第六十一話「心の中に現れた女性」
自分の意思とは反して、膝からガクッと崩れてしまった。
分身、武器の創造、下級炎系魔法の連発、王級 炎系魔法とさすがにMP切れが体にガタを起こしている。
二度目の人生ということもあり、魔法の効率化や利用性に関してはピカイチ把握していたが、年齢には勝てない。
いくら若返っているとはいえ、まだ老人だ。
よくここまでやっていた方だ。
ルーシーの力というものを借りれれば、もしかしたらこんなにへこたれる事もなかったろうに。
しくじったな……
正々堂々、約束してしまったしな。
自然と微笑んで、心から開放された気持ちになった。
ようやく終わったと。
暗闇の中、冷たい地面に体を任せた。
うつ伏せで横になった。
しばらくこうしておきたい。
体がダルすぎて動きたくない。
もう少しだけ……
自然と瞼が閉じていった――
×××
何分、何十分、何時間。
はたまた、数秒後かもしれない。
時間の感覚がまるで分からない。
俺はなぜ今こうしているのか……
【アーサー心の中】
目をパチリと開けた。
寒い。
暗い。
一体ここは?
ゆっくり体を起こした。
自然と体の痛みも気持ち悪さも無くなっている!?
いや、俺は寝ぼけているのか。
俺は森で一人で寝てて、、
ん? いや、ここは……
明らかに、さっきいた森では無い。
少しの明るさも光も感じとれない。
それに、匂いも音も何も無い。
何もかもが無の空間。
もう意味がわからなかった。
頭をフル回転させて、周囲の状況を確認しようにも、真っ暗で何も見えない。
もしかして、死んだ??
そんなことを考えさせられる空間だ。
1メートル先も分からない暗黒の空間で、俺はとにかく考えたが、突然起きた出来事に何がなんやら。
とりあえず、手探りで模索したが、何も触れることもない。
冷たい地面のみ。
特に平たい地面だった。
叩いたりもしたが、とても固い。
本当にここはどこなんだ?
正直怖い。
暗所恐怖症になりそうだ。
永遠に続くように感じる暗闇の先に何があるのかすら分からない。
そんなことよりも、意味のわからないこの空間早く終わってくれと、俺は頬をつねった。
どうやら、夢……では無い?
認識はあるのに、感覚がない?
死んでいない?
じゃあここは夢ってこと?
えっ? こんなリアルな夢ある?
俺は何度も感覚を確かめるように身体中をつねった。
やはり感覚は無いが、認識がはっきりしている。
もはや、夢なのか現実なのか分からないほどに。
すると、俺の背後から触れられる感覚がした。
両手で首元を包み込むような感覚だ。
俺は恐怖で動けなかった。
背後に顔を向けることもできなかった。
音もなく俺の背後に近づくもの。
恐怖が俺の肩に。
ところが、何だか見覚えのあるような、ないような匂い。
それに落ち着く感覚。
どこかで俺はこの後ろにいる人物に会ったことがあるという感覚に襲われた。
見たい。
一体誰なのか?
記憶を辿ろうにもどうも上手くいかない。
ただ、会ったことがあると思う。
感覚のみ。
あまりの居心地良さに全てを預けたくなった。
すると、後ろにいる人物?
俺に話しかけてきた。
「ゆっくりで、ゆっくりでいいんだよ」
どうやら、本当に人物だったようだった。
安心した。
もしかしてと考えたが、こいつは人間だ。
俺は耳を預けた。
「このまま冒険を……」
「あなたの思うままでいいよ……」
女の声。
これは確かなものだった。
なら首元に巻き付くのは腕。
ということは、背中に張り付く柔らかい感覚は胸だ。
「まだ、戦いは終わってないよ」
「でも、きっと大丈夫。この戦いが終わったら今度は石版を目指して……必ずうまくいく」
「せきばん……?」
「いま、あなたは力を取り戻したはず。これでまだ戦えるよ」
「二度目の人生では必ず成功させて……」
えっ? 何を?
俺は勇気を振り絞って後ろに顔を向けた。
だが、その動作をしている時には、体に密着する感覚も、匂いも無くなっていた。
彼女がいなくなったということになる。
俺はますます意味がわからなかった。
×××
俺は驚きとともに目覚めた。
辺りは真っ暗だった。
でも、先程とは違った。
匂いも、森のざわめきも、光も感じ取れる。
単純に夜の暗闇ということ。
俺は頬をつねった。
今度は感覚も意識も共にあった。
どうやら、さっきのはリアルに出来すぎた夢で、ここが現実のようだった。
夢なのに、いつまでも脳裏に残るこの感覚。
本当に夢なのかと疑いたくなるものでもある。
ゆっくり体を起こすと、何だか、体が軽くなっていた。
MP切れ?
いや、もはや満タンだ。
確信。
夢ではない。
別にさっきの女の言葉を信じるほど、俺はバカではないが、あらかた嘘では無い話と感じる。
分からないが、さっきの夢との関係性を探った。
でも、証明出来る根拠もない。
体が横になっていた為、休息ができた。
それで、MPが回復したのかもしれない。
そんな気がする。
もしそれが本当ならかなりの時間、眠っていたことになる。
それに、周囲を見ると周りにある樹木が全て凍っていた。
そして、俺は確信した。
まだ戦いは終わっていない。




