第八話「平穏な日常に訪れる緊急事態」
小鳥のさえずり。
「シャー」と川が流れる音。
天気がとても良い。
暑いくらいだ。
村のほとりには川が流れている。
透き通ったきれいな水だ。
きれいな川にしか生息しないと言われるヤマメやメダカが生息。
川がきれいな証だ。
他にも、その川を利用する動物は多く、シカや鳥などの小動物の水飲み場としても利用されている。
人間様もその一人。
洗濯や食用など様々な用途で使用されている水脈で村の住人の中でも誇れる川のきれいさだ。
現在は村の開拓もあって、水脈が村に引かれ、わざわざ川まで水を汲みに行かずとも蛇口をひねるだけで水が出てくる。
よくよくはガスや電気も普及出来ればいいが、それにはまだ時間がかかりそうだ。
なぜなら、大きな都市で言えば電気、ガス、水道はもちろん普及している。
それが当然の暮らし。
貧乏かつ田舎すぎるこの村ではどうしてもこれが限界だ。
まあ、命の水を使用できるだけでもありがたいことだ。それにお金もかからない。
今日みたいな暑い日などは蛇口を目一杯ひねって水浴びをするが、人も多い。
ひねるだけの水の量では物足らず川まで水浴びをしに行く若い娘たちもいるものだ。
そんな村では、これから七人の娘達が水浴びに出かけるそうだ。
「楽しみだねー水浴び」
「早く行きたいー」
会話が周囲に漏れている。
そんな会話はわざとなのか、たまたまなのか?
散歩をしている俺の耳に入った。
耳が数倍大きくなって聞き耳を立てる。
娘たちの周りを口笛を吹きながら何度も素通りしてみたり。
×××
七人の若い娘は森を歩いた。
森の先に川があるのだ。
日常会話で盛り上がる若い娘たちの中にはエバも確認できる。
小鳥が囀り、風が森の声を引き立てる。
なんて気持ちのいい。
そんな七人の娘の後を黒い影が追う。
俺だ。
茂みから茂みに猛スピードで移動させ、すぐさま体を隠す。それを繰り返す。
娘たちは気づいていない。
「ん……!?」
この生娘たちはなぜ手ぶらなんだ?
そんな人間観察を行いながら、後を追う。
そして、川に到着した。
いや、まさかな。
村の外れとはいえ、それは……
娘たちはすぐさま服を全て脱いで全裸になった。
「あっつー」
「服いらないや」
こんな場所であら大胆。
俺の予想は的中した。
おっぱいの話だが、ぺったんこやボンまでいる。
とにかくエロすぎる。
不注意だ。
そんな素晴らしい光景を覗いている茂みから光る赤い目。
娘たちを凝視している。
「キャッキャッ」っと水を掛け合ったり、押し倒している娘たちのおっぱいは揺れ動く。
絶景なり。
「えへえへえへへへへ」
水浴びを盗み見。
今に始まったことではない。
いざ本番に行けるという、そう言う場面になると勇気が出ず、こういう盗み見の時は堂々と行ける性格だ。
覗き見フェチ。
まだ、お毛毛が新卒の者もいるではないか。
鼻血が出そうだぜ。
というよりもこれは犯罪だ。
という認識はない。
微塵もなくとにかく目の前の欲望を全面に披露。
横乳、下乳、手ブラ、パツンパツンのおけつ、くびれ、うなじ、乳輪の色。
完璧だ。
サイコーだ。
それらすべてを拝借しながら、俺の息子はビンビンに立ち上がった。
しばらくその楽しそうな若い娘たちを監視していると、
「だれ?!」
娘の一人が言い放った。
「やべっ」
俺はすぐさま、さらに身を引くくし茂みに隠れた。
地面に顔を擦り付けるように低く、地面と一体化するように自然にオーラを消す。
「出てきなさい!」
「そこにいるのはわかっています。私は魔力を感じ取れますから」
どうやら娘たちの中には魔力感知が得意な娘がいたようだ。
おいおいマジかよー
終わった、俺終わった……
村を追い出される…神、英雄と崇められた矢先に犯罪者の汚名…
終わった……
「ハアァァ……」
俺は観念して茂みから出ようとした。
「いやいやすみません…」
と、出ていこうとした。
俺の言葉を断ち切る言葉。
「まさか魔力感知ができるやつがいたとはな」
隣の茂みから以前、倒したはずの山賊の残党が一人現れた。
俺ならこれくらい簡単に気づける人間性だったと思うが、水浴びに集中しすぎて真隣にいる山賊に気づかなかった。
やり過ごすため、再び姿勢を低くした。
魔物の毛皮を被った山賊。
「この間は変なじじいに邪魔されて仲間は壊滅」
「そのお返しにと言っちゃなんだが、弱いお前たち娘が孤立するのを、ただひたすら待っていたわけよ」
安心と驚きが頭の中をさまよった。
マジかー助かったー、逆にありがとー山賊さん。
てか、あいつらまだいたのかよ。
でも助かったー
娘たちの表情は険しかった。
村までは少し距離がある。
大声を上げても届かないだろう。
それにまだ、彼女たちの力では太刀打ちできないかも。
でも相手は一人。
行けるか?
「とりあえず一人だけでもとっ捕まえて拷問にかけてやる」
山賊は腰に携えた鉈を振りかぶる。
いやいや、やばいな……
これって助けるか?でも出て行ったら変態扱い。
どうするどうする?
やけくそ。
「待て!」
俺は考えた末、茂みから飛び出した。
あたかも今現れて、決して覗き見などしていない仕草をしながら。
「まだこりていないようですね」
「…おおまえは!!」
山賊は慌てていた。
喉の奥から悲鳴を苦しそうに出しながら怯えた。
「お前いつの間に!?」
堂々と出てきてやったが冷や汗。
横目で彼女たちの反応を窺うが、彼女たちは希望の星と言わんばかりの輝かしい瞳がこちらを窺っている。
「ヨシッ」と心の中で静かにガッツポーズ。
盗み見をしていたとはバレていない。
あたかも危機を察して今訪れたように見せかけることが出来た。
だが、山賊の様子がおかしい。
「ん?」
山賊は俺の肩に引っかかっている草や小枝を確認。
眉間にシワを寄せて注意深く確認してきた。
その視線を感じ取った俺はとにかく目は合わせなかった。
だがどうやら、俺の何か隠している表情を察知したようだ。
それは、冷や汗、泳ぐ目、挙動。
何かが引っかかると。
「…お前まさか…のぞ…」
最後の一言を発する前に山賊へみぞおちを殴って気絶させた。
一瞬で思いっきり、怒りを込めて、
今危なかった。
まさかのぞきをしていたなんてバレた時には人生の終わりを意味する。
山賊が雑魚でよかった。
泡を吐きあおむけで気絶する山賊を見て、お辞儀。
敵だが助けられたといっても良い。
せめてもの償いだ、命は取らん。
「ふぅー」っと一息。
娘からは歓声が上がった。
裸の彼女たちが駆け寄り抱きつく。
「アーサー様ありがとうございます」
「アーサー様がいなければ私たち…」
「おっ…おう…」
先日の残虐行為を目の当たりにしたこともあり、涙ぐむ娘たちもいる。
どれだけ心の助けになっているか、改めて重要さ、感謝の思いを感じ取った。
それとは裏腹にのぞきをしていて、たまたま現場に合流して山賊を葬ったことを懺悔しようとも考えたが心の奥底に静かに収めた。
ちょっと悪い気もしたが俺の名誉を守るためだ、仕方がない。
すまんね山賊さん。
そしてありがとう山賊さん
村での評判はこれ以上ないものになった。