第三十七話「緊急会議」
村の無幻樹
講堂――
木目調の長い机に手紙をバンッと叩きつけたのは村の権力者であった。
「この手紙、本当にアーサー様なのか?」
「一週間も村を離れる? こんな一大事なんという悲劇」
村の無幻樹では緊急会議が行われていた。
簡易的な手紙は大きく村を悩ませていた。
師匠が村宛てへ送った手紙により大騒動。
頭を抱えている者。
涙垂らす者。
それぞれだ。
本当にアーサー様からの手紙なのか?
筆跡をたどれ!
理由も特に書かれていない手紙。
村の象徴でもある神がいなくなるなど言語道断。
これから我々はどうすれば良い。
そういう言葉が飛び散っていた。
師匠が存在しない村の状況というのは村人にとって考えられないことであった。
いなくなって初めての朝を迎えた村では、状況を知らないエバを含めて上層部や村人たちにもその話は話題となっていた。
エバに関して言えば、私が拒絶したせいでなど自身を悔やんでいる姿も見て取れた。
無幻樹の講堂。
本来ならば、村の上層部のみが入ることが許されている。
だが、この緊急事態に私の出席が許された。
子供がこの神聖な無幻樹の内部に入ることすらおこがましいが、今回は特例で師匠からの手紙を一番に受け取った、私が席に座った。
師匠の状況を唯一知っている私は指示の元、誰にも話さずだんまりを決めていた。
上層部の権力者たちがあれやこれやと言い争いが飛び交う中、私は耳を塞いだ。
うるさい。
私に取ってこの騒音をやめさせたいが師匠との約束を破ることは村の壊滅に繋がると踏んでいた。
これまで師匠がこの村への功績の意味でもわかる事だ。
だが、一向に変化が起こることの無い、無駄な会議。
我慢できず、私は言葉を発した。
この席に呼ばれたということは独自の発言もしても良いということだ。
存在意義を示すためゆっくり右手を挙手した。
大人たちは挙手を見つけると黙って私に視線を送ってきた。
目つきでわかる。
お前が発言する意味はないと。
「師匠は村を見捨てたりしません」
「師匠は戻ってきます」
権力者を前にたじろいでいた。
バカな権力者たちだ。
「いや、しかしだなこの村はもはやアーサー様がいての存続する村だ」
「この村の頂点とも言っても良いそのアーサー様が一週間もいなくなるなど…」
「でも、でも、それでも師匠は戻ると言っている」
「みんなも手紙を見たから…それは本当のこと」
「師匠はこの村が大好きだから…」
「…話にならない」
「この手紙が本当にアーサー様が送ったものかすら怪しいところ」
「ましてや、なぜアーサー様は我々ではなくこんな子供に手紙を託したのだ? それすら怪しい」
「こんな子供をこの神聖な場所に呼ぶこと自体間違っている。こんな一大事、子供が出る幕ではない」
頭の固い大人たちには通じなかった。
再び大人たちの討論が飛び交った。
私はイライラしていた。
本当のことを話したいけど話せない、けどちゃんと伝えたい。
これこそ老害の集まりだ。
事実を言っているのだから信じてよ。
子供の発言は当てにならない? ならなぜ呼んだ?
私はお前らより師匠のことはわかってる。
信じろよ!
再び勇気を振り絞って言ってやった。
「もし師匠が本当にいなくなったら、私たちだけでは何も出来ない!」
「何を今更そんなことを、だからこうして我々有権者たちが話し合っているのだ」
「そんなのおかしい! 師匠はこの村が大好きで村の繁栄を望んでいるから、この村のために一生懸命頑張ってる! もし、師匠がいなくなっても私たちでどうにかできるようにしないと、この村は終わり! 師匠が可哀想!!」
「この村は師匠に頼りすぎてる!」
直接ア師匠から聞いた訳では無い。
師匠にとって村の繁栄が村への恩返し。
弟子の私だから師匠との日々送りながら何となくだが、わかってきている部分もあった。
だから、もしこの村が繁栄に導かれてしまったらその時は師匠との別れ。
そんなことは子供の私にでも少し考えればわかる。
そのことを考えて発した言葉だ。
師匠がいない状況下でこんな頭の固い権力者に委ねるのは間違っている。
師匠の意志を次ぐのは私だ。
という認識の元。
講堂内は静まり返った。
大の大人がこんな子供じみた発言を繰り返したことに大人たちは恥ずかしかった。
村に師匠がいることが定着しすぎている。
村の存続を第一に考える有権者たちにとって師匠は広告塔のモデルと言っても良い扱い。
それに気づいていながらも、誰も間違っているということは発言してこなかった。
私の発言で、過ちを新たに認めるべきだという考えが芽生え始めていた。
それでも、頭の固い権力者は独自の反論をしてきた。
本当にバカなやつらだ。
答えの導きが見えないこの会議に終止符を打ったのは村の長だった。
「確かにアナの言う通りかもしれないの」
村の長へ全員が視線を集めた。
ここまで、何も発さず、村人の話を聞いているのみだった老害が力を発する時だった。
「どうやらこの村はアーサー殿に頼りすぎていたのかもしれんな」
「いや、こんな子供の話を聞くのですか?」
「皆聞け! 数年前と今を比べてどちらが住みやすく、安全な村じゃ?」
権力者達はたじろいだ。
お金だけもらっているただの老害が。
「もちろん今です……」
「水脈が引かれ、村の周囲には我々を守る壁、高額な資源。それに我々は今まで何度この村を救われたか」
「どれもこれも、今この時、この瞬間、平和な日常を与えられて過ごせているのは誰のおかげじゃ?」
「こんな古き老害たちが考える欲望と理想はただの言葉。その言葉こそ、何かとアーサー殿を傷つけていたのかもしれん。もう一度考え直すべき時が来たのかもしれん」
「しかしですね……」
「こんなこと少し考えれば分かることではないか!?」
「アーサー殿がいつまでも村にいるとは皆考えていたことじゃ。ただそれはわしらの理想像にすぎず、それはアーサー殿が決めることじゃ」
権力者達は汗をかきながら顔を下へ向けた。
「わしらは何も言えん」
有権者たちは自身を悲観した。
この後も師匠についての議論は話されたが
私の言葉が決定打となり決着は着いた。
村の方針は固まった。
現段階で師匠を待つことになった。
一週間たっても戻らなかった場合、村から捜索部隊を派遣し探しに行くこととなった。
また、私の提案で今まで村を守ってくれていた師匠がいない今、村を守る守備部隊や戦闘への作戦案が会議されることとなり、村の防衛へ村人は魔法と剣術の向上に励むこととなった。
師匠がいない中で行われた初めての作戦。
それは非常にまとまりがなく、とても良いものとは言えないだろうが。
初めて力が試される時だった。




