第二十六稿その3
「なっ! 何であんたがいるのよ!」
シーナルがいることに気が付いた私の第一声がそれだった。
そりゃそうだ。
パクチー君はラクサと戦っていたはずだし、あのラクサは今目の前にいるナルシスト男シーナルと同じ強さの小将軍の階級のはずだもん。
「あぁ……とうとう会ってしまったね天使ちゃん」
鏡で自分の顔を見ながら私を天使と呼ぶナルシスト男がシーナルだ。
ラクサはややボロボロなのにシーナルが無傷なのを見ると、実力的にはシーナルの方が上なのかな?
「私には大事なお仕事があります。ですから貴方と遊んであげることが今はできません。申し訳ありませんがまたの機会に――」
うっさいわ!
私はシーナルの話しを聞かずに殴りかかった。
「やれやれ……貴方も私と戦うというのですか……掌具:悪魔の鏡」
シーナルが持っていた手鏡で私を映してくる。
「バカ! 攻撃をやめろ!」
パクチー君が言ってくるけどそんな簡単に攻撃を止められるわけないじゃん。
私がシーナルの手鏡を攻撃した時、その掌具の効果が発揮された。
本来、手鏡をパンチしたんだから手鏡が割れてもおかしくない。
いくらデブスニートの私だとはいえ、鏡を割る力くらいはある。
でもパンチのダメージは私にきた。
「なるほどね」
思わず言葉が出た。
まぁよくある力よね。
「鏡に映った人物にダメージを移す効果があるようね」
パクチー君にもその効果が分かるようにわざと声に出して言ったんだけど、その効果は別のところで効いたようだ。
「さすがは私が認めた天使なだけはある。洞察力もかなりのものだね」
シーナルがうっとりして私を見るけど、あんたには言ってない。
そして私はいつ認められたんだよ。
「ま、こんなの鏡を攻撃しなければいいだけだから怖くないよ」
そう私が言うとパクチー君が目をパチクリさせた。
「しかし、奴がどんなタイミング掌具を使ってくるかなんてわかんねーぞ」
「それが分かるんだなぁー」
人差し指を左右に振って、チッチッチと得意そうな顔をすると、シーナルが会話に割り込んできた。
「そうです! いくら貴方が賢い天使ちゃんでも私の思考が読めるわけがありません」
鬱陶しいなぁーもう。
でも今ここで種明かしをしたら、掌握軍にこのことが知れてしまう。
私だけが気づいているであろう掌具や握器、偉才の力を行使する際の合図。これは大きなアドバンテージになるはず。
「後で教える」
そう言い残して私はシーナルの方へ再び向かう。
あいつがどんな偉才を持っているのか知らないけど、使うタイミングさえわかれば避けられる可能性が高いからね。
「そいつは触れた物の形状を変化させる偉才を使うぞ!」
後ろからパクチー君が教えてくれる。
触っている物の姿形を変える力ね。
そこまで攻撃的には思えないけど油断は禁物ね。
「偉才、少し落ち着きませんか?」
これか!
シーナルが石を手に持っているのを見る限り、あの石の形状を変化させて私に攻撃してくるんだろうね。
普通に考えれば真っ直ぐにしか攻撃できないと思うけど、くねくね曲げられるとも考えておいた方がいいね。
とりあえず私はシーナルの直線上に居るわけだから、およそ1歩横にずれてみた。
ちょうどさっきまで私が居た場所をもの凄い速さで棒状に変化した石が通って行った。
「な!」
その石を避けたことにシーナルが絶句する。
ふふん。見たか。
「俺への攻撃よりも速かったのにか……」
パクチー君も驚いてるね。
確かに速かったけど攻撃の合図があるから避けられる避けられる。
「仕方ないですね……偉才、少し落ち着きませんか?」
シーナルがやれやれと首を振りながら偉才を使う。
また同じ攻撃?
そう思ったけど違った。
シーナルは偉才を行使した後、小さな箱のようなものを地面に置いた。
サレから何か預かってたのかな? とも思ったけど、それも違った。
どうやら掌具の1つを小さくして運んでいたようだ。
掌具がみるみる大きくなり、元々の大きさに戻る。
「食器棚……?」
思わず困惑の声が出た。
そう。シーナルが大きさを戻した掌具は食器棚そのものだった。
「気をつけろ。見た目がなんであれ掌具に変わりはないぞ」
パクチー君が注意を促しながら私の隣に来る。一緒に戦うつもりのようだ。
確かにそうだね。油断は禁物だよね。
「私にこの掌具を使わせた以上、貴方に勝ち目はありません。できることなら今のうちに降参して欲しいものです」
悲しそうな目をして私に言う。あれは本心から言っているんだとアホな私にも分かる。シーナルはきっと本気で私のことを心配してくれている。でも――
「それならあんたが退きなさい!」
びしっとシーナルを指さす。
「それができないことは貴方も分かっているでしょう」
そう言ってシーナルは食器棚の上段のドアを開けた。
中にはびっしりと食器が並んでいるのが見える。
「忠告しましょう。これらは全て掌具と握器です」
「あの食器が全部?」
それにはさすがの私も驚いた。
「あの棚は掌具や握器を入れておくための掌具ってわけか……」
チッと短く舌打ちをしつつもパクチー君が突っ込まないところを見ると、やっぱりどんな力があるか分からない上にあれだけの量となるとうかつに攻撃できないよね……
「握器:首輪針」
いくつかのお皿が鋭い針となって私たちに飛んできた。
「握器:首飾りの重り(ウエイトネックレス)」
別のお皿を投げながら別の握器を使ってくる。
そのお皿は大きな岩となって私たちに降ってくる。
これまた何枚もお皿を投げてくる。
「前からは針……上空からは巨大な岩……そして後ろと左右には沼を発生させます。掌具:靴沼」
2枚のお皿は靴沼だったのか!
「パクチー! 私の後ろに隠れて!」
私は聖盾を前に掲げて針からの攻撃に備える。
「こんな量の掌具や握器を一度に扱うとは……やつの気力は底なしか……」
「それに靴沼は靴の形をした掌具だったはず。それがお皿ってことはあいつの偉才で色んな掌具や握器を食器の姿にしているってことだよ。あいつの偉才は石とかの形を変形させるだけじゃなくて姿まで変えることができるんだ!」
何本もの針が私たちに迫ってくる中、私とパクチー君はシーナルの凄さを実感した――




