第四十七話「抱擁」
もう決めたことなんだ。
誰が来て俺を止めようと。
誰が来て俺に声をかけようが、もうこの国を滅ぼすことを決意した。
変更はない。
それがB型の末路だ。
A型だったらよかったのに。
自身の血液型に後悔。
だってこうするしかないだろう?
たとえ俺じゃなくてもこの選択にしたはずだ。
これが最善の選択。
この国を滅ぼすだけの力はあるはずだ。
ルーシーの力が俺には流れているから、そこには心配がない。
この国の兵士を一人一人殺すつもりはなく一瞬だ。
遠距離から破壊的な魔法を繰り出して、抵抗させずに終わらすことができれば、俺に抵抗すらできないだろう。
それに誰がなんのために国を滅ぼしたのか隠蔽もできる。
そのあと、村へ向かい、残りの兵を殺そう。
全てに方をつけたらこの国を出て旅を続けよう。
その時、幻滅しているモナも一応誘ってみよう。
一緒に旅をしないかと。
おそらく断られるだろうな。
むしろ、喋ってくれないかも。
でも、いいじゃないか?
君だって今まで何人も人を殺してきたのだろう?
それと比べれば、たった数万人の違いだろ?
100人と数万人、何が違うんだ?
この世界にはごまんといるだろ?
たかが、一国が滅びようと世界情勢はそう変わらないと思うよ。
俺のハーレム計画もここで終焉。
物語の終わりを意味する。
でも、大丈夫!
俺の知らない土地、街へもう一度繰り出して、そこで新たな人生を見つけるよ。
三度目の人生を歩むよ。
眼前に横たわるドワールは既に戦闘不能であった。
あと一発誠意を込めて殴ったらもう息絶えるだろう。
安心してくれ、魔法は込めない。
自身の体力的な力でやるから。
悪いが俺をおちょくった罰だと思ってくれ。
俺は右腕を思いっきり振りかぶり、ドワールめがけた。
さよなら……
「ドコンッ」
俺の目が霞んだ。
気のせい?
感触も違う。
いま目の前に誰かが……
目が霞んだ。
いや、やめてくれ。
俺はそんなことはしない。
勝手に目の前に現れて……
DVなんて柄じゃない。
やめてくれ……
俺とドワールの間に入って殴られたのはモナであった。
なんであいだに?
君が入り込んでいいところではないでしょ?
俺の強烈な一撃になんとか耐えている感じだった。
ジワジワ来る痛みだろう。
髪の毛が乱れて、頭を下げていた。
痛みに耐えるように歯を噛み締めていた。
左頬は赤く腫れて無惨。
女の子がこんな顔じゃあ今後どうするんだ?
俺は目の前の女の子の症状に、一体誰がこんな酷いことをしたのかと考えた。
周りにそれをできるのは俺しかいない。
俺がモナを殴ったんだ。
不可抗力だ。
俺が理由もなしに女の子を殴るわけがない。
そもそも何があっても女の子を殴るわけがない。
俺は少し脅えた。
女の子を殴ってしまったから。
ではなく、モナからの反撃が来ると思ったからだ。
でも、避けるつもりは無い。
しっかり受け止めよう。
これについては俺が悪い。
だから、思う存分俺に制裁を加えてくれ。
反撃されてモナの気が済むまで殴るといい。
そのあと、横たわる老害を殺して国を滅ぼそう。
いつでもいいよ。
いつでも殴り返してきても。
最悪ナイフで一刺し。
それでも許そう。
今のでモナには嫌われた。
あれだけ俺のことを止めてくれたのに、俺は聞く耳を立てなかった。
もう終わりだ。
俺は一人になる。
こんな辛いこと童貞以来だ。
この状況を知っているのは俺たちだけ。
どうせこの国は滅びる。
ならいっそのことモナもついでに……
そんな邪道な考えをしていると、モナは俺に詰め寄ってきた。
眉間にシワを寄せて、両頬が赤かった。
でも殴られたからではない。
イカっているのだろう。
痛いだろうけど痛がるそぶりすらしない。
モナの性格上、やり返してくることは決定事項。
性格荒いし。
けど、もう受け止めよう。
B型はもう終わり。
気持ちだけでもA型に……
俺はゆっくり目を瞑って受け入れる体勢に。
…ガバッ……
ポワン。ガシッ。
……暖かい。
お腹に伝わる暖かさは俺を包み込んでいる。
なぜここまで?
俺を暖めてくれる?
あんな酷いことをしたのに……
理解できない。
俺だったら決してこんなことはしない。
そんなに心は広くないから。
君は違うんだね……。
俺は正気が戻った気がした。
頭の中にあった色々なモヤモヤや考え、展望がふわーっとどこかへ飛んでいく気持ちだった。
いま置かれている状況とやってしまった罪に対してどうしていいのかわからなかった。
どうして?
どうして俺はここまで愛されているのか?
今まで童貞だった俺に対して、なんで今の世の中の女性はこう俺に対して優しいのだ?
あんな酷いことをしたのに。
許してくれるはずのないことをしたのに。
村の人たちもそうだ。
俺は俺の目的の為に動いていただけだと思う。
本心はそうだから。
けど、村の人をはじめ、皆おれを慕ってくれる。
俺を家族のように扱ってくれる。
こんな居心地の良いことが俺にあって良い物だろうか?
目を開けると、俺のお腹を抱きしめて離そうとしないモナの姿。
身長差が気になるところ。
まるでわがままな子供だな。
モナは何も言わなかった。
ただ俺のお腹を暖めるように俺を抱きしめてくれている。
愛情表現。
言葉がなくても穢れた心が洗われる気がした。
何も言わなくてもいい。
何も言わなくても俺は君の気持ちがわかる気がする。
先程まで考えていた滅ぼす。諦める。という考えはやはり間違っている。
そうモナから伝わってきた。
モナは何も発してこない。
この状況、俺はどうすれば良い?
俺が唖然としているとモナは言葉を発してくれた。
「辛いなら私が受け止めます」
受け止める?
DVをか?
そんなことできない。
「我慢もしなくても大丈夫です」
我慢?
俺は我慢していたのか?
「私はタフですよ。たかが一発殴られようとビクともしませんよ。だからいいんです。私に全てぶつけも……」
一体何を言っているのか俺には理解できなかった。
「これからは私がそばにいます。もしキツくなったら私に全てぶつけちゃってください。でも、節度は選んでくださいね。さっきのを何度も食らったらさすがの私も倒れちゃうかも」
モナは俺に顔を向けてニッコリ笑ってくれた。
俺はその笑顔の意味が少しだけ分かった気がした。
この状況。会話。
全て俺を想ってしてくれたことなのだと。
俺を慕ってくれる人に対してなんて愚かなことを。
守るものがいる限り、こんなところでちんたらしていたなんて俺はなんてことを。
村の人々だって諦めてるわけじゃないはずだ。
俺の帰りを待っているはずだ。
帰ると手紙で約束をした。
どうして俺一人だけ諦めてるんだ?
まだ可能性があるならとことんやればいいじゃないか?
それで結果的にダメだったら、その後考えればいいじゃないか?
ここへ侵入する時もそんな考えだったじゃないか。
なにを臆病になっている?
俺は自身に問いかけた。
モナの背中に腕を回して抱きしめた。
初めて女性を心から抱きしめる瞬間だった。
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