第十七話「無詠唱魔法使いの絶滅化事件」
血生臭い――
全身赤い色に染めた男は言った。
耳の軟膏部分のヘリックスにピアスが複数。
ダンディーな七三に分けられた髪型。
年齢に応じたシワが窺える。
クリスタルで出来た鎧を纏ったドラゴンがアッサリと地面に倒れた。
ドーンっと地面が揺れた。
腹を突き破られた。
死因は内臓破裂。
クリスタルでできた鎧とはいえ、体内はクリスタルで形成されていなかったようだ。
ドラゴンの体内から出てきた男は持っていた刀剣を地面に突き刺した。
その刀剣は日本の戦国時代に使用された反りの大きな片刃刀剣。
血液を常に欲している刀剣に漲る悪が感じ取れる。
いわゆる妖刀というものか?
男は血液で濡れた緑色の髪の毛を両手でかきあげた。
体の至る所に過去の戦闘で刻まれた傷跡が刻まれていた。
見た目は40代と思われる。
その低いイケボとあごひげがダンディーさをさらに高めている。
「きったねー」
「ん?」
その男は俺に気がついた。
「なんだお前?」
「こんなところで何してんだ?」
「お前誰だ?」
こっちのセリフだ。
「いえ、いきなり失礼いたしました。私はアーサーと申します。探しものがありここへ」
決してクリスタルを探しにとは言わない。
下手に出てとりあえず様子見。
「探しもの?」
「なんだお前、こんな辺境地へか?」
「ええ、仲間の魔物の子がこちらに逃げ込んだもので探しておりました」
そして、俺はアナ達を呼んだ。
「師匠大丈夫ですか?」
「ああ私は大丈夫です」
「随分汚れましたねー」
「きったなー」
メイの言葉にはいつもトゲがある。
「ウ~~」
「ガルルルル」
フォーの子供が男に睨みをきかせて吠えた。
「俺の名前はガバリオンだ」
「よろしくな」
「私はアナと申します。宜しくお願い致します」
「メイで~す」
「ガバリオンさんはなんでドラゴンのお腹の中に?」
「ああ、ここにめちゃくちゃ強いって噂のドラゴンがいるって聞いてよ」
「そのドラゴンとぜひ手合わせ願いたいと思ってここへ来たわけよ」
「まあ、油断して食われちまったけどよ」
「腹の中からぶった切ってやったわ」
男はヘラヘラしながら笑った。
いわゆう戦闘狂だ。
笑い話に話を進めるガバリオンだが、俺はこいつの強さを身に感じている。
とにかく強い。
魔力が滲み出ている。
何十年と鍛錬続けている出来上がった体だ。
こういう人とはできれば手合わせしたくないな。
とりあえずいい人そうだし何よりだ
「あっわりー ドラゴンの血かかっちまったか?」
「すまねー」
「いえ」
「待ってな 今お湯出すからよ」
ガバリオンはそう言うと、右手に力を込め始める。
「水、そして炎よ。2つの異なる属が交わり、我に行く末の施しを与えんとし ウォーターヒート」
詠唱――
ガバリオンの手のひらから水の球体が現れた。
湯気が出ていることを見るとお湯の球体だ。
その球体が宙を舞い、動きを止めると、そこからお湯が流れ出てきた。
その流れる小さな滝がシャワーの代わりとなり、ガバリオンの血に染った汚い体を洗い流していく。
「どうだ?お前も使うか?」
「って、あんた俺より年上だな敬語使った方がいいか?」
「!!」
「いえ、タメ口でいいですよ」
俺はそう言うとガバリオンより大きなお湯の球体を無詠唱で出現させた。
ガバリオンとは水圧が違う。滝のようにお湯を流した。
俺も早くこの血を流したい。
ぷはーっと勢いよく頭からお湯を浴びた。
「お前…それ…」
「え?」
ガバリオンの顔が驚愕していた。
「いま無詠唱……魔法……か?」
「ええ、そうですが」
何を当たり前のことをこちらが言いたいですよ。
無詠唱なんて普通のことでしょ?
それになんですかその鳩が豆鉄砲を食ったような顔していいお顔が台無しですよ。
「なぜ?」
「無詠唱だと!?」
ガバリオンは声を震わせながら問うた。
なんだ?
今、この現代において無詠唱はそんなにすごいことなのか?
まあ、三十年前も一部の人間にしかできなかったが、そんなに驚かれることでもなかった。
村人やアナもそうだが、初級魔術程度なら魔法の扱いが上手なやつは無詠唱でも可能だ。
だが、ほかの系統の魔術の組み合わせや中級以上の魔法は詠唱が必要だった。
おそらく今回で言うと、水と炎の系統をかけ合わした魔法だから珍しいのだろう。
「なぜと言われましても…」
「いつから使えるように?」
「昔からですが…」
「昔から…」
「そもそも無詠唱魔法使いがこの世に生きていることすらおかしい」
この世に生きていることがおかしい?
あなたは何を言っているのか。
現にここにいますが。
それにアナだってそうだ。
「ガバリオンさん あなたは何を言っているのですか?」
「お前知らないのか? 30年前に起きた事件」
「事件?」
「無詠唱魔法使いの絶滅化事件を…」
俺は茫然と立ち尽くした―
【ジャスミン(作者) 身近なニュース報告欄】♯2
最近は時事ニュースが盛りだくさんですね。
今週の22日にはバイデン大統領来日など
気になるニュースがとても多いです。