[第四話] 謎の少女
「人形が欲しい」
とぎれとぎれの声から何とか聞き取った言葉はそれだった。
何度も何度も機械のように繰り返し同じようなことを言っている。
この念話は一体誰から来たんだ…?
もしかして私の人形を操作してた本人?
でも…こんな声じゃ誰かなんてわからないな…
「 もしもし…? あのもっと大きな声で喋ってくれないかな? その声じゃ聞き取れないよ」
相手に声を大きくするよう頼むと、少しの間沈黙が続いた後、また喋り始めた。
音量はさっきまでと比べたら大分ましになり、まだまだ小さいが充分聞き取れる声になっていた。
「 あの…おにんぎょう…ほしい…」
はっきりとした声になったおかげで、どんな声なのかがわかるようになった
幼い女の子の声だった。
この声の感じ…6歳ぐらいかな…?なんとなく女の子っぽい感じだったからある程度予想はしてたけど…。
てかこの年齢の子が念話使って私に話しかけてきたってこと?
最近の子どもはすごいな。
私なんて念話が使いこなせるようになったの半年間ぐらいからなのに…
これが才能ってやつなのか?
色々聞きたいことがあるから順番に聞いてみよう
とりあえずどこから操ってたか聞いてみようっと
「 いまどこにいるかな? 近くだったら会えるし、そのままプレゼントできるね!」
「 おねえちゃんなにいってるの? メイはおねえちゃんのまえにずっといるよ?」
予想の上をいく回答に、少しの間フリーズしてしまった。
どういうこと!? 私の前になんてだれもいなくないか?
あと今サラッと名前言ってなかった?
メイが何とかって…この子メイって言うのか。
「 あのね、おねえちゃんね、メ、メイちゃん?が見えないんだけど間違えてない?」
「 うん! メイはずっとおねえちゃんのまえにいるよ!ウソついてないよ!」
元気な声でそう答えられた。
そういわれてもねぇ…見えないもんなあ…
というかなんとなくだけど、この子話すの慣れてきた?最初と比べたらもはや別人のテンションだけど…
この子の正体を探ろうとしてんのに、なんかこっちが振り回されてる感じするな
少し方向性を変えて質問してみるか
「 メイちゃん? おねえちゃんが今何してるかわかる?」
こう言いながら、近くの棚から分厚い魔法指南書を手に持って読むふりをする
これならどうだ!
これでこの子が私の近くにいるかどうかが確認できるだろ!
「 えっとね、おねえちゃんほんよんでる!じがだくさんあるほん!」
当たってる… なんで!?
もしかして、どっからか見てる?
ドアは閉まってるし、窓から外を一通り見ても人影はない…
まだだ。もしかしたら偶然かもしれないし、もう一回!
こうして様々な質問を繰り返ししてみたものの、彼女の詳細な情報は得られない。
何度質問してもよくわからない答えが返ってくる…
どこに住んでる?って聞いたら存在しない村の名前を答えたり、
私のこと知ってる?って聞いたら「知らなかったけど友達が教えてくれた」とか言うし、
今どんな格好してる?って聞いたら「スケスケ!」って言うし、
もうわけわからん。
なんだよ「知らなかったけど友達が教えてくれた」って。
この子のの友達の顔が広すぎか、こんな小さな子の友達にも知れ渡ってるかのどっちかだろうな。
それと「スケスケ!」も意味わからん。
スケスケってなんなん?
幽霊か?
私、幽霊と話してるのか?
いろいろ突っ込みどころありすぎて、疲れてきた…。
というか、かなり話脱線してたけどこれってこの子が人形欲しいって話だったよね?
なんでほしいんだろうか…?
「 メイちゃんは何でこの人形が欲しいのかな? お姉ちゃんに教えてくれない?」
「 えっと…それはね… かわいいから!」
それだけ!? もっとなんかあると思ってたんだけどそれだけ!?
思ったより普通な回答が返ってきて驚いた。
いや、これまでの答えが予想外すぎたからかもしれないけど。
もう少し根本的なこと聞いてみるか。
「 メイちゃんはどうやってこの人形を動かしたの?魔法?」
「 えっとね…にんぎょうさんをみて、んーってちからをこめると、ともだちが代わりにうごかしてくれるの!」
またでたよ、友達。
今度はこの子の代わりに人形を操作したらしいぞ。
優秀すぎない?
「 お友達っていま一緒にいる?いたら返事してほしいな~」
「 ともだちはね、おしゃべりとかできないけど、でもいっしょにいるよ!」
「 お友達は何人ぐらいいるの? 」
「 ともだちはね、たくさんいてね、りょうてでかぞえられないよ!」
「 お友達はここにいる?」
「 いるよ!だってメイにずーっとついてきてくれるもん!いまもおねえちゃんのまわりにいっぱいいるよ!」
いっぱいいるの!? 怖い怖い怖い…
やっぱり幽霊なのか?
沢山の幽霊にみられてると思うとゾッとするな…
念話の相手の答えに対して戸惑っていると、突然マリアさんが訪ねてきた。
「 あの!少し話したいことがあるのですがいいですか?」
「 あ、マリアさん。どうしたんですかー?」
ドアを開け、対面する。
「 小さなことなのですが、私の部屋の魔障計が見たことのない数値を指してて…そっちはどうですか?」
「 わかった ちょっと見てみるー!」
魔障計は文字通り周辺の魔障濃度を測る器具。
魔障は別名 [一途な魔力] とも呼ばれており、空気中に漂う魔力の中でもトップクラスに危険で固有名称までつく魔力。
魔障による事故も多数起きており、魔障の密度が高い地域に足を踏み入れれば助かる可能性は0に近いとも。
人体に悪影響を及ぼす魔障から避けるために、学校等の大規模施設にはもちろん、一般家庭にも普及している。
警報装置的な役割を果たしている。最近はある一定以上の魔障を感知すると音が鳴り出すやつもあるそうだ。
急いで確認してみると、マリアさんの言う通り部屋に常備された魔障計が異常な値を示していた。
「 これやばくない…? 」
異常な数値を前に、思わず声が漏れる。
「 エリアさん!逃げたほうがよくないですか?ちょうど5~6分前ぐらいからこうなってたらしくて…」
「 確かにこれは異常だよね… 計器の問題とかではなさそうだし…」
かなり危険な状況に焦っていると、頭の中に、あの声が語り掛けてきた、
「…おねえちゃん?…だいじょうぶ?」
あ、忘れてた。
念話をつないだまま、この子を放置しちゃってた。
空気を読んで喋らないようにしてたのかな…?
「 だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「 よかった!」
とりあえずここから離れないとな…
しっかしなんでこんなところに…というかあんな異常な魔障計になんで気づかなかったんだ?
普通気づくもんだけど…なんでだろう…
ん…?
ちょっと待てよ?
あれ…
マリアさん…
確か「5~6分前ぐらいからこうなってた」って言ってなかったっけ…?
そして私がこの子と会話し始めたのもちょうど5分前ぐらい…
この子との会話に集中してたせいで、魔障計の異常に気付かなかった…?
もしかして…
私の中でひとつの疑問が浮かび上がった。
検証してみるか。