第四十九話「到着したけど、ここはどこ?」
俺とフォーはエレスティン王国を出て、村を目指した。
国の中は流石に、まだ辺りが見渡せるほどの明かりが灯っていた。
夜間の兵士の見張りや周回する兵士がいた。
街人は深夜ということもあり、あまりいないが、飲兵衛は確認できた。
国の中で魔物に乗って快速を飛ばしている俺たちを、兵士が何人も二度見してくるが、無視だ。
顔が認識できないほどのスピードで走っているから、兵士たちには一体誰が通ったのかすら分からないはずだ。
そもそも、俺が脱出したことすらまだ認知されていないはず。
防衛もままならないだろう。
今頃、牢獄に捉えられている俺の残像は消えて、見張りの兵士たちは慌てふためいていることであろう。
そして、俺たちは国の出入口の門の前にたどり着いた。
聳え立つ門は夜間ということもあり、閉まっていた。
高台に見張りをしている兵士もいるが、間髪入れずに聳え立つ門をフォーは軽々飛び越えた。
見張りの兵士と一瞬目が合って手を振ってやった。
やはり兵士は二度見した。
一瞬の出来事、夜間、ということもあり、兵士はなかったことのようにいつも通り見張りに着いた。
国を出た途端、大森林が待ち受ける。
またこの森を抜けるのか?
と、見飽きた森に嫌気を指したが進み続けることにした。
夜間の森は暗くて何も見えない。
だが、フォーは迷わず快速を飛ばした。
フォーは夜間視力に優れていた。
そのため、暗闇の場所でも確認できるのだ。
フォーの背中に乗っている俺は、フォーの背をトントンと優しく叩いた。
お前に期待している。
頑張ってくれという意気込みを届けた。
フォーの毛並み、意外と硬いな。
ハリネズミとまでは行かないが、固くてチクチクする。
乗り心地は悪くないが、もう少し改善が必要だ。
と、呑気に考えてしまった。
俺はこんな暗闇数メートル先も見えないから、全てをフォーに託す。
森を快速に飛ばしている最中、雨がポツポツと降ってきた。
その雨は徐々に激しくなり、一瞬のうちにザーザー降りになった。
フォーのスピードが早すぎるのか、雨が顔に当たって痛い。
腕で顔を隠しながら雨避けをした。
この一帯、雨など観測したことがほとんどないのに、こんな時に限って大雨。
雨男なのかもしれない。
それに森林の木々が雨にうたれて、雑音が少しうるさい。
周囲の音が聞こえないじゃないか。
タッタッタッと。
快速に飛ばしていたが地面がぬかるんで来ているのがわかる。
少しだが、フォーの快速も衰えているように感じた。
フォーの足も泥だらけになっている。
走りずらいだろうが、頼む。
×××
村・鍛冶場周辺
1時間前――
エレスティン王国でアーサーがまだモナとイチャイチャしていた頃。
村では平凡な深夜が訪れている。
夜行性の動物の鳴き声が聞こえ、これといって何も変わり映えがない。
フォーはいつものように、メイとメイの父親が住み込む鍛冶場の外で伏せて寝ていた。
異変を感じたのはその時だった。
森の鳥たちが一斉に羽ばたいたり、今までになかったにおいがフォーの嗅覚へたどり着いた。
念の為、森を詮索した。
暗い森の中、松明が複数確認できた。
数的に尋常ではないと踏んだ。
先頭から後方まで続く松明は正直どこまで続いているのか確認できないほどの長さだった。
つまりものすごい人の数だということ。
フォーは夜間視力が優れた魔物でもあるため、普段ではありえない甲冑を着た兵士が村の前方へ進軍しているのを目視で確認できた。
その異変を確認したフォーはいち早くアナへ伝えられた。
アナは村の上層部へ伝達し、すぐさま村人の避難と防衛対処の体制を行った。
×××
数十分前――
アーサーとフォーは村へ向かっている最中。
村では、大雨で整備の行き届いていない地面をグチョグチョ仕上げていた。
水溜まりもいくつもできていて、足跡が許多。
雨で音が多少掻き消されているが、耳をすませば音が聞こえてくる。
戦闘の指示の声。
剣が交わる音。
魔法が発射される音。
爆発音。
甲冑がドシドシと動く音。
悲鳴。
怒号。
命乞い。
物が燃える音。
息絶える声。
この戦場ではこのような音が聞こえる。
エレスティン王国戦闘部隊は歩兵を前進させ、騎馬隊を村の周囲に配置させ、遠距離から砲弾や射撃といった攻撃を行う、数で圧倒する戦闘方法であった。
一方、村人はただ待ち構えて剣術が得意なものを前方へ置き、後方から魔法が得意なものを並べて援護するという戦法。
互いの戦闘は拮抗しなかった。
×××
村へたどり着いた。
予定より三分早い。
十七分くらいで到着したようだ。
フォーから降りた。
俺は全身ずぶ濡れで辺りを見渡した。
ぬかるんでグジュグジュな地面が俺の足を沈ませる。
どこかおかしい。
それどころかここはどこだ?
本当にここは村なのか?
俺はフォーを一瞥した。
『ここが……村?』
『ここが村です』
俺には理解できなかった。
フォーも理解していないだろう。
なぜなら面影が全く感じ取れないからだ。
とにかく静か。
大雨で特に他の音は聞こえない。
燃えていたであろう家が、雨で鎮火されているところもある。
一部、燃えている家のおかげで周囲を少しだが確認できた。
でも、これではまだちゃんと確認できるとまでは言えない。
俺は息切れをするフォーの背中をポンっと叩くと、フォーは背を向けて再び走り出した。
『ありがとう』
ここが村だとすれば、明らかにおかしい。
一体何があった?
戦闘は?
敵は?
みんなは?
人の気配も感じない。
けど、ここで戦闘があったということ何となくわかる。
俺は最悪を考えていた。
戦闘音が全くと言っていいほど聞こえない。
もしかして決着が着いてしまったのか?
みんなはどうした?
空間認識魔法。
周囲をサーチ。
「……」
特に生物反応はなかった。
やはりここには誰もいない。
一体……
とりあえず、一歩踏み出した。
誰かいないか探した。
誰もいない中、思わず躓いてしまった。
そのせいで体が泥まみれになってしまった。
舌打ちして、新調の服に着いた泥を軽くてではらう。
石にでも躓いたか?
こんな暗闇何も見えない。
のちのちだが、村の地面を整備した方がいいな。
俺は脳裏にそんなことが浮かび上がった。
でも、思い返してみると、躓いた元凶になった物は感覚で石では無いと思った。
硬くなかったからだ。
なんだ?
と思って確認した時。
ピカン!
周囲が一瞬明るく光った。
ゴロゴロドッカーン。
どうやら雷が近くに落ちたようだ。
それも一度ではない。
何度も何度も雷が異様に落ちて、周囲を確認できるように照らしてくれた。
唖然。
驚愕。
俺の足元には歩く場所がない程の、遺体がころがっていた。
それに嗅覚を研ぎ澄ませば血液のにおい。
村には血液と遺体がそこら中に転がっていた。




