第二十六稿その1
パクチーの爪がラクサに迫る時、背後から声がした。
「いつまで時間をかけているのですか?」
パクチーにとってもラクサにとっても大きな誤算だろう。
なんとケルベロス部隊のシーナルが現れたのだ。
驚き戸惑ったパクチーの攻撃は止まり、パクチー以上にラクサは驚いていた。
「なんでお前がここに!」
「なんで? ここらの前線が押されていると聞いてわざわざケルベロス部隊の私が駆け付けたのではないですか」
やれやれと首を横に振る。
その手にはソーサーとカップがあった。
「ケルベロス部隊か……解放軍最強と評されていてサレと同じ部隊のシーナルか」
短く舌打ちをしてパクチーがシーナルに向かって走り出す。
「やれやれ……サレなんかと一緒にしないでほしいですね」
そう言ってシーナルは優雅にカップに入っている紅茶を一口飲んだ。
「呑気に茶なんて飲んでんじゃねぇ!」
爪を伸ばして引っかこうとする。
「やれやれ……お茶の時間は終わりですか……偉才、少し落ち着きませんか?」
カチャン。とカップをソーサーに置いて石ころを拾ってからシーナルは偉才を発動した。
瞬間、石ころの形が変化し鋭く細長い形になりパクチーの方へとどんどん伸びて行った・
「!」
間一髪、鋭く自分の方へと伸びる石ころを避けたがシーナルへの速攻はできなくなってしまった。
「触れた物の形状を変化させる力か……」
パクチーが呟く。
「貴方は私に惚れてしまった勇者のお仲間ですね?」
そう言いながらシーナルは前回同様に手鏡で自分の顔を見ている。
髪型を丁寧に直しながら、ここがもっとこうなどとブツブツ文句を言っている。
「それがどうした?」
パクチーは、惚れたなんだは関係なく今目の前の敵をどう倒そうかだけに思考が回っている。
「あの方に伝えて欲しいのです。私にはまだ大事なお仕事があります。お仕事が終わりましたら私から会いに行きますので、デートはそれまで待っていただけないかと」
ブロンドの長髪を掻き上げて、ピカピカの真っ白い歯を見せながら爽やかな笑顔で敵意を完全に剥きだしているパクチーに言っている。
「何で俺がんなことしなきゃなんねーんだよ」
「おや? 分かりませんか? 貴方を見逃すから早くここを立ち去りなさいと言っているんですが?」
やれやれと再び首を振り、頭まで悪いとはとシーナルがため息をつく。
「俺がてめぇに勝てねぇとでも?」
爪を伸ばしてシーナルに向かって再び走り出す。
「見た目だけでなく性格まで不細工ですね。掌具:悪魔の鏡」
シーナルが持っていた鏡は掌具だったようだ。
その鏡にパクチーが映し出される。
『これはまずそうだ!』
そう思ったパクチーは急遽攻撃を止める。
「正解ですよ」
ふふ。と怪しい笑みを浮かべてシーナルがくるりと背中を見せる。
「どこ行くつもりだよ」
シーナルの眼中にパクチーは居なかった。
パクチーはそれを感じ取ってつっかかる。
「どこって、ここは貴方がいて前線を押し上げるのが難しいじゃないですか。私はすぐにここの前線を押し上げて元の仕事に戻らないといけないのです。別のところの前線をさっさと押し上げるだけですが?」
後ろ手を振ってシーナルが歩き出す。
「俺に勝てるんじゃないのか?」
「えぇ勝てますよ? ですが時間はかかりますよね? イマドキタイムパフォーマンスって大事なんですよ? 分かりますか? タイパですタイパ」
行きますよラクサ。と指示を出してシーナルが歩き出そうとした。
「ざけんな!」
パクチーにとってここまでこけにされたのは初めてのことだろう。
キレてシーナルの顔面を殴ろうとすると、ラクサがその手を掴んで止めた。
「バカヤロウ! こいつの顔を傷付けんじゃねぇ! 手が付けらんなくなるぞ」
自分のパンチを止められたことに驚きつつもパクチーは、フンと鼻を鳴らした。
「いいでしょう。相手をしてあげましょう」
顔を狙われたことでシーナルも本気になったようだ。




