第二十五稿その3
最初に違和感を感じたのは、爪攻撃を加えた右手に小さなきのこが生えたことだった。
『何だ? 右手がしびれてる?』
さっきのきのこが原因だということはすぐに分かる。
しびれが少しずつ広がっていることから、時間制限があることも分かる。
『あいつが言ってたのはこういうことか……』
パクチーはルッコラが言っていたことを思い出していた。
「敵の能力がどんなのか分からない場合、うかつに近づかないのが鉄則だよ。それでも触れてしまうことがあると思うんだ。そんな時は敵にその攻撃を解除させるか自分で無理やり解除する必要があるんだ」
「自分で無理やりってどうやって解除するんだ?」
前回パクチーがそう問うと、ルッコラは難しい顔をしてこう答えたんだった。
「場合によるけど、例えば体の一部の自由が効かなくなったらそこを切り離すとかが代表例だよ? あとは敵を気絶させてみるとか」
「気絶させれば必ず解除できるもんなのか?」
「必ずとは言えないけどほとんどの場合が、その術者の意識と連動していると思っていいよ。ただ、触れるだけで効果が発揮できる力の場合、時間と共に体全体にその効果が侵食される可能性もあるから気をつけてね」
この言葉を思い出し、パクチーはいずれ体全体にしびれが広がる可能性を視野に入れた。
「時間がねぇ。さっさと終わらせるぞ」
パクチーがギロリとラクサを睨む。
「ほう? 即座に時間がないことを悟るとは、なかなかの分析力だ」
ラクサが褒めるが、どうやらさっさと終わらせる気はないようだ。
既にパクチーの腕のしびれは肘のあたりまできている。
『思ったよりも進行がはやいな……』
小さく舌打ちをしたパクチーは、最後の新しい血祭を使う。
「血祭、雷光」
ラクサには、目の前にいたパクチーが一瞬にして消えたようにしか見えなかった。
気が付いた時には自分は殴り飛ばされていた。
しかしここでラクサも気が付いたことがある。
「なるほどな……血祭という技。一度に使えるのは一種類だけのようだな。今の一瞬にして移動する技やくっつける技の時には爪を伸ばしていないもんな」
殴り飛ばされたラクサがゆっくりと起き上がりながら言う。
「気絶させるつもりで殴ったんだがな」
短く舌打ちをしながらパクチーがそれに答える。
ラクサの考察は正しい。
血祭は掌具や握器と違って複数同時に使えるものではない。
その上、大抵の力が大きく体力を消耗する。
そしてパクチーは今や右手が肩までしびれてきていることで、焦りもしていた。
「焦りは敵と己を見失うぞ?」
にやりとラクサが笑う。
「掌具:靴沼」
「しまった!」
焦ったパクチーはアヤメ(パセリ)と同じ沼にはまってしまった。




