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第四十四話「隠し部屋」


 夜間。

 住人が寝静まったことを確認後、俺たちは行動を開始することを決めた。


 その前に下準備ということをする。

 俺の着ている衣服にモナは不満を持っているようだった。


 だって着るものないし。


 見窄らしい。

 一応、冒険者になのだから着るものは意識して、という理由だった。

 モナによると、着るものによって冒険者のランクが見た目でわかり、相手に威厳を見せつけなければならないということらしい。

 俺のように見た目では分からない強さを持っているものは余計に見た目から入った方がいいとも言っていた。


 俺からしたら、あまり目立たず、実力で強さを見せるというのがかっこいいと思っていたのだが。


 やはり人によって違うようだ。


 モナから支給された戦闘服にとりあえず着替えた。

 それはとても良い代物だった。

 見ればわかる。


 それに案外目立つものでも無かった。

 むしろ良い。


 黒を基調とした服装。

 闇に紛れる暗殺者と言ったところだ。


 フード付きのロングコートを身にまといスキニーパンツ。

 どちらも耐久性に自信のある、魔物の革を主体とした混合革。

 熱や寒さにも強く破れにくい。


 なぜこんなものを持っているのか疑問に思った。


「だって可愛くないもの」


 それが理由だった。


 サイズ的には男女兼用のフリーサイズという。

 元々、モナが自分用に特注で発注した代物であったが、仕上がって確認すると、あまり可愛くなかったのでそれ以来一度も着ていないと話している。

 結局は可愛さを重視した現在のスタイルに統一しているという。


 戦闘に可愛さが必要なのかは分からないが、ちょうど捨てるつもりだったとも話しており、ちょうど似合う人物に着てもらってモナは喜んだ。


 色は好きだ。

 けど、こんなの今まで来たことがない。


「でもなんかパツパツしてて動きずらい」


 コートの裾を持ち上げて無駄に長く、硬い革質に俺は文句を言った。


「もうちょっと動きやすい服装はなかったのか?」


 用意してもらった身からありえない言葉を口走ってしまった。


 モナはそれに腹が立ったらしい。


「これものすごく高かったんだからね!」

「金貨2枚だよ! 2枚!」


 モナはほっぺをぷくーっと膨らませ怒りを向ける。


 ならなぜ着ない。

 可愛くないのであれば、納品する前に校正ゲラをちゃんと確認しろと俺は反論したくなった。


 だが、ここで反論したらせっかく用意してもらったのに申し訳ない。


「でも、アーサーにとても似合ってる」

 モナは笑顔で言った。


 その褒め言葉に脱ぐことが出来ず、笑顔を裏切ることは出来なかった。


「ありがとう……」



×××



 王宮の廊下には小規模の照明が照らされているだけ。

 完全に真っ暗というわけではなかった。

 それに窓から差し込む月の光が闇を照らしている。


 防犯対策にと考えられているのだろうか、照明を照らす意味。

 そのおかげか、すんなり誰にも出会うことなく、睨んでいる部屋の前へ到着することが出来た。


 そこは王宮の最北部に位置する。

 この部屋だけ独立された場所だった。


 明らかにこの部屋だけおかしい。

 周囲と部屋の中の様子を窺いながら、俺はゆっくりドアを開けた。

 鍵ば特にかかっていなかった。

 15センチ程開けて内部を確認し、人がいない真っ暗な部屋。


 トラップも特になし。

 俺たちはそれでも警戒しながら部屋へと潜入。


 真っ暗で何も見えなかったため、壁に設置されていたスイッチに手探りで場所を当て、手をかけた。


 暗闇から明るい部屋へ変わったため俺たちの瞳孔は小さくなった。

 目を細くして瞬時に慣らす。


 明かりがつくと、そこは違った。


 モナの部屋のように中世ヨーロッパの家具などはない。

 そもそも家具がほとんどなかった。

 あるのは本棚と本棚に並ぶ多数の書籍。


 現代的な作りの部屋。

 壁はコンクリートで固められ、この部屋だけ明らかに様子が違った。

 ビンゴだと。


「何この部屋……」


 モナは見たことない部屋の作りに戸惑った。


 ここが誰の部屋なのかすぐにわかった。

 先程、書籍しかないと言ったが、隅っこにもう一つあった。

 木製のコートハンガーに全く同じ種類の白衣が三着掛けられていた。


 全く違う部屋に何も無い部屋。

 ミニマリストの部屋だと確信した。


 だが、このコートハンガーをよく見てみると、掛けるところが全部で四つ。

 かけられている白衣は全部で三つ

 ということは可能性として、四つ目の白衣は本人が来ている。

 ドワールの部屋だ。


 明らかに怪しい一室。

 俺は本棚に近寄った。


「この奥だ」


「この奥?」


 俺は並ぶ書籍全てに身を通してた。

 左上にある一つの書籍に目が止まった。

 その本の背には【無詠唱の歴史】と名ずけられていた。

 なんという陰湿。

 俺はその書籍を引くと、明らかに書籍の重さではなかった。

 機械的な「ガチャ」

 音とともに本棚が自動でスライドしていった。


 よくありそうな隠し部屋。

 なんてベタな作りだ。


 地下へと続く階段が姿を現したのだ。


 モナと目を合わして、俺は部屋の明かりを消した。

 暗闇の中、階段を下った。


 どこまで続いていて、どこに続いているのかも分からない漆黒の空間は少し恐怖だった。


 道中、あまりの暗さに階段を踏み外そうになったが仕方がない。


 明かりを灯すことも考えたが、地下にいるかもしれない人物に気づかれる可能性があるため、それは選択肢から消えた。


 そこはモナと助け合い、体を密着させながら慎重に下っていく。

 体の密着によりおっぱいが左肩に吸い付いてきたが、緊張感を何とか保つように俺の股間に呼びかけることに成功。

 勃起はしなかった。




×××




 地下深くの研究施設。


 やはり不気味だ。

 研究に必要な機材が多数並び、薄暗い。


 中央にメインとなる手術台二つ構えており、そこには人が横たわっていた。

 どうやら遺体のようだ。

 生気がない。

 色は青白く、死人というのが辺りは暗いが分かる。


 遺体は全部で二人分。

 全裸で男女の遺体。

 男は40代程度。

 女は20代前半と若く見える。

 その遺体のそばに立ってメスや鉤を手に、腹部を解剖しているドワールがいた。


 人体解剖? 人体実験?

 でもしているのだろうか?


 俺とモナは暗闇の中、何とか研究室に辿り着くと、機材の陰に隠れてようすを窺っていた。


 一気に突っ込んで終わらすのも有りだが、とりあえず状況を窺ってみることにした。


 誰かと話でもしているのか?

 ドワールは話している。

 多少距離があるのと、声が小さいため聞こえづらい。

 でも、周囲に誰もいない。


 耳を澄ませて観察すると、どうやら独り言のようだった。


「よく頑張りました。これで終わりですよ」


 俺とモナはアイコンタクトして、もう少し待ってみようと決めた。


「あなた達のソウルはもうこの世にありません。もう働くことも、傷つくことも、国のために命を捧げることも無いのですよ。よく頑張ったのです。もう誰の物でもないそのソウル、私にお譲りください」


 ドワールはこの二人の遺体に話しかけているようだった。

 手振り身振り加えながら。


「ん? あなた達のお声聞こえましたよ」


 ドワールは遺体の口元に自身の耳を当てて遺体の話を聞いていた。


「そうですか。それはありがたい。そのつもりでしたよ」

「そちらのお嬢さんはどうですか?」


 今度は女の遺体の口元に耳を近づけた。

 そして、何度も頷いた。


 当然だが、遺体の口は動いていない。

 一瞬、念話でもしているのかと考えたが、そもそも死んでいる者に対してそれはありえない。


 遺体が喋ることもなく。

 俺達には聞こえない。


「そうですか。ぜひ使って欲しいと」

「ありがとうございます」


 もしかしたらドワールには遺体と会話のできる能力を持っているのかと疑いたくなる。

 または、子供がおままごとなどで人形に話しかけるように勝手に操作しているのか。


 どちらにしろ不気味で気持ちの悪い。


 その気持ち悪さこそ、モナの大っ嫌いという意味なのかもしれない。

 俺は納得した。


 モナの表情を窺うと青染めていた。

 遺体を見てなのか、ドワールの気持ち悪さを見てなのか分からないがどちらにしても気持ちが悪い。


 さすがに、このまま見ているだけでは埒があかないと思った俺は、突撃することに決めたが。


「お二人の了承を得ても得なくてもどの道やるつもりでしたがね」

「お二人の了承をせっかく得ましたので、力の限り進めたいと思いますよ」

「では、始めますよ」


「人間ソウル鉱石 人間軍器の製作」




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