第四十六話「選択、決意しました」
「村を滅ぼすのですよ」
ドワールが放った言葉は俺の心をズキズキと痛めつけた。
俺は呆然と立ち尽くしてしまう。
足が動かなかった。
どうしていいかわからなかった。
目の前で腹を抱えて笑う男。
今すぐこいつを殺してこの国を滅ぼすという選択肢はどうだ?
性根が腐った者たちは生かしてはおけない。
でも、この事実を知らない人もいる。
ただ毎日を楽しく生きている、村の人たちと同じような人も必ず存在する。
そんなことは出来ない。
出来やしない。
こいつの言う通り、俺が馬鹿だった。
良く考えれば気づけたことだ。
気づいていた。
違和感を。
昨日、窓の外へ大勢の兵士が連隊を組んでいたこと。
明らかにおかしい兵の動き。
もっと注意深く見るべきだった。
拳をギュッと握って後悔。
なら今から快速を飛ばして村へ?
いや、だとしても確実に間に合わない。
半日のスパン。
とても追いつけない。
下手したらもう到着している。
モナは俺の青ざめた顔を見て声を掛けようとしてくれている。
今は感情がどん底に突き落とされている。
話しかけないでくれ……
「アーサー……」
モナにとって村の人達は無関係。
この話にも無関係。
なら、今は話しかけるな。
俺はドワールの選択肢について考えた。
ドワールが差し出した選択とは。
村人を人質に取るということ。
おそらく答えはこうだ。
①無詠唱の付与を手伝う。その代わり村は滅ぼさない。
②無詠唱の付与を手伝わない。その代わり村を滅ぼす。
「……」
選択肢の余地がないじゃないか。
俺はこれからどうすればいいのか。
およそ2500の兵。
仮に村の人々と戦争になった場合。
俺なしで勝機はあるのか?
無詠唱魔法。剣術。
共に成長はした。
魔法に関しては対抗できる……はず。
剣術は実際の兵相手に太刀打ちできると思えない。
それに国の戦闘兵なら戦闘のプロだ。
戦術。
作戦。
指揮系統。
防具に武器のレベル。
兵力。
どれをとっても敵わない。
村の兵力はおよそ100。
そのうち老人、女性、子どもを引いたらおよそ50。
2500対50。
圧倒的な力の差だ。
この人数、俺が仮に間に合ったところでも途中加勢。
おそらく、半分は殺られている。
俺が全てを相手にできるのか?
たとえ出来たところで、増援を送ってきて、エンドレスに戦争は終わらない。
長引けばこちらが圧倒的に不利だ。
俺の心はズタボロだった。
ドワールの提案通り、全てを委ねて無詠唱を与えるしかない。
でも、本当にこいつらは約束を守るのか?
本当に力を付与したら村を滅ぼさないという約束は確実なものなのか?
なら、俺はどうしたらいい?
俺はムカムカしていた。
目の前で笑う弱者に全てをぶつけたくなった。
弱者に対して馬乗りになってとにかく殴った。
殴って殴って殴り続けた。
感情などなく。
瞳に生気すら感じない。
俺の心も生気がなく、とりあえず目の前にいる弱者を無性に殴りたくなった。
魔法を使ってはダメだ。
直ぐに死んでしまう。
俺の心と体は完全に蝕まれているような気がした。
ドワールは声を荒らげながら腕でガードを試みるが、力と筋肉の差だろうか、簡単にガードが剥がれてしまう。
さらに俺はナイフで突き刺した右腕上腕二頭筋の傷口と手の甲を集中的に殴った。
汚い声だ。
それでも弱者はガードを続けるものだから。
地面にパンッと右手を添える。
地面が軟体化し、ドワールの両腕を縛り、地面に押さえつける。
これでガードも出来なくなった。
存分に殴ろう。
俺は袖をまくって、改めて殴る準備。
既にドワールの血液が飛び散って俺の新調の服にも付着している。
白衣も血液が付着して目立っている。
ドワールの鼻は折れて、鼻と口から血がダラダラ流れている。
でも俺はまだ殴り続けたいと思っていた。
そこで邪魔が入った。
俺を羽交い締めで静止を試みる細い腕。
この香りはモナだ。
さすがにやりすぎと思ったのか俺を止めに来た。
「もういい! やりすぎ!」
俺は咄嗟に振り払った。
「……」
なんで?
せっかく止めてくれたのになぜ振り払った?
後悔。
俺はちゃんと検査したことないから分からないが、おそらくB型だ。
B型の性格が丸わかりだ。
でもモナ、お前が言ったんだぞ。
殺すのね…と。
何度も。
なんで止める?
「今のあなたはあなたじゃない」
「冷静さを失ってる……」
「こんなことをしている場合じゃない」
ああ、冷静さを失っているさ。
俺でもわかるさ。
こんなことをしている場合じゃない?
こんなことをしなければならないの間違いだろ?
もう間に合わない。
こいつが言っていた選択肢と俺が今明らかになった選択肢は同類のことであろう。
けど、よく良く考えれば選択肢は全部で三つだった。
③無詠唱の付与は手伝わない。村は滅びる。エレスティン王国も滅ぼす。
我ながらいい選択肢に巡り会えた。
よし、そうしよう……




