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第一話「人生終焉」


 朝日が昇り日差しが山の霧と交わる木々を照らす。

 動物たちは目を覚まし、子鳥のさえずりが朝の訪れを告げる。


 前日の雨で、葉には朝露が滴り、少し湿気がある。

 雲一つない天気の良い今日はいずれ湿気もなくなり、じめっとした気分も晴れるだろう。


 そんな山の開けた平地に

 手入れもされた立派な

 山小屋がポツンとあった。


 その山小屋の繋ぎ目の鉄の部分は森林特有の湿気からか錆びている部分も見て取れるが、それ以外はちゃんと手入れされている。


 ワシは94歳老人。

 そろそろ人生の終焉を迎えそうだ。


 息が苦しい。身体が痛い。目が霞む。気持ち悪い。

 94歳、ずいぶんと長生きしたものだ。


 色んな国へ行き旅をした。

 色んな種族と会った。

 仲間との楽しい冒険。

 激闘の戦い。

 苦手であった剣術は随分上達した。


 でも苦手というのは決してワシが下手だからという意味ではなく、対峙する相手がことごとくワシの力を上回っていたということだ。


 つまり、ワシは最強じゃ。


 でもなんでじゃ? ただの人間だからか?

 違う種族に生まれればもっと長生きし、もっと色んな冒険ができたか?


 ワシは94年という人族の中でも、長生きした方だ。

 賞賛されるべき年齢だ。


 この94年という人生にワシは少しも満足していない。

 それはなぜか。


 そんなもの聞かなくてもわかるじゃろう?


 男なら、強い男なら、いや男じゃなくても、これは済ませておかないといけない重要な職務と言ってもいい。


 これってワシが悪いの?

 そんなはずはないと思うのだが、

 世の女性が俺の魅力に疎いだけ。


 はっきり言おう。


 心残りがあるとすれば、女。


 ワシは童貞だ―


 ああ、最悪だ。

 あともう少しでワシの体は終焉を迎えるだろう。

 心肺機能停止後、俺の魂は果たしてどうなってしまうのか?

 

 若い頃に自分が死んでしまったらその後どうなるのか想像したことがある。

 それはそれは恐ろしくて眠れなかった日もあった。

 今ワシが感じているこの感情や景色、記憶、意識、存在が無くなるということ。

 そんな恐ろしいことが起こるというのか。

 この世界にいるであろう神もずいぶん卑劣なことをしてくださる。


 改めて言おう。ワシはもうじき死ぬであろう。

 なのになのになのに、

 なぜ94歳になってまで童貞なのじゃ。


 ワシの人生で最大の心残り。



 山小屋・ログハウス―


 上下左右360°全て木材で出来た家。

 木目が良い雰囲気を醸し出している。

 香りも良い。

 掃除も行き届いている。


 家具は最低限。

 ベッドに引き出しが着いた机。

 そこには最近もぎ取られたであろう花瓶に花が刺さって置かれている。

 間取りは1R。

 その中でキッチンやリビングが全てひとまとめになっている。


 これはワシに対してのバリアフリーということであろう。


 ワシはここに長いこと住んでいるが、数年前と比べて変わったものだ。

 ワシ用に改良が加えられている。


 ベッドに横たわるワシ。

顔はシワとたるみで無惨。

人には見せられる顔ではない。

 たるみで目もほとんど発見できないし。

 髪の毛は白髪で前頭は後退なのに白ひげは30センチ以上伸ばしている。

 もういっそうこのまま逝きたい。

と、思うのではないか?

とにかくワシは外見を気にした。


 ワシの辛い息遣いが静かな部屋に響くのみの空間。

「ドドドド」と地面を震わせながら近づく足音がワシの耳を攻撃する。

そして、扉が突然開いた。


「師匠ー!」


 叫びながら駆け寄る若い女。

 ルーシーだ。


 黒髪ショートヘア 見た目は20代前半。

 顔は可愛い系。

 胸はEカップと言ったところか。

 街中にいれば世の男性は皆振り向くだろうな。


 なぜ、こんなワシのそばに美人がいるかだって?

 この子はワシの弟子だ。


 そんな叫び声で思わずワシの心臓は飛び出そうだった。


 ワシの名はアーサー 。

 まるで老人のワシには似合わない勇敢な名だ。


 こやつはルーシー。

 こやつの特徴はとにかくデカいデカいデカい。


 ワシのほとんど発見できないであろう目は実はルーシーのおっぱいに着目していた。


 形、大きさ、柔らかさは知らんがとにかく極上じゃがろう。

 別に弟子と付き合う勇気はないよ。

 付き合ってたらワシは今でも童貞では無い。


 なんで、こんなに可愛い子がワシの弟子かだって?

 それはワシに魅力が……いや、違う。

 魔法の才があるからである。


 でも、この子もずっとワシの看病をして疲れないのか?

 年頃の娘なわけだし、少しくらい恋愛はしたいだろうに。

 どうしてここまでワシに執着しているのか?


 まあ、そんなことはもうどうでも良い。

 ワシはもうじき死ぬからのぉ。


 でも、最後の願いくらい聞いてくれないかのぉ。


 おっぱい、ワシにおっぱいを…


 ルーシーは何かをワシに話しかけている。

ワシの頭はおっぱい一色で正直声は届いていない。


「師匠師匠!お辛いですか?」


「ゲホッゲホッ」


 耳も遠い。そんなんじゃ聞こえんぞ。

もう少し大きな声で。


「もう楽になってください 無理はしないで」


 と、そんなことを言われても勝手に死ぬのを待つしかないだろうとワシは口ずさみたい。

 とにかくおっぱいを…


「もう話すことも辛いのですね それでは」


 ああ、いつものか。

 こっちの方が苦しくなくてありがたい。

 ルーシーも成長したものだ。


『師匠なにかして欲しいことありますか?』


『いつもすまんのぉ』


『いえ、当然のことです』


『ワシはもう長くない。お前はこれから一人で暮らすのじゃワシのいない所で』


 念話が始まった。

 魔法使いの力だ。


 ある程度の距離間であれば、言葉を発することなく、意識交換で会話ができる。

 魔法の才を持っている者は大抵、念話を独自に習得できる。


 ただ、この世界で、一般的に剣士などとパーティを組んでいる魔法使いは多い。

 念話が主流になることはこの世界ではあまりない。

 だが、ワシにとってはかなりの利用価値がある。


『ワシは今までお前を育ててきたが、もうワシの命は残りわずかワシがいなくなっても立派に生きて欲しい』


『それは重々承知です』


『ワシが教えることはもう何も無い』


『当然して欲しいことも…』


 ワシは勘づいて欲しかった。

 自分の口からは言い難い。


『もうワシは誰にも看取られず死にたい』


 ルーシーの表情は変わらない。

 涙も流さず真剣だ。


 口調には多少のトゲが…


『そんなこと…今まで私に魔法や剣術を教えて下さったおかげで、今の私があります。何か最後に私に師匠の願いを叶えさせてください』


 そんなこと、言われても…と、

 言いたいところだが、答えは決まっている。

 おっぱいだ。


『なんでもいいのか?』


『私に出来ることであれば』


 頷くルーシー。

 真剣な表情に期待した。


 無言が続いた。

 非常に緊張した。

 これで最後の人生。

 何を言っても悔いはない。


『一発やらしてくれないかの……』


 ワシは先程まで考えていたおっぱいではなくその上位互換の願いをお願いした。


 別におっぱいだけでもいいが、この際だ。

 最後の願いとして、叶えさせてくれると言っているからいいと思ったんだ。


 ワシらの間には微妙な距離感が沸いた。

 その距離感にワシは冷や汗が出てきた。

 沈黙が十秒ほど続いたあと、眼球だけを横にスライドし、ルーシーの表情を窺ってみた。


 様子を見る限り、顔が赤い。

 ということは、もしかして照れているのか?

 と思ったが、それは一瞬にして取り消された。

 ゆっくり、と眉間にシワが寄り始め、眉毛が吊り上がっていく。


 ルーシーは恥ずかしさと怒りの如くワシの腹を全力で殴った。


「なに言ってんだこのクソジジィー!!」



 魔法、剣術、体術も含めて、全ての戦い方を刷り込ましたルーシーの一撃はとてつもなく重かった。



×××



 その夜―


 暗闇の山奥に闇を払うほどの光が辺りを照らす。

 まるで昼間だ。

 これはルーシーの魔法で辺りを照らしていた。


 ルーシーは魔法を駆使し、人ひとりが入る程度の穴を開けた。

 さらに魔法で浮かせた木箱。

 そこにはアーサーが横たわる。一緒に色とりどりのお花が散りばめられアーサーは埋められていた。


 ルーシーは手を合わせ、

「師匠。今までお世話になりました」


 ルーシーの強烈な一発のおかげか、


 その日の夜。

 アーサーは亡くなった―


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