第十一稿その2
忘却の間の手前の部屋には何のトラップもないと思い込んでいた。
「あっぶなぁー。」
2人よりも先を歩いた私の足元には大きな穴が空いていて、穴の中には大量の竹槍が設置されていた。
これに突き刺さっていたら私死んでたなー。
勇者なのに死んでたよ。
ギリギリのところでナポリタンが私の手を捕まえてくれた。
「あ、ありがと。」
穴から這い上がりながらそう言って、穴の中を見て背筋が凍るかと思った。
「死んでたな。」
カラアゲさんがぼそりと言って余計怖くなった。
そういうことは言わないでいいの!
「やっぱアヤメは後ろっすね。」
そう言ってナポリタンが私よりも前に出る。
「いやいやいや。大丈夫だから。わっ!」
また落とし穴に落ちそうになって、カラアゲさんが助けてくれた。
仕方なくこの部屋ではナポリタンに先頭を譲ろう。
「忘却の間では私が先頭を歩くからね!」
一応念押ししておこう。
分かった分かった。と軽い口調でナポリタンが返事をしてくるけど、本当に大丈夫かぁ?
忘却の間はほんとにヤバいからね。
2人には私のこと忘れて欲しくないし。
とゆーか忘れたら許さん!後で小説の内容変えて酷い目遭わせてやる!
ぽん。と肩に手を置かれた。カラアゲさんだ。
「肩の力を抜け。俺たちは大丈夫だ。」
「え?いや」
それってどういう意味?って聞こうとしたのに、カラアゲさんはスタスタと先に行ってしまった。
もしかして…忘却の間も先に行くとかじゃないよね?
…いや。この2人ならありうるぞ。
「ねぇちょっと2人共!」
私が声をかけると、前を歩いていた2人が歩みを止めてこちらを振り返った。
「さっきの話。私本気だから。忘却の間では私が先頭を歩くから付いてくるなら2人は私の後ろを歩いてきて。」
「やっぱりオレ、それはできねーわ。」
「なっ!なぁーんでよ!話しが違うじゃない!」
くわっ!と私がナポリタンに怒ると、カラアゲさんが私に諭すように言ってきた。
「いいか?アヤメ。俺たちはアヤメが作ったキャラだとしても自分たちの意志がある。その意志がアヤメを守りたいと言っているんだ。それとも俺たちを作り出したアヤメには、俺たちの意志を無視する権利があるのか?」
「え。い、いやそりゃそんな権利ないけど。とゆーか、そういうことを言ってるんじゃなくて、私は2人のことが心配なんだよ!私の場合は記憶を奪われても、自分が描いたラノベ読み返せば2人のこともこの世界のことも思い出せる。でも2人は無理なんだよ…思い出せないんだよ?私のこと…忘れちゃうんだよ?」
思わず涙がこぼれた。
「だってさ…そりゃさ。最初はカラアゲさんのこともナポリタンのことも自分が作り出したキャラくらいにしか思ってなかったよ…どこかの町の住人と同じ…とゆーかまぁそれもちょっと今では考え方変わったけど、とにかく最初はその程度にしか思ってなかったのよ。でも今は違うの!大切な人だと思ってる…私のこと、忘れて欲しくないんだよ…」
「そんなのオレたちだって一緒だよ。」
ナポリタンが静かに言う。
「アヤメには思い出す方法があるとかそういうことじゃねーんだ。理屈じゃねーんだよ。オレもカラアゲさんも、アヤメには危険な目に遭ってほしくない。オレ達のことを一瞬でも忘れて欲しくねーんだよ。」
その目は真剣そのもので、私に何かを悟らせた。
何かが何なのか、上手く言えないけど。ただ純粋に、あぁもうこの2人は決めてるんだ。と思った。
並大抵の覚悟じゃないはず。
でもさっきまでの私は違ってた。
どうせ忘れられるなら――
こっちから忘れた方が傷つかない。って気持ちが少なからず入ってた…
「最低だ私…」
ポツリと自然に言葉が零れ落ちた。
「「え?」」
2人が同時に聞き返してくる。
この距離だ。聞こえないことはないはず。
最後までいい人達なんだな。
「こんな話、私が描いたラノベには無かったんだけどなぁー。」
両手を頭の後ろに組んで話しをはぐらかす。
こんな時まで私はズルい。
「こんな話?」
カラアゲさんが聞き返してくる。
「あのね。私が描いたラノベだとね、ナポリタンとカラアゲさんが何の躊躇もなく忘却の間を歩くんだよね。で、勇者はその後ろを付いて行って魔王を倒すの。今の私たちみたいに、誰が先頭を歩くとかで揉めないんだよね。」
「なら。そのアヤメが作った物語の通りにしようぜ?そうすりゃ問題ないんだろ?」
明るい声でナポリタンが言う。
そりゃまぁそうだけどさ…
「何で記憶を奪うなんて設定作っちゃったんだろ…」
今度の呟きは2人には聞こえなかったようだ。




