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第四話「襲撃と転機」


 女の子の名はアナ 4歳。

 アナは俺が4年前に地面から降臨した同時期に生まれた赤ん坊。



 鍛錬で伐採した丸太を椅子替わりに俺たちは座った。

 アナの汚れた手足を俺の魔法で洗い流し、簡単な風系魔法で乾燥。

 透き通った綺麗なセミロングの金髪がなびく。


 4歳の時点で顔が整っているアナに対して、俺は十何年後良いものに育つと考えながらも風を当て続ける。

 ある程度乾いたところで、お昼にした。

 ひとつ屋根の下で一緒に暮らす女性達に、今朝作ってもらったおにぎりだ。

 全部で二つ。

 一つはアナに差し出した。


「ん…」



「おじちゃんいいのー?」




 アナの満面の笑顔に俺思わず視線をずらした。

 こんな子供に性意識を感じる訳では無いが少し照れた。

 かわいい。



「どうぞ」



 アナの手つきが早かった。

 一瞬のうちにおにぎりを手に取りアナは大きく口を開け、一口頬張った。

 俺は思わず笑顔に。



「こんな大きなおにぎり食べたの初めて」



 アナはニッコリ。

 口の周りに米粒を数粒つけてまたそれがかわいい。



「たかが、おにぎり一つで大袈裟だなー」

「普通のおにぎりだぞ」



「塩加減、中身の具もちゃんと入っててそれに私が食べるものより数倍大きいもん」



 その説明は普通のおにぎりだと言いそうになったが、

「私のお家はご飯を毎日食べてないから」

「こんなに大きくて美味しいおにぎり初めて」

 笑顔―



 俺はもうひとつのおにぎりを頬張った。

「そうなのか?畑とかも立派で食べることには困らない村だと思っていたけど」



「でも私のおうちは貧乏なの」

 アナは幸せそうな笑顔で言い放った



 俺は食べるのを静止して手にしているおにぎりを確認。

 この村で普通にご飯を食べて、寝て、というごく普通のことが当たり前ではない村人もいることを俺は改めた感じた。

 自分の置かれている状況がこの村にとってどれほど贅沢なものなのか。



 アナがおにぎりを食べ終わり、手に付いた米粒を一粒も落とさず食べる。



 俺はどことなく申し訳なかった。

 持っていた食べかけのおにぎりをアナに差し出した。



「おじちゃん食べないの?」



「ああ…私は鍛錬してるからお腹が空かないんだ」



「ありがとー」



 かわいい笑顔で食べかけのおにぎりを頬張るアナ。



×××



 おにぎりを食べ終わるのを確認。

「それでなんでずっと見てた?」



「それはおじちゃんが神様だから」



 唐突の答えに俺は吹き出してしまった。



「村のじいさんにも言ったが、私は神様ではないんだ」



「でも、村のみーんなが神様のおかげって言ってたよ」

「魔物から襲われることも少なくなったし、ご飯も前より食べれるようになったよ」



「それは村人みんなが頑張ったからなんだよ」

「私はその頑張る方法を教えただけだよ」



 アナは目をギラギラさせて言った。


「神じゃん!!」


 俺は再び笑った。



 確かに昔よりこの村は裕福になったかもしれないが、この子が言っていたようにまだまだご飯をまともに食べれない子供もいることを再認識。



「それでその神様に御用とは?」



「えっと…私に魔法教えてください」


 俺は子供に魔法は早い。

 そんな親心を少し抱きながらも承諾。



「いいよ」


「やったー」

 アナはジャンプしながら喜んだ。



 毎日ご飯を食べれる状況下でない子供が、それでもいつも笑顔でいることができるこの村は本当に美しい。

 この村には精一杯の恩義をしよう。

 


 さっそく魔法の特訓に入った。

「魔法の経験は?」



「ありません」



「見たことは?」



「村の人たちが使っているのを見ました」



 一人丸太のに座り指導する俺。

 軍の歩兵のように起立するアナ。


 見たことあるが魔法の経験なし。

 4歳の子供に魔法の特訓、あまり聞いたことがない。

 子供は魔力量が少なく、練習をしようがすぐにMP切れを生じてしまう。

 あまりおすすめしないが彼女が望むのだから付き合ってやろう。



 魔法を使う前に魔法の基礎知識を教えた。



「魔法というのは人それぞれ魔力量というものがあり…」



 魔法は人それぞれ魔力量がことなり、それにより術の大きさ等も変わってくる。

 もちろん得意ジャンルの魔法もそれぞれ違う。


 自分にあった魔法のジャンルとレベルを見ながら駆使するのが魔法の基本だ。



×××



 一ヶ月後―

 ほぼ毎日のように同じ時間を同じ場所で俺の教えを解きながら魔法の習得に励んだ。

 たが、一向に上達しない。



 アナは右腕を突き出し、自身の魔力を右腕に集まるように意識し、魔力を出そうとするがいつもスカってしまう。



 それでも、何度も何度も。

 アナは魔法を出そう試す。



 それを真剣な面持ちで眺めていた俺は立ち上がって。

 アナと同じ目線に立ち言った。


「特訓から一ヶ月 水、炎、土、雷、風、どの系統も一向に上達しない」

「上達しないというか魔法その物を発生できていない」



 アナは涙目に。



「もしかしたら君に魔法の才能は無いかもしれない」


 その言葉がアナの心に突き刺さる。



「ごめんなさい…」



 俺は真剣な面持ちから表情を柔らかくした。

 アナの頭をポンッ。

「謝ることないさ。魔法を使えない人なんてざらにいるからな」



 アナはとても悔しそうだった。

 村のみんなが魔法に目覚め、村の助けとなっている状況下で私だけ何も出来ないのかと、



「まあ、まだ君は4歳だから、もう少し大人になれば魔法を使えるようになるかもしれない」

 俺その言葉はアナにとって皮肉に聞こえるだろうと考えた。


 この一ヶ月付きっきりで教えて貰いながら簡単な魔法もろくに出来ない自分に苛立ちと悲しみがアナの表情に滲み出ている気がする。



 この子は頑張り屋だが魔法の才がない。

 ごく普通のかわいい女の子。

 俺はアナの悔しがる顔を見ながら、魔法以外でアナが人助けをできるようにするには、剣術かと模索していると、



 草むらから「ガサガサッ」

 俺は咄嗟に剣を構えた―



 草むらから出てきたのは村人の青年だった。

 頭や身体から赤黒い血が流れ落ち今にも絶命しそうに苦しそうだ。

「た、たすけてください……村が村が」



 怯えているアナと目を合し、村で恐ろしいことが怒っていることを認識した。


「一体、村で何が」


「山賊が…」

 呼吸が荒い。



 怯えて動けないアナとすぐ村へ行くべきか、それともこの青年を治癒させて村へ行くべきか悩んだ。

 数秒静止していると、怯えて動けなかったであろうアナが俺の肩をポン。



「いっ…いってください」

「私が見ます」



 アナの大人びた表情に信頼が芽生えた。

「この青年を見捨てるのか」と問いかけようにも今は少しでも多くの命を助けるしかないと思った俺はただひたすら頷いて走った。


 数秒無駄にした。

 俺はアナの後押しのおかげで決断できた。彼女はヒーローだと感謝を心に唱えた。


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