第一稿その2
…というわけでゴブリンの山に到着したわけだけど、自分が書いたラノベの世界に転生して1つ分かったことがある。
まず一節と一節の間の場面転換も、この世界には関係ないということ。例えば、私が書いたラノベでは村から出発してすぐにゴブリンの山に到着して、ゴブリンの群れとの戦闘シーンに飛ぶ。
でもいくら自分の小説に転生したとしてもさすがにそこまでハチャメチャではなかった。
今もほら、カラアゲさんがゴブリンとスライムの敵モンスターと戦っている。
私は、ゴブリンの長と戦うまで体力を温存しておけと言われた。
決して楽な旅じゃなかったわ。
トイレに行く時なんか、人生で初めて父親以外の男性のアレを見てしまったし…
こういう時の食事の味は食べれたものじゃない。ましてや私は一日中家でぬくぬくしていた人間。
お母さんが作ってくれたそれなりにおいしいご飯を食べ、お母さんがいない時はコンビニ弁当やお父さんと一緒に外食。
舌が肥えているとは言い難いけど、その辺で採取した木の実を食べたり乾かした芋や米だけの食事はやっぱり辛い。
驚いたのは、運動は得意な方じゃなかったのにここまで山を登っても、息切れしていないこと。
キャラクターは設定通りになっているようね。
「お疲れ様ですカラアゲさん。」
村の兵士がカラアゲさんにタオルを渡している。
我が小説ながら不思議に思う。
兵士がいるのに戦わない不思議。
私が書いていた時は確か、戦うのはキャラクターの役目で、名前も与えられない村人や兵士は戦わないとか勝手に理由つけてたなぁー。
「作者都合ってことなのかな?」
「ん?」
あ、うっかり口に出しちゃった。
カラアゲさんがこっち向いてる。
「あはは。何でもないですよー。」
笑ってごまかす。
「それにしてもアヤメはすごいな。この山道を息も切らさずに登っているなんて。」
戦闘後の汗を拭きながらカラアゲさん私に言う。
「そうですか?いやーカラアゲさんは戦闘しながらじゃないですかぁー。」
まぁ私の場合はズルなんだけどね。
そろそろ山頂か…はぁ憂鬱だな。
なぁーんであんな展開にしちゃったかなぁ?
「止まれ。」
カラアゲさんだ。
あそこがゴブリンの巣。そう、私も巣を見つけたカラアゲっていうキャラクターが主人公に止まれと言うようにラノベに書いた。
全員が私を見ている。
私が書いたラノベ、『自発ください#いいねで気になった人お迎え~お別れはブロ解で~←これのせいで異世界転生しましたw』だとこの後、主人公が前に出て自分が戦うと宣言するんだよね。
この間はつまり、私の行動と発言待ちってことだね。
「俺が戦うよ。」
そう言って私は前に出た。
「おぉ!さすがは勇者殿!頑張ってくだされ!」
うるさいよ!戦わないモブキャラの兵士のくせに。
意を決して私はゴブリンの巣の前に飛び出た。