第二十六稿その2
シーナルが現れるよりも少し前の時間――
私はシカカの沼にはまって身動きが取れない状態だった。
実に情けない。
足をバタバタしてみるけど、底なし沼のように足が届かないし体も動く気配がない。
そもそも私は運動が苦手なんだよね。
よくわかんないけどさ、こーゆー状況って泳ぎが得意だったら簡単に抜け出せるとかありそうじゃん?
だけどね。デブスニートの私にはそういう経験がないからどうやったら抜け出せるのかさっぱりわかんないんだよね。
けど、パセリってキャラは運動神経もいいし動体視力もいいキャラなんだ。
だからほら、シカカが私に向かって走ってくるのがよく見える。
まぁこれは誰でも見えるのかも知れないけど、何となく頭でどうしたらいいのかが分かる不思議な感覚があるんだよ。
だから私はパセリのこの感覚を信じることにした。
まずは私を確実に確実に倒そうとしてくるシカカは、その手に指輪剣を持っている。
あの手を掴んでそのまま引っ張って沼から上がる! これしかないよね。
ほら私を刺しに来た。
私は指輪剣が私に届く前にシカカの腕を掴んだ。
そのままぐいっと腕を引っ張って自分の体を沼から引き上げる。
シカカを踏み台にして見事沼からの蘇生に成功した!
「うらぁー! 見たかぁー」
思わずドスの利いた声を出してしまった。
でもそれだけ嬉しかったってことだからね。
「こっからが勝負よ!」
私が沼に落っこちたシカカを見ると、シカカは沼を消して私と向き合った。
どうやら向こうも相変わらず本気のようね。
「あんたに恨みはねぇがここで勝たないとオイラの人生も無意味なものになっちまう……戦いは嫌いだが勝つためにオイラは握器を使う。握器:火の指輪」
人差し指に嵌めていた赤い宝石の指輪を私に向けてきた。
名前的に炎系統の攻撃でしょ。
ちょっと油断したのがまずかった。
火の指輪の攻撃は、火による光線攻撃だった。つまり、火の線が私に向かって飛んでくるものだ。
しかもそのスピードはかなり速い。
パセリの運動神経と動体視力をもってしても躱せなかった。
「あっぶなぁ!」
でもシカカも上手に火の指輪を扱えるわけじゃなさそうね。
本当なら私の心臓とか脳とかを狙ったはずなのに、当たったのは左肩。しかもかすった程度。
めっちゃ火傷した感じにジンジン痛むけどほとんどノーダメージに近い。
「やっぱり攻撃は好きじゃないな……」
なんて呟いているけど負け惜しみかしら?
もしも負け惜しみじゃなくて本気で言ってるんだとしたら、わざと外したとも取れるんだけど……
そう思ってシカカの顔を盗み見たら目が合った。
「次は外さない」
とか言ってるしー!
「わ、私だってもう当たらないわよ」
なんて強がってみたものの、あんな速い攻撃どうやって避けたらいいの?
そういえばパクチー君が、攻撃には必ず癖があるとか言ってたっけ。
その癖を見抜ければ攻撃を避けるのは簡単で、逆もまた然りって言われたなぁ。
つまりあの火の線を出す前に何かしらの前兆がある可能性がある。
そういえば掌握軍って、掌具を使う時も握器を使う時も偉才を使う時も必ず口にだすよね。血祭とか妖精魔法もそうだけど。
あれってたぶん私が描いたラノベの影響だよね。
攻撃する時に必ず技名を言って攻撃するようにしてたし。
実際に体験すれば分かるけど、物凄くダサい。
でもつまりそれが攻撃の合図だから避ける合図にもなる。
それに熱線攻撃は指輪を私に向けないと攻撃が出せない。
注視してれば私に当たることはない!
「握器:火の指輪」
ほらきた!
この言葉と同時に私は体を横に滑らせるように移動する。
やっぱりパクチー君の言った通りだね。
攻撃の宣言をした後に私に指輪を向けてるし。
これでもうあの沼にもはまらないわ。
「火の指輪を避けただと?」
シカカがびっくりしてるけど当然よね。
「もうあなたの攻撃は私に当たらないわ」
ビシッとシカカを指さして決め台詞と決めポーズを決める私。かっこいいねぇ~。
「オイラの攻撃が当たらないだと? そんな御伽噺のようなことがあるか! 偉才、いつの間にそんなところに。掌具:靴沼」
頭に血がのぼったのかしらね。立て続けに偉才と掌具を使ってきたね。
でも大丈夫。
まずは場所が入れ替わって、そこの地面が沼化するんだろうけど、入れ替わった瞬間に走り出せばは沼にはまることはない!
ほらね? 私とシカカの場所が入れ替わった瞬間に走り出したから沼化の攻撃は無効化されたでしょ?
それにパクチー君が言ってたよね。強力な力を扱う偉才や掌具に握器はそれなりに体力を必要とするって。
そんな私の耳に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「いいでしょう。相手をしてあげましょう」
シーナルがパクチー君に言っていた言葉が私のところまで聞こえてきた。
気が付けば私とシカカは、パクチー君とラクサの戦いの場の近くまで来ていたようだ。




