髪の毛が視線を邪魔になっているのをお構いなくはしゃぐモナに可愛さを感じた。

 海を見ているより、君の笑顔が俺にとってのはしゃぐ対象だ。


「あそこ見て! 海がいっーぱい!」


「それにあそこも見て! 綺麗な街よ!」


 モナが指さして示したのは、確かに綺麗な街だ。

 俺の国も綺麗だがここも負けじと綺麗だ。

 透き通る青と白を基調とした、決して汚れがない街並みに見えた。

 海の近くの建物というのは塩害が生じるものだが、それも見えない。

 美しい。


 全く水と縁のない場所からのこの水と縁がありありの場所。

 天と地の差だ。


 センティアは中央の大きな青い塔を中心に落差のある建物がその周りを囲んでいる。

 青色は海をイメージしているのではないかと思われ、白は塗膜防水材が塗られていると思われる。

 それが白い原因のようだ。

 西側に面して海があり、東側に面して山が聳え立つ。


 海も山もあるということで食事の方も気になるところ。

 俺もはしゃぎたくなってしまった。


「おほほほー!」


 これは演技ではなく、本当に心の底から出た喜びだ。

 やはり、海と縁があまりない人間にとって、海というのは神秘的なのだ。

 それは肌身を感じた。


 俺の表情を見たモナは楽しそうに調和して、俺の方に抱きついてきた。

 お胸がボヨンっと乗っかった。


 ありがとうございます。

 相変わらずの豊満で。



 ※※※



「ゴォーン……ゴォーン……」


 センティアに住む者にとってこの鐘の音は日常茶飯事。

 聞き慣れてなんとも思わない。

 一日三度鐘が鳴る。

 それは、8時、12時、19時だ。

 朝の始まり。昼の始まり。夜の始まり。

 一日の始まりを示す、言わば音の時間というものだ。

 もちろん、時計は存在している。

 ただ、この街の住人はこの鐘の音を頼りに仕事、食事など、一日の行事を設定している。


「あら……今回の鐘の音は少し違う……うんうん。何が違うかって? 分からない? 全く違うよ」

「今のは朝8時の鐘の音。三回の中で一番甲高い音なんだ」


 街の中枢の高い党の頂上に設置されている3メートルほどの鐘がなっているのだ。


「でも、鐘を鳴らす職人さんはどうやって鐘の音を変えてるんだろう!? それって技術だよね。だってこの街に鐘は一つしかないんだよ……」


 果たして、この言葉は誰に対して言っているのか、自分でもわかっていない。

 なぜなら、独り言だからだ。


 腰ほどまでスラッと伸びた金髪。

 長いバング。

 一人の女性が十段程度しかない小さな階段に腰掛けていた。


「みんなこの鐘を音の違い分からないなんて、ほんとに不潔」

「綺麗な街に綺麗な鐘の音は重要……」


 長いバングが垂れ落ちて来る。


「ほんとに邪魔……なんで私こんな髪の毛長いんだろう……そろそろ切ろうかなー」


 何度もバングを耳にかけるが垂れ落ちる。


「鬱陶しい……」

「にしても……この石版ほんと綺麗……」


 金髪の彼女が見上げる高さにあるのは硝子の石版だった。

 直径およそ4メートル。縦に長い長方形。


「透き通る石版。 硝子ってところがまたいいのよねー」


 彼女は見とれていた。

 微笑みも見れて、まるで好きな人を見ている感覚のようだった。


「でも、私の名前ないね」


 硝子の石版には黒い文字で印字される名前。


「ところで、この石版ってなんだっけ? というか……私なんでここにいるんだろう……」



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