第六稿その5
宿屋の話は暇を持て余している今の私にはもってこいだった。
猫を探しているらしかった。
この広い町で、滞在している間だけでいいから、時間が許す限りで猫を探して欲しいと頼まれたのだ。
勇者たる私が、善良なる市民の願いを聞き入れないでどうする!
ということで、黒と白のシマウマみたいな模様のチビ猫を探しつつ、町の散策に出かけた。
「んあー!芸術の町!いいなぁー!心が躍るってこのことだわー!」
立ち並ぶ陶芸品を見ながら独り言を話す。
「おや勇者様。」
町の人に言い止められても、宿屋の猫を探しているって理由を言うだけで納得してもらえる。
炭鉱の町の二の舞にはならずに済んだね。
…
広い町を探し回ったけどやっぱり簡単に見つけることはできないね。
夕方に宿屋に戻ると、カラアゲさんとナポリタンがもう部屋に居た。
「1日じゃ回りきれないけど十分満足したよ。明日からはみんなに合流するよ。今日はありがとう!」
何だか分からないけど、ナポリタンは勝手に自分の中で納得したようだ。
「うむ。俺も今後の目標ができた。魔王を討伐したらこの町で本格的に武器作りにチャレンジしてみようと思う。あの娘に必ず戻ると約束した。」
はぁー!何言ってんのこのおっさんは!あんたとあの娘店主。親子ほどの年の差があるよ?犯罪だよ!
まぁでも、生きて戻るって目標が出来たのはいいことか。
「で、アヤメは何してたんだ?」
まだ頬をやや染めながらカラアゲさんが聞いてくる。
ふっふっふ。正直、今日の私の行動は自身がある。
「まず、道具屋と食糧屋と武具屋の場所を聞いて、その後この宿屋の従業員の飼い猫を探し回ってました。」
胸を張る私を見る2人の目が冷たい。
おかしいぞ。
「で、アヤメ。武器とかアイテムは揃えたのか?」
ナポリタンが聞いてくる。
答えはもちろんノーだ。だってアイテムとかよく分かんないし。
「食糧の調達は?」
ナポリタンの隣でカラアゲさんが聞いてくる。
もちろんノーだ。私は料理をしたことがない。したことがないは大げさか。学校の授業とかではしたことあるしね。
あれ?二人が残念そうな感じになってる。何で?
「あのなアヤメ。確かにアヤメは怪我とか全然しないからアイテムとか不要かもしれないけど、オレ達には必須なんだ。」
言われなくても分かってるよ?でもどのアイテムがどんな効果があるとか教えてくれたことあった?ないよね?教えられてないんだから分かるわけがない。
よくさ、見て覚えろとか、感覚で覚えろって言う人いるけどそれが出来る人って一部の人だけだから。言われなくても自分で調べようとするのとかも一部の人間しかできない。
そもそもね、自分に必要のないものに対しては調べようって気すら起きないのが人間ってものさ。
「もういいナポリタン。アイテムのことを教えなかった俺たちにも責任はある。」
ほらね?カラアゲさんは分かってる。
「明日、みんなで買い出しに行こう。そしたら出発だ。」
カラアゲさんがそう言って、今夜はお開きになった。
翌朝、全ての必要なものを揃えた私達は芸術の町を後にした。
ま、どうせまた戻ってくるんだけどね。
それを知るのは私だけだ。
少しずつ魔王が支配する都市に近づくにつれて、私の胸がざわつく理由を、この時はまだよく分からなかった。




