第四十話「だって、本人って知らなかったから~」
洞窟での戦いからそれほど日は経っていない。
ガバリオンの記憶にも新しいはずだ。
もちろん俺にも新しい。
予想通りガバリオンは生きていた。
そう簡単に死ぬレベルのやつではないと思っていた。
だが、それ相応のダメージも受けているようだ。
ガバリオンの体には至る所に包帯が巻かれていた。
まだ、ベッドで安静にしていなければならないのでは?
そんな包帯の巻かれ方だ。
包帯には無理に動いた拍子に傷口が開いたのだろう。
血が滲んでいる箇所もある。
それほどの重症を負いながら普段通り歩いている。
さすがは獣人族。
タフさが物を言う。
あの時、洞窟が崩れる中で見捨てた身。
あちらは見捨てられた身。
先方からすれば恨みを買っていることであろう。
それはガバリオンの表情にも窺えた。
なぜなら、常にイライラしているのを感じ取れるからだ。
それはあいつの性格の問題かもしれないが。
その怒りの感情の半分は俺に対して向けられていることは間違いない。
おさらいすると、やはりこいつに俺が目の前にいるということは決してバレてはいけない。
今更この長い廊下を引き返すにも怪しまれることに違いない。
やることは一つ。
平常心を保ちながら、不自然のない動きでやり過ごすしかない。
ただ、待てよ。
甲冑で顔と体が隠れているとはいえ、あいつは獣人族。
嗅覚は鋭いのでは?
バレてしまうのでは?
ガバリオンとの距離およそ30メートル。
俺は甲冑の隙間からガバリオンを一瞥。
どうやらこちらを見ているようだ。
鼻をピクピクさせているのが窺えるが、
ガバリオンとの距離およそ10メートル。
どうすれば……
俺は下っ端らしく廊下の端に身を寄せ敬礼。
俺の前を通り過ぎようとしていたが、
「おい、そこの兵」
「はい!」
俺の体は直立した。
「お前のにおい……あいつに似ている……」
「……」
俺は声を発することが出来なかった。
バレた。
こうなれば再び戦うしかないのか?
右腕を構えた。
「……」
突然扉が開いた。
「ちょっとガバリオンさん!」
ガバリオンが言葉を発しようとした瞬間、静止するように割り込んできた声。
ガバリオンはその声の主に顔を向けた。
不機嫌そうに。
「あ?」
その声の主は部屋から出てきたモナだった。
「どこへ行くの? そろそろ会合の時間よ」
「会合?」
会合とはなんだ?
と、頭の中で記憶を探っている。
「そう。 か・い・ご・う」
ガバリオンにも分かりやすくスローリーに話した。
小馬鹿にしているのが感じ取れる。
「13時。 また遅れて怒られるわよ」
「……今から行くところだ。いちいち指図するな」
ガバリオンは完全に会合の存在を忘れていたようだ。
どれくらいの頻度で開催されているのかは分からないが、会合ならしょっちゅうやっているのだろう。
国の治安や今後の展開について一部の王族を含めて行うのでは?
「うっざっ 何その言い方!」
「せっかく教えてあげたのに!」
「俺は頼んでねー」
お互いに言い合いになっている中、ガバリオンの頭の中に俺の存在は消えているようだった。
「私は別に出席しないからいいけど、あなたが毎回遅刻するものだから、どうにかしてくれって上からうるさいんだから!」
「少しは私の身にもなってよね!」
ガバリオンはたじろいだ。
すこぶる会合というつまらない会議が嫌いなようだ。
それにどうやら遅刻の常習犯でもあるようだった。
単に嫌いだから遅れて出席していること。
時間を把握することができないこと。
彼は脳筋に近い。
それは見た目でもわかるように、いちいち話し合って進めると言うよりも、何も考えずに真っ向勝負というのがガバリオンスタイル。
それが会合という陰気臭いところに嫌気を指しているようだ。
自身の脳裏の記憶から抹消されていた会合という言葉は、モナによって再び呼び起こされた。
俺はモナのナイスなアシストにさらにプラスの一撃を加えようと発した。
「ガバリオン様。あいつとはもしかして今朝捕らえた老人のことでしょうか?」
「あ? そうだが……」
ガバリオンは俺を睨みつけて、鼻を近くまで寄せて嗅いでくる。
「でしたら、先程までその老人の見張りをしていたので、その時ににおいが染み付いたのかもしれません」
苦し紛れだが、しょうがない。
もう頼むから行ってくれ。
「においが不愉快な様でしたら後ほどシャワーを浴びて洗い流します」
ガバリオンは俺の甲冑の隙間から瞳を覗き込む。
目が揃う。
俺は冷や汗が出てきた。
ここで目を逸らしたら負けだと考えた俺は、自信たっぷりの眼光で睨みつける。
そして、モナが再び。
「ちょっと早く!」
「あと、1分しかない!」
ガバリオンは舌打ちをすると、方向転換して廊下を歩いていく。
「早くシャワーを浴びてくれ。俺はそのにおいが大っ嫌いなんだ」
モナを睨みつけると、
「お前は俺の教育係じゃない!」
そう言い放つとガニ股で歩き出した。
「うっざっ、なんなのあいつ」
モナは怒っていた。
とりあえずは一安心。
何とかバレずに事を進められそうだ。
俺はモナにお辞儀してその場を廊下を歩き出した。
「ねえ、あんた……」
俺を呼び止める声。
できればモナにもバレずにいきたいところ。
「あんたさっき老人の見張りをしていたって言っていたわよね?」
「……ええ、そうですが」
モナはモゾモゾしていた。
少し顔を赤くしながら俺に問いかけた。
「彼は……その…元気にしてた?」
元気にしてた? とは?
ん?
俺はその発言が疑問を抱いた。
幽閉されているのに元気なわけってどゆこと?
「元気と言われましても、牢獄に入っておられますので、決して元気ではないかと……」
「あっ……そう……」
は?
何が言いたいんだ?
モナは股に両手を挟んでモゾモゾ。
「ちなみに私のこと何か言ってた?」
なぜ?
「いえ、特には……」
「そう……」
モナの顔は眉尻が下がり寂しそう。
ひょっとして俺の事を心配しているのだろうか?
俺は咄嗟にこの場の空気を変えるため嘘をついた。
「あっでも! そういえば」
モナが反応した。
「モナさんとはまたちゃんとお話したいと言っていたような……」
「えっ!」
モナは嬉しそうに口角が上がった。
「私ももっとあの人と話したいと思ってたのー! それでそれで!」
俺に顔を近づけて笑顔で次の言葉を待っている。
なんと楽しそうな。
近づいた時に風と一緒にモナの良い香りが香ってくる。
これが女の子。
「あ……えーっと モナさんのことは好きと言っていました」
「なので手出しはしないでと言っていたようなー」
「えええっ!!」
モナは両手を頬に当てて顔を隠した。
「手出ししないでって……わたしまだ誰にも手出しされてないよぉ」
顔を真っ赤にしてその嘘の言葉を噛み締める。
俺は目を細くして言葉の誤解に唖然とした。
間違いない。
こいつは処女だ。
指を回しながらモジモジと。
自分の世界に入り込んでいるモナを後に、こっそりその場を離れようと俺は抜き足差し足で廊下を歩いた。
モナから10メートルほど離れることに成功した時だった。
モナは現実に戻ってきた。
「ちょっとどこへ行くの! まだ話の途中!」
俺に詰め寄り強引に俺の左肩を掴んで引いた。
あまりに急すぎる力だった。
「もっと聞かせなさい!」
モナの強引ずきる引きの強さに俺は体がよろけてしまった。
甲冑の重さもあっただろう。
兜が頭から外れ、ドサッと床へ落ちてしまった。
するとモナは俺の顔を確認した。
目を見開いて口がぽっかり。
この世のものとは思えない顔。
自身の恥ずかしさ、プライドが一気に砕け散った。
なんせ、張本人を目の前に本人の話をしていたからだ。
ぽっかりと空いた口に見開いた目。
変わることの無い表情のままだが、俺はゆっくりモナの瞳に俺の瞳を合わせた。
「やっやあ……モナ……えーっと……わたしモナのこと好きですよ。アッアハハハハ」
俺は嘘の笑いで誤魔化した。
茹でダコのように真っ赤になったモナの顔。
急激に変化しているのが窺えた。
真顔→驚き→恥ずかしい→怒り
様々な表情をお持ちで。
バチン。
廊下に響いた音はとても爽快な音だった。
【ジャスミン(作者) 身近なニュース報告欄】♯21
PV数を増やしたいのですが、何時頃に投稿したら皆さん見てくれますか?
小説家になろう一番の悩みどころですw




