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第十話「狼さん、仲間になる」

 砂塵―


 なぜだ?なぜいきなり攻撃された?

 この山のヌシか?守り神?

 そんな理由を連想しながらフォージャッシュウルフの攻撃理由を考えた。


「痛ってえー」



 フォージャッシュウルフが攻撃したあと、してやったりと四つの尻尾の怒が主張をやめ、今度は喜が主張を始めると、本体の狼の顔も喜びに変貌していった。



 尻尾の主張が怒から喜に変わったことで戦闘スタイルも変わる。

 後ろ足に力が入る。


 前足を器用に立て、まるで人間のように二足歩行を始めた。

 前足であった両腕を口元に当てて「ニシシシシ」と笑う。


 その細くてキリッとしている目つきで笑うためとても不気味だ。



 一息笑うと、今度はメイに狙いを定める。

 フォージャッシュウルフとメイが睨み合う。



 狼は足を徐々に早く段々と早く、上げて、下げて、上げて、下げてを繰り返し上下させる。

 砂埃を立たせながら足元の地面が削られ穴が空いていく。



「ダダダダッ」と高速で上下させる足はまるで忍者のようだ。

 高速すぎて見えない。

 そして始まった。



 メイが一度瞬き――

 二度目の瞬きが終わった時、メイの眼前にはフォージャッシュウルフの腕があった。


 ラリアット。


「ドカーン」


 メイの首元に高速で詰められたラリアットがヒットした。

 メイは10メートルほど飛ばされた。



 喜怒哀楽の喜はアジリティメインの攻撃スタイルのようだ。

 狼はしてやったりと再度口元に手を当ててお決まりの「ニシシシ」という笑いを繰り出そうとしたが

「ズキンッ」と右腕が痛む。


 右腕をアホズラで確認すると、出血が確認できる。

 痛みが増してきた。


 膝をつき遠吠え――

「ワオーン」


 飛ばされた衝撃は多少あるが大したことない。

 メイはしてやったりと笑顔で言った。


「はっはー この金属は痛いでしょー」



 よく見ると、メイの首元には黒い漆黒の金属の首輪が巻かれていた。

 その金属の外側はトゲトゲのスパイクが着いており、内側は吸収性の高いウレタンが装着されていた。



「よかったー 絶対急所に攻撃してくるって思ったし」

「あんなに高速で足あげたら絶対攻撃してくるってバレバレ」



 鍛冶屋で生成した高濃度の金属防具。

 まだ試作段階だという。



 メイは腰に手を出さ当てて「エッヘン」

「私すごいでしょー」っと偉そう。



 フォージャッシュウルフは痛みのあまり、尻尾の喜が主張をやめた。

 次に主張を始めたのが哀。


 同調するように本体の狼の顔も哀しみの表情に変わっていく。

 二足歩行から四足歩行に変わりメソメソと鳴き始めた。


 腰を地面におろし、猫背になりながら泣いている。

 可哀想だ。



 そんな泣いているフォージャッシュウルフを見ていて少し感情移入したのか、

「えっと…オオカミさん…大丈夫?」

 そう声をかけると、


 フォージャッシュウルフは変わらずメソメソと泣いたまま、その言葉を跳ね除けて、感情のまま前両足を高く上げ、勢いよく地面に叩きつけた。



 二秒後、時間の遅延とともに地面がうねりだす。

 ゴゴゴゴっと音をふるわせながら。


 波打った地面が海の波のようにやわらかく見えているが、突如と動きを止めた。


 メイが踏んでいる真下の地面から尖った岩石の剣山が発生。

 メイは反応し、かわすが少し遅れた。


 左足に高熱を持った剣山が突き刺さる。

「キャー」


 流血――



 喜怒哀楽の哀は臆病で遠距離特化の攻撃スタイルのようだ。



 メソメソと泣きながら衝動のままに剣山を自由に操り始めた。

 よく見ると狼の可愛らしいモコモコの毛が付いた両手が地面に沈んでいる。

 一度柔らかくして地面から2メートル以上に伸ばし、伸縮性と弾力のある剣山を自身の手の動きと同調させてコントロールしているようだ。


 伸ばしたり縮めたりする時はやらわらかくなり、攻撃を決めようとすると硬質化するように操っている。

 動物のくせに脳が異常に賢い。



 そんなことはどうでも良い、アナはそういった分析をしていたが、メイの悲鳴と共にアナも頭をフル回転させ、動向を窺った。


「メイさん!」


 このままでは…


 アーサーの方を確認。

 一向にアーサーは姿を現さない。

 それに粉塵と衝撃で破壊された岩が邪魔で確認できないのだ。



 左足に突き刺さった剣山が痛々しく、見ていられないが、次の攻撃を畳み掛けようとするフォージャッシュウルフ。

 コントロールした剣山をアナの前後左右に取り囲む。

 逃げ場のないこの状況にアナは死を覚悟する。


 自信がこの後起こり得る惨状を脳内にインプットするが、全身に突き刺さって串刺しになるイメージしかわかない。

 アーサーの方を確認しても動向が窺えない。


 アナを見てもどうしようかハタハタとしている。

 終わった。。

 逃げれないが逃げるしかない。



 立ち上がって逃げようとするメイだが上手く立てず慌て出す。


 アナは涙と怒りが混じり合う表情を見せながら奇声と共にメイに向かって行った。



 メイは大人しく目を瞑り、祈った。

「……」


「だめーーー!」

 何も考えず考えることが出来ずとにかく走ることだけ考えた。

 少しの希望と勇気がアナの脳裏に浮かび、身体が勝手に動いたと言っても良い。

 脳内から分泌されるアドレナリンがアナの体を動かしたのかもしれない。


 とにかく自分のことはいいから、メイを助けたい一心でメイと剣山の間に割って入った。

 そして、何も考えず両手を前に力を込めた。青い光が泣き怒りの狼を包み込む。


 癒しの力―



 剣山と狼の動きが止まる。

 メイとアナは何が起こったのか分からない。

 アナの手元から青い光が発生され狼を包み込んだまでは分かる。

 なぜ動きが止まった?

 二人は狼を見てみると、泣き怒りながら攻撃をしていたが、今度は大粒の涙を流し始めた。

 ポトポトと地面に落ちる冷たい涙が熱を持つ地面と垂れ落ちてジューっと蒸発していく。


 大粒の涙を確認したあとは今度は人間の赤ちゃんのように「うぇ~ん」と大口を開けて泣き始めた。

 それと同調し、先程までメイに向けられていた剣山が崩れ落ちた。



「助かった…」

 メイは肩の力がガっと抜けた。



 癒しの力。

 回復魔法の一種。

 生命に癒しを与え、興奮や緊張などを和らげる。

「ヒーリングリラクゼーション」



× × ×



 戦闘終了後――


「ヒーリング」

 メイの足の治療。


 腰を落としアナを優しい表情で見つめる細い目。


「ヒーリング」

 狼の頭と四つの尻尾の顔が全て優しい表情に変わっていた。

 黄緑色に光るあたたかい光がメイとの戦いでおった傷を癒し始める。



 アナは平気だが、メイは一戦交えた分、多少の距離が窺える。


 傷口の周囲の抜け落ちた漆黒の毛は元には戻らないが徐々に傷口が塞がり始める。



「メイさん。この狼さんきっと悪い子じゃないよ」


「ええー?」


「この狼さんは大丈夫です」

「恐らく事情があるのかと思います」

「それにほら、今こうやってすっごい笑顔」


 狼はキモイほど笑顔だ。愛想笑い?本当の笑顔ならかなりキモイ。



「だってこの犬っころのせいで私めっちゃ痛い思いしたんですけどー」


「それは狼さんも同じですよ」



 メイは動揺。

「げっ…それはそうだけどさー」


 そんな過去に起きたお互いの過ちを認識始める。



 何かを忘れている。

 大事な何かを。

 そもそもなんなんだこの状況は、アナとメイの脳裏によぎった。

 そもそも私たちは何故こんな火山のてっぺんにいて、なぜ戦闘をして、治療をして……



 一瞬、時が止まったかのようにメイとアナは二人合わせて、

「アーサー様!!」

「師匠!!」


 二人はアーサーのことをすっかり忘れていたみたいだ。

 それもそうだろう。

 戦闘と訳の分からない狼を治療したわけだし。



 一応、狼と距離を置いていたメイが、

「わたし、ちょっとアーサー様見てくるねー」


「はい、私はオオカミさんの傷を治療します」


 二人にとってあれだけの山賊との戦闘をしておいてこの程度で死ぬわけがないと感じている。

 そもそも、土の中からいきなり村に現れて死ぬわけがない


 メイはアーサーが飛ばされた瓦礫の岩を捜索した。

 流石にアーサーが簡単にやられるわけないと、多少の緊張もあったが、小さな岩や女の子一人でもどかせる程度の岩をどかしながら様子を窺うと、岩と岩の間から「ビューっ」と風がメイの髪の毛をなびかせる。


「空洞?」

「空洞があるわ!」


 メイがアナと狼に言うと、ちょうど傷の治療が終わった二人も合流した。



「この奥に師匠がいるのでは?」


「確かにここに飛ばしたわよね?」

 と狼を睨めつけるメイ。


 狼は耳を垂らし、「ごめんなさい」とでも言っているようだ。



 いつの間にかアーサーの代わりのように仲間となっている不自然な3ショットだが、癒しの力によってお互いがお互いを敵対視せずになったと思われ、とりあえず一緒に行動することになった。


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