第三十二話「天秤にかけた自然の力」
的確な索敵能力によりたじろいでしまう残り十二人。
姿と殺気を殺しているようだが関係ない事だ。
空間認識魔法は周囲の敵を赤外線探知のように察知する。
たとえ、姿や息を殺していようが索敵することが出来る。
「大丈夫ですか? 汗がすごいですよ」
「……」
こいつらが人攫いとわかった以上手加減する気もない。
十二対一の関係性は決して優勢と言うには程遠い。
逆に言ってしまえば、劣性とも言い難い。
なぜなら、力で数を優れば良いだけの話だからだ。
俺は空間認識魔法を張り巡らした。
口頭で位置をバラしたこともあり、潜伏場所から移動している可能性があるからだ。
だが、察知する感じ、移動している感覚はない。
反対に移動出来ないのであろう。
筋肉が硬直したのか、的確な索敵をされたからなのか、力の差を感じたのか、足が動かないのだろう。
下手に動かない方が的確とみているのかもしれない。
「あなた方の居場所は全て把握しています」
「…」
黒尽くめは一言も発しない。
俺は相手に腕を組んで余裕を見せつける。
万が一の為だ。
はっきり言って余裕だ。
そう相手に擦り込ませる。
たとえ、こちらの力の方が上だろうと念には念を積めるだけ積むのだ。
モナのダガーナイフにより、十三人いた黒尽くめは残り十二人。
心臓を一突きされた黒尽くめの一人は無惨にも亡くなって倒れている。
俺は注意深い男だ。
空間認識魔法で周囲を索敵したところで、その範囲外の敵や魔法の打ち消しも考えて行動しなければならない。
これは戦法の一種だ。
だが、少し増えようがこの人数の相手、なんの造作もないが面倒だ。
せっかく森林奥地にいるのだし試しに使ってみよう。
俺は新たな技にトライすることを心に決めた。
この魔法は相手が多ければ多いほど面白い。
効果をより面白く発揮するにはやはり大人数の敵がいた方がいい。
それは自負している。
若い頃よく使ったものだ、と俺は思い出に浸った。
この技から逃げた者はいない。
いや、一人だけいたか。
ルーシーだ。
彼女は俺が出会った中でも最高の魔法使いだった。
俺が昔の記憶に浸っている間も黒尽くめはひたすら様子を窺うだけ。
動こうとはしない。
「……反応もありませんね」
「少し面倒なので、一気に行きます。ご覚悟を」
「風と土の混合系統魔法 樹木林」
俺はかっこいいと自負している技名を発しながら、地面に両手を「バンッ」添えた。
両手を地面に添えたのもただの格好だ。
実際は地面にバンッってやらなくても魔法は発生している。
ただかっこいいし、久々にする技だからついやってしまったのだ。
そんなおちゃらけもなことをしてみた。
この技は非常に広範囲の攻撃魔法。
並の魔法使いが制御しきれないほど、コントロールは非常に難しい。
なぜなら、自然を操るからだ。
周りの樹木の生命力を源に樹木の操作する能力。
樹木が周囲にない場合は作り出すことも可能だが、都合よくここは森林、周りの樹木を利用させてもらう。
樹木は生命力が高く並大抵の魔法使いでは扱うことの出来ない代物。
だが俺にはできる。
優越感に浸りながら俺の強さを相手に証明すると確信。
俺は樹木を操作し地に隠れる黒尽くめを叩き出す。
「ゴゴゴゴッ」と地面の底から少しの振動とともに五秒後先が鋭く尖った樹木が地面から湧き出たのだ。
それと同時に押し出されるように黒尽くめの二人が排出された。
排出された黒尽くめはすぐさま樹木によりぐるぐるに巻き付かれ捕獲された。
まるで捉えられた獲物のように。
こちらは肉食獣だ。
捕獲された黒尽くめは予想通り抵抗を続ける。
持っていた刃で樹木を切り落とそうとするが、自然は恐ろしいのだ。
傷つけられようと、自然を相手には生命力の力量が全くの桁違い。
すぐに傷つけられた場所を修復されるのだ。
一旦巻き付かれれば抜け出すことも造作ではないだろう。
逆に言えば、蟻地獄のように動けば動くほど吸い込まれるように、動けば動くほど絡みつき、縛り上げるのだ。
たとえ、どんなに遠くに逃げようが、ここは森林の奥地。
逃げ場のない。
もはや俺の手の中ということだ。
俺の手の上で踊らされているうさぎだ。
空間認識魔法は完璧な索敵能力だ。
相手が仕掛けている魔法は土系魔法の一種であろう。
地に溶け込む系魔法だろう。
そんな安易なところに隠れようが関係の無い。
取り掴まれた黒尽くめの二人は観念したようにぐったりした。
また、木の上の二人と茂みの中の四人もすぐさま樹木により取り押さえられ、宙に吊るされる。
残りは四人。
この黒尽くめのリーダーと思われる者は率先して話をしてくる。
モナを取り押さえているやつだ。
こいつだけは少しだけ頭が良い。
残り四人になった時、俺がリーダーに視線を移した途端、そのリーダーも真っ先に視線を俺に移した。
仲間が次々と樹木の餌食になるのを見て状況を判断したのだろう。
ナイフをモナの首元へ近づけた。
この樹木林から逃れる方法はいくつかある。
周囲に樹木がない場所に逃げる。
これは今回では不可能だ。
樹木を一撃で吹っ飛ばす魔法や剣術で対応する。
これもこいつらの力では足りない。
今回の場合に限りるが、人質を取り、攻撃を止めさせる。
こんな程度であろう。
その中でこいつは後者を選択した。
「こ…こいつがどうなってもいいのか?」
およそ十秒間の間に仲間が次々にやられる姿を見て恐怖と差を感じたのであろう。
そんな苦し紛れな言葉を発する頃には、リーダーであろう黒尽くめ以外は全員樹木に吊るされていた。
「仲間を解放しろ! でないとこの女を殺すぞ?」
「おー怖」
俺はおちゃらけた雰囲気を作り出した。
これが俺の本性と言っても良い。
「あなたいきなり襲っておいてそれはないでしょー。仲間を返せ? いや、全員殺すでしょ。だって襲われた側だし。正当防衛!?」
「……」
「君ら人攫いでしょ? なら、俺たちの関係性わかってるよね? そもそも人攫いの鉄則としてまず、狙う相手は一人の時。そう教わらなかったか?」
そんなことは知らん。
適当に言っている。
「なんだと……」
図星。
「今回は残念ながら私がいたからあなた達は死にますが、もし生まれ変わってやり直すなら今度から学習しときましょう。いやもう人攫いはやめた方がいいですよ」
「てめー本当に殺すぞ!」
黒尽くめのリーダーはモナの髪の毛を激しく掴んだ。
首にナイフをさらに肌に近づけて見せつけた。
その拍子にナイフが肌を傷つけた。
血が一滴ポツリ。
おちゃらけた雰囲気を醸し出してはいるが、心配もある。
この時点で、女性の体を傷つけてしまったことに少し後悔をしたがこれくらいは許して欲しい。
必ず救うから。
俺は腕を組みながら睨みつける。
その雰囲気には余裕が窺えた。
「別に構いませんよー」
「は…?」
「だってそもそも私、その女に人攫いされた身ですから。関係性をちゃんとはかって事を進めるべきでしたね。それがあなたの敗因ですよ。なので殺して貰っても構いません。一応、その女を助けようとは試みますが、無理はしません。あなたがその女を殺し終わって守るものが無くなったあと、私はすぐさまあなたを殺しにかかりますので」
「……」
行き場のないこの空間から黒尽くめの男は頭をフル回転させている。
どうすればこの状況を打開できるのか。
後ろに聳え立つ樹木とそれ以上に大きく感じる威圧感。
恐怖に挟まれたこの空間から早く抜け出したいと、人攫いという仕事を行ってきたことに対し後悔を抱くであろう。
俺の発する言葉は残酷で取り返しのつかないが本性は少し違う。
モナを助けたいと黒尽くめへの心理戦に挑んでいたのだ。
そもそもこんな可愛い子、俺が見捨てるわけないし…
「それでは提案です」
俺は何となく提案をした。
この提案にあっさり乗ってくれればいいが…
相手との距離は10メートルほど、俺の高速の動きで敵を薙ぎ払うことも可能かもしれない、
ただ、既に首元に刃が通ってしまった彼女にこれ以上傷をつけないために、その最後の手段は選べないと感じている。
だとすれば心理戦しかない。
「提案?」
「今から与える選択肢の中で好きな物を選んでください。それによってあなたの運命が変わります」
「運命?」
「一つ 女を殺してあなたは死亡、後ろの仲間は生きて帰れる」
「二つ 女を離してあなたは生きて帰れる、後ろの仲間は死亡」
「さあ、選んでください」
自分の命と仲間の命の重さを天秤にかける重大かつ残忍な選択肢に黒尽くめは汗が止まらなかった。
俺は生唾を飲んだ。
表情は至って冷静だ。
三十秒ほど悩んだ末、黒尽くめはモナに向けていたナイフを引き、地面に落とした。
俺の心も安堵した。
黒尽くめのリーダーが後ろの仲間に目を合わせることが出来ないまま落胆している。
樹木に吊るされる黒尽くめの叫びやリーダーの名前を叫びながら命乞い。
そんな耳障りな声に俺は右手を力強く勢いをつけてギュッと握りつぶす。
同時に連動し、黒尽くめに巻きついた樹木が粉砕機のように人体を潰し肉片が地面に散らばった。
俺は瞬時に十一人の命を奪った。
【世界の魔法ランク序列】
・初級(使用者、基本誰でも使える)
・中級(まあ、使える)
・上級(少し限られる)
・王級 (あまりいない)
・天級(一握り)
・悪級(ほぼゼロに近い)
・神級(もしかしたら使える人がいるかもしれないが、完全にいないかもしれない)
第32話です。
宜しくお願い致します。




