第四十三話「お風呂っていいよな〜」
作戦実行時間まで時間があった。
それが理由だ。
部屋には個人のバスルームがついていた。
さすがは王宮と言ったところだ。
壁が大理石で固められたお風呂はピカピカと光って高級感を漂わせる。
一部、ガラス張りの奥には竹林が植えられている。
部屋の中でも自然を味わえるという娯楽だろう。
バスタブもよく見ると大理石でできている。
バスタブ自体は地面に埋め込まれているタイプではなく、独立しているようだ。
なんとオシャレな空間だ。
そういえば、廊下は絨毯ではっきり見えていなかったが
ピカピカ光ってた気がする。
もしかしたら至る所、大理石でできているのかもしれない。
さすがはお金持ちと言ったところ。
俺は敵の巣窟にもかかわらずのんびりした表情。
お湯が溜まったバスタブに勢いをつけてザブーンと浸かった。
その勢いで、ものすごい水量がバスタブから溢れ出て、浴槽の床を海にした。
村にはないこんな娯楽を楽しまなければもったいないと子供のようにはしゃいだ。
別にいいじゃないか。
人生でこんなことないかもしれないのに。
最初で最後になるかもしれないだろう。
俺はお湯に浸かって「あぁ~、極楽極楽」
定番の言葉を発した。
気温、体温とお湯の温度の差が大きい時は、瞬間的に筋肉が緊張するため、お腹の底から「あぁ~っ」と声が出てしまう。
そんな現象のようだ。
貧困な程、お湯に浸かるという習慣がないという。
もちろん種族によってもそうだ。
人族のある金持ちにとってお風呂というのはやはり娯楽の一部として扱われていると聞いたことがある。
理由としては簡単だ。
気持ち良いから。
この感覚を絶対に味会うべきだと俺は常々思っている。
もちろん俺も毎日こうやって気持ちの良いお湯に浸かるということをしているわけではない。
一度目の人生でもほとんど入ったこと無かったし。
俺はバスタブに背を任せ、ぐったり浸かった。
あまりの気持ちよさに目を瞑った。
モナが告白したこと思い返した。
あの言葉。
あの表情。
あの感情。
あのドキドキ。
あのおっぱい。
モナの体。
モナエロい。
モナとやりたい。
俺は次第にエロい方向に考えが進んだ結果。
半勃起した。
相手が一方的に感情を抱いてきた時、抱かれた側も意識して次第に好きになる感情を聞いたことがある。
それが今の俺なのかもしれない。
さらに湯船のお湯を見てみると、ピンクに光る物がそこら中にお湯の中を漂っていた。
これは?
モナの髪の毛。
俺は手に取って、鼻の下までお湯につけてみた。
そして想像。
モナの髪の毛。
モナのにおい。
モナの浸かったお湯。
モナの汗が染み込んだお湯。
モナとある意味一緒にお風呂。
俺はフル勃起した。
そして、それを上下に擦った。
×××
まだ、お風呂での運動の後遺症で、脱力感が体を襲う。
お風呂から上がるとレストルームが隣に存在。
いわゆる洗面所だ。
ここでモナはお化粧などをするのだろう。
化粧品やらが整備されて置いてある。
どんなものを普段使っているのか気にはなったが、見たところで分からないのでそこはスルーした。
女の子の部屋というのは一体どんなものが置いてあるのか気になっただけだ。
周囲を見渡したあと、脱ぎ捨てられた下着や服を発見したが、ここは手出しはしないでおこう。
本当の変態になってしまうからと自分に言い聞かせた。
大きな鏡に自分を映した。
そういえば、村に鏡はなかった気がする。
いや、でも女性陣は持っていたか。
自分の身なりを正すために小さいものを持っていた気がする。
俺に鏡は必要なかった。
なんせ男だから。
そういえば、ちゃんと自分の顔を見た事なかったな。
水たまりに映る顔や川に映る顔。剣などの金属に映った顔を見たことはあるが、どれもブレてちゃんと見た事がなかったな。
村での俺の評判はすこぶる良い。
ということは俺は生まれ変わった人生。
もしかして容姿が激変しているのではないかと俺は予想と期待をした。
そして、鏡に顔を近づけて細かくチェックした。
64歳の顔。
やはり若返っていた。
以前の64歳の頃の俺だ。
もちろん自分の体に顔。
若い年代から付き合っている俺のことだ。
昔のことはちゃんと覚えている。
シワやシミはあるが肌のハリが良くなってきている気がする。
触り心地も良い。
体の筋肉も初期と比べて倍増している。日々の鍛錬のおかげのようだ。
俺は顔を触りまくった。
髪の毛にもコシとハリが戻ってきているように感じる。
禿げていない。
白髪も多少なくなっている。
髭は無造作に伸びているのを気にした。
これは剃ろう。
鏡を見ずに毎日刃で剃っていたから剃り残しも目立つ。
絶対に剃ろう。
それにしても、髪の毛が鬱陶しいな。
俺の今の髪の毛は長い。
ちょくちょく、エバに頼んで切ってもらってはいたが、これでもだいぶ長い。
なんせ、モナと同じくらいの長さがある。
黒髪セミロングだ。
後ろで束ねるのもいい。
ただそれでは陰キャ感丸出しだ。
それに清潔感がない。
モナを目の前に身だしなみはちゃんとした方がいいと俺は考えた。
それに正直、髪型に興味はないが人生で初めて自分で切ってみようと決意する。
引き出しを開けるとハサミが入っていた。
特に髪の毛を切る用のハサミではない。
文房具用のハサミであったがそれを手に取った。
×××
リビングでモナは武器の整備をしていた。
主な武器はダガーナイフ。
切れ味鋭く研いでいた。
ガタン。洗面所の扉が開いた。
「お風呂ありがとうございます」
こんな豪華なお風呂を使わせて頂いたことに感謝。
ひとつ屋根の下。
共同生活をしているのではないかと思わせるように、俺はすんなり言葉を交わした。
「全然好きに使っていいわよー」
モナは俺の方に顔を向けた。
そして、凝視した。
長かった髪の毛はバッサリ切られた。
オールバックのダンディーな老害へ変貌。
サイドは刈り込まれ、多少のカールがかかった髪。
微妙に崩れて垂れた前髪がダンディーをさらに引き立てる。
髭は全剃り。
「どうしました?」
この時、モナはすぐさま顔をずらして見ないようにした。
あからさまな顔のそっぽ。
俺という好きな人に対して、その対象が激変して更にかっこよくなるということは、もっと好きになるというだろうか?
単純に顔をずらしたのはかっこいいと思ったからであると俺は感じた。
「髪の毛、それにお髭も切ったのね」
「ああ、どう? 似合う?」
モナは似合うと言ってしまいたいが、血液型がB型なのかもしれない。
素直になれていない気がした。
目をキョロキョロさせて、髪の毛を指でいじっている。
「まあ、まあ少しは若返ったんじゃないかしら……」
「でもまだまだね」
どうやらこの姿は若返って見えるようだ。
実際にはそうなのだが、モナには話しても良いだろうと考えた。
そして、俺の体に起こっている異常について話した。
×××
モナは納得した。
納得したと言うより驚きもしなかった。
人生が若返ることを聞いて逆に期待を持っていたようだ。
モナの心情として、これから一緒にいることによって俺の若かりし頃の姿が拝見できるという意味であろう。
その期待をワクワクしながら平然と話を聞いていた。




