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第五十八話「浸食の誘いは凍結への力」


 俺の言葉はガバリオンの心に染みたようだった。


 雨が振る中、ガバリオンは真っ暗な空を見上げた。

 特にその視線の先に、何かがある訳でもなく、ひたすら、顔に雨がポツリポツリとうつだけ。


 自分の終わりを感じているようだった。

 絶望などは感じ取れない健やかな表情。

 毛並みもそこまで良いとは言えない。

 獣人族は毛並みで体調がわかると言われている。

 雨に濡れて毛並みなんてものは把握できないが、確実に彼自身に内面的ダメージをおっているように見えた。


 別に可哀想とは思わない。

 彼が決めた道。

 たとえ知らなくても、こんな融通のきく事には必ずしもリスクが生じることは彼も重々承知のはず……

 いまさら知らないと言わせない。



「右腕の感覚がねぇー」


 どことなく、言葉が震えているように聞こえた。

 顔に雨がかかり、その雫が目元を垂らす。

 それは、本当に涙を流しているように感じた。


 もしかしたら本当に……


「ならやめますか?」


「冗談だろ?」


 と、クスッと笑った。


 プライドが高く、誰からも指図されない世界で生きてきた可哀想な獣人族なのであろう。

 彼にとって俺の言葉が心に楽しみを植え付けたのかもしれない。


 涙を流しているように見える表情とは別に、表情も豊か。


 彼にとって戦いとは?

 生きがい。


「だが、もう少し待ってくれ……」

「もう少し、残りの時間を味わいたい……」


 やはり、彼は察しているようだった。


 一般的な過ごし方、接し方ができなく、阻害され続けた人生だったらのかもしれない。

 その結果、最後は死に向かう戦い。

 これほどの大好物を死の間際に味わう。

 それは彼にとってものすごく幸福なことなのだろう。

 それと共に、これ以上、戦いという好物を味わうことが出来なくなってしまうという悲しさ。


 彼は可哀想な人物だった。

 と、感じた。


「何時間でも待ちます」


「申し訳ない……」


 彼から聞いた初めての感謝を込めた謝罪、言葉も緩やかだった。


 彼の心情は分からないが、これまで生きてきた人生、殺してきた人の数、仲間や家族のことでも思い返す時間なのだろうかと俺は待つことにした。


 同情する気もないが、最後はお前の思う存分、今の俺の全力を捧げようと思う。


 待っている時間、やはり彼は空を見上げていた。


 この待ち時間、果たして策略なのかと考えたが、どちらでも良かった。

 俺は勝利を確信している。

 あとは、彼がどんな戦い方をしてくるかそれのみ。


 さあ、いつでも来れば良い。


 すると、彼から動きが見えた。


 彼の周囲2メートルの地面が一瞬にして凍結始めた。

 それは戦いの始まりと感じた。


 雨に濡れた刀剣の水滴を払うように刀剣を上下に一度振った。

 振った拍子に、斬撃が飛ぶように対角線に入る刀剣の道筋の地面が凍結。


 見えない斬撃。

 くらったら凍結することを確認。

 厄介だと思った。


「またしたな。人生の懺悔は終了した。これから俺の最後の戦いをお前に捧げようと思う。もしかしたら……いや、これはネタバレになるかもな。正々堂々、戦いに全てを注いできた人生、俺は後悔したくない。騙し討ちはしない真っ向勝負でお前を殺す」


 ガバリオンの表情は違っていた。

 素直に感じたからだ。

 それに、顔の右側半分が凍結していた。

 侵食が始まっていたのだ。

 もう、自分の意識で動くことは容易ではないだろう。

 それなのによく頑張る男だ。


「待ちくたびれました。どうやら気持ちが落ち着いたみたいですね。私も最初からあなたと真っ向勝負のつもりです。今度は騙したりしない。どちらかが死ぬまでやりましょう」


 言葉の終わりと共に、俺は剣を創造。

 最初に動きだしたのはガバリオンだった。


 何も動作はなかった。

 ガバリオンが俺に強烈な睨みを利かした次の瞬間だった。

 周囲1メートルの地面を凍結させていものが、俺の方まで侵食を始めた。


 バリバリバリと凍結していく地面が俺に襲いかかる。

 触れたら終わりなことはわかっている。

 すぐさま俺は距離をとった。


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