第十三稿その1
サラダ村を出発した私はおばあさんと出会った川までやって来た。
おばあさんの話しではレタス村はこの川を渡った向こうにあるらしい。
私の設定そのまま。
でも川を渡る橋がないんだよね…
橋を作る作り方なんて知らないし作れるわけもない。
そこで私の描いたラノベではもう少し先まで歩くことにするんだ。川を迂回するという理由で。
うん。実際に体験してみても理にかなってる。
それにしても、この川に来るまでの道のりもあまり良くないね。
老人ばっかりのサラダ村に物資を運ぶなら道の整備は最低限必要だね。
私が考えた岩車で簡単な整備はできるっぽいし、後で提案してみよ。
私はしばらく川沿いの道を歩いてみた。
本当に何にもない。
荒れた大地の左側を川が流れ、右側には木がまばらに生えてるだけ。
私の武器も木の棒だけ。早く聖剣と聖盾を手に入れたいよー。
そういえばお腹空いてきたな…おばあさんの話しだとレタス村までは川を渡れれば1日とかからないけど、川を迂回すると3日って言ってたっけ。
食べ物…木の実とかあるかな?
そう思って私は右側の木がまばらに生えているゾーンへ向かった。
「ちょっと。そこの人間。ちょっと!」
何か声が聞こえる。
キョロキョロ辺りを見渡すけど誰もいないね。
空耳かな?
「無視すんじゃないわよ!こっちこっち!」
キョロキョロ見るけどやっぱり何もいない。
「こっちよこっち!どこに目つけてんのよ!もっと上だって!」
「上?木の枝の方ってこと?」
はっきりと聞こえた声に戸惑いながら、私は口に出して確かめるように聞いてみた。
「そうそう!やればできるじゃない!ほら、私を見つけて!」
あ、あそこ。何かいる。
木の枝に引っかかるようにして…あれは…妖精?
あ。私の描いたラノベの設定だとここでバジルちゃんに出会うんだ!
「もしかしてフェアリーのバジルかな?」
思わず口に出しちゃった。
「な、何で私の名前を知ってるの?人間あんた何者よ?」
じろりと疑いの目で見られた。
仕方なく私は、この世界が自分が作ったラノベの世界だということ、自分はその作者でなぜかこの世界に転移してしまったことを話した。
フェアリーに理解できるのか分からないけど…
「ふーん。要するにこの世界はあなたの創造物の世界なわけね?」
理解できちゃったよ!
「そんなことよりちょっと助けてよ。」
あ、そう言えばバジルちゃんさっきから私のこと呼んでたね。助けて欲しかったんだ?
「私の設定だとバジルとぶつかるのが出会いなんだけどなー。」
「何をブツブツ言ってるのよ!いいからさっさと助けなさいよ!」
何でか分からないけど私はバジルちゃんに怒られてる。
こんなに口の悪い妖精ちゃんなんて嫌だよー。そんな設定作ってないよー。
「助けるって何をすればいいの?」
私が聞くと、はっきりとはぁー。ってため息をつかれた。
「あんたばかぁ?」
「なっ!」
なんですと?バジルちゃん…何でそんなに言葉遣いが悪いのよ…
「私の羽を見てよ!」
バジルちゃんが怒る。
羽?あ。
よく見れば羽が木の枝に引っかかってる。
あれを取って欲しいってことね。
それにしても妖精ちゃんって小っちゃいね。想像以上に小っちゃいよ。
手のひらサイズじゃん。
「早くして!」
怒られた。
ちょっと上の方で引っかかって動けない可哀想な妖精ちゃん。
なのになぜか生意気で偉そう…
「よいしょ。」
私は木登りとかしたことない。
でもこの木はさすがに登りやすいのが分かる。
枝があちこちあるからね。
頑張って(でもないか)木を登って、引っかかっている枝を取ってあげる。
「はぁー!やっと自由になったわ。お礼に何か手伝ってあげるよ。私が人間の手伝いをするなんて珍しいことよ?何をして欲しい?」
さっきまで動けなかったのにバジルちゃんはほんと偉そうね。
手伝ってほしいことかー。私が描いたラノベだと普通に一緒に冒険するんだけど、してくれるのかな?
「じゃあさ、私これから色々冒険とかする予定なんだけど、一緒に来てくれる?」
「はぁ?あんたばかぁ?」
え?あれ?
一緒に冒険する流れじゃないの?
「確かに私は何か手伝いをしてあげるとは言ったけど、一緒に冒険するとは言ってないでしょ?何をどう勘違いしたらお手伝いが冒険になるわけ?」
ふぇーん。バジルちゃんなんか威圧的だよぉー。
私みたいな根暗でモブキャラには、こういう言い方はキツのに…
「で?」
バジルちゃんが詰め寄ってくる。
で?とは?私は今バジルちゃんに何を求められているの?
私が戸惑っていると、バジルちゃんが大きくため息をついた。
「あんたほんとぉーにばかね。」
ひぃぃぃぃぃー!無理無理無理無理!
絶対バジルちゃんとは一緒に冒険できない。
私のラノベのストーリーとは違うけど…
ここは穏便に終わらせてバジルちゃんとさよならしよう!
「ははは。ごめんね?えっと、君も助かったようだし私はやることあるからさ、お礼はいいよ。先に行くね?それじゃあね。」
「何を勝手に決めつけてるのよぉ。」
ぐいーっとほっぺたを引っ張られる。
「いいいいい痛い痛い痛い。ほっぺた取れちゃうよ。」
「あんたねぇ、私が手伝ってやるって言ってるんだから素直に聞きなさいよ。」
バジルちゃんが怒ってる。
小っちゃいのに威厳たっぷりに言う姿は可愛いけども。
「ちゃんと聞いてるの?あんたねぇ、…そう言えば名前なんて言うのよ?」
思い出したように私の名前を聞いてくる。
「アヤメ…じゃなくてパセリよ。さっきも言ったけど中の人はアヤメって言う女子だからね?見た目は男だけど…」
「中の人?よく分かんない表現だけどまぁいいわ。で、アヤメ…いやパセリ?あぁもうややこしい!あんたなんかあんたで十分ね!」
酷い…名前を聞いてきたのはバジルちゃんなのに、また怒った。
「で、あんたどこに行くつもりだったの?」
「え?えっと、レタス村だけど?」
「ふーん。何で?」
え?何でって?逆にこっちが聞きたいよ。何でそんなこと聞くの?
言わないとまた怒るんだろうなぁー。
私はサラダ村で頼まれたことをかいつまんで話した。
「そ。」
それだけ言うと、バジルちゃんは後ろを向いてパタパタと飛んで移動し始めた。
そっか。妖精ちゃんは歩いて移動なんてしないんだね。
それにしてもやっと別れることが出来たね。
ほっと息を吐いたらバジルちゃんがこっちを振り返った。
ヤバい。安堵の息がバレた?
「何やってんの?早く行くわよ。」
ジト目で見られる。
「へ?」
素っ頓狂な声が出てしまった。
「なぁーにがへ?よ!あんたばかぁ?レタス村に行くんでしょ?」
そりゃまぁ行くけど…
え?バジルちゃんもレタス村に行くの?
「何驚いた顔してんのよ。一緒に冒険してやるって言ってんだから感謝しなさいよね。」
ちょっと顔を赤らめているところを見ると照れてるんだろうけど、それを隠すように必死に両手を腰に当てて威張った恰好でバジルちゃんが言う。
ギャップが可愛い。
でも…バジルちゃんと一緒に冒険の運命からは逃れられないのね…




