[第一話] 人形を追いかけろ
「 まてー! 逃げるなー! 」
苦手な脚力強化魔法を頑張って使いながら、建物を縦横無尽に逃げ回る人形を必死に追いかける。
人形は小さく、そしてなぜかとっても素早い。
小さな隙間を難なく通り抜けていき、どんどん差がつけられる。
数分追いかけ、高い壁に囲まれた場所に追い詰めたと思ったその時、壁と壁の小さな隙間に逃げ込まれ人形を逃がしてしまった…
何とかして壁の向こう側に行こうと思ったけど…壁を越えれないと気づいたその瞬間。
力が抜けてその場に座り込んだ。
「 はぁはぁ… 逃げられちゃった… ていうか、今更だけどっ…なんであの人形がっ……動いてるんだよー!? 」
息を切らした私のすこしかすれた声が町中で響いた。
少しの間、夕焼けに染まった空をボーっとしながら見つめて休憩をした。
「 結局あの人形には逃げられるし、苦手な魔法を無理に使ってへとへとだし、なによりここどこ… 」
人形を無我夢中に追いかけていたせいで、ここがどこか分からなくなってしまった。
見知らぬ街並みが延々と続き、見回しても見知った場所は見つからない。
「 これ、夜までに帰れるかな…? 」
ゆっくりと立ち上がり、大通りへの道へと足を進める。
一旦冷静に、これまでのことを整理してみよう。
ーーー この私、フォルニス・エリアノールがこんなことになったのにも理由がある。
一昨日私は、3週間かけた人形もといゴーレムを完成させた。
ゴーレムといっても、ごつい恰好をした、いかにもなやつではなく、どちらかというとぬいぐるみのようなやつだけどね。
いままで何体も作っていて、真面目につくるのはこれで6回目、ふざけてつくったゴーレムも含めて数えると………
えーっと10, 20 ,30…まあ沢山あるんだよ。
それで今までのゴーレムの中で一番時間かけて作ったゴーレムはってわけだ。
3週間、寝る間も惜しんで作り上げた、自信作になる…予定だったんだけど…
完成した人形が朝になると、部屋からなくなっていたっていう…。
しかも、窓が割れているときたもんだから盗まれたのかと一瞬思ったけど、
すぐに「 そんなわけないじゃん 」って気づいた。
こんな一学生の人形を好き好んでどっかに持っていく物好きなんていないしね。というかいてたまるか。
それでも頑張って作った人形がどっかいった事実は変わらないわけでさ…
朝からもやもやした気持ちで、授業をうけていたんだけど
昼休み前の4時限目、魔法演習の授業にて、いつも通りちょっとだけやってサボっていたら
なんと、演習場の隅に生えている木によりかかっているのを見つけたんだよ。
少し土埃をかぶって汚れてたけど、見つかって良かったー!って思って自分の部屋に持ち帰ったんだ。
そしたら、その日の夜。見てしまったんだ…
何か大きな物音が窓の方からして、はっ!て起きて音のした方を見たら…なんと…
人形が動いてたんだよね。
一瞬夢かと思って、頬を叩いたりしてみたんだけど、どうやら違うらしい。
そんで、人形はそのまま窓に開いた穴から外に飛び出して行っちゃって…
急いで起き上がって、窓から外を覗き込んだけど、夜だからどこいったから全くわからなくて、
わけわからなくて、速攻寝ちゃった。
そして今朝。
今日は学校が休みだーって思って、気分転換にゴーレムの材料買うために出かけてて
日も落ちてきてるし帰ろう!って思ったその時、目の前の広場に件の人形がさ、いるわけよ。
周りをきょろきょろ見渡して、目立ちまくり。
見つけた!って心の中でガッツポーズ決めながら、そっと気づかれないように近づいて行ったんだ。
今思うとかなり不振な動きしてたから、もっと目立ってたかもしれん。
それで、近くに近づいて、魔法で拘束しようとしたら気づかれて、逃げられたから急いで追いかけるわけ。
そんでもって人形との追いかけっこが始まったって感じ。
いろいろおかしいな、うん。
おかしいところはたくさんあるけど、一番おかしいのは…人形が動いていることだよっ!
あの人形は、まだゴーレムの器を作った段階ってだけで、動力源となる「コア」を付けてないはずなんだ。
それなのに動いてるってのもおかしいし、そもそもゴーレムを動かす魔力も供給してないし、
それにあんな素早く動くゴーレムなんてみたことない。
私の知るゴーレムはもっとこう…のっそり、ゆったり動くのんびり屋なはずなんだ!
そんなことをいろいろ考えながら、街の大通りを歩いていき、日が完全に落ちて夜になったころやっと寮に戻ることができた。
「 しょうがない。」と自分に言い聞かせ、今日は寝る。
翌日の朝、気を取り直してあたらしい人形を作ろうかなとも思ったんだけど、
さすがに一から作るのは面倒だから、前に作りっぱなしで放置してた人形に着せる用の服を縫ってみることにしたんだ
前はすぐに飽きちゃって中途半端な状態で放り投げちゃったけど、今こうやって改めて服を縫っていると意外と楽しくなってきちゃうんだな、これが。
夢中になってずっとやってたら、気づいたらお昼時だったわけよ。
ちょうどある程度縫い終わってあとは飾りつけるだけって状態だからキリもいいし、ってことで学校の食堂にお昼を買いにいったわけ。
いつも買ってるサンドイッチ片手に部屋で食べようと思って帰ってきたら、
部屋のドアノブに手をかけたその時、部屋のなかで大きな音がした。
急いでドアを開けるとそこには、昨日必死の追いかけっこの末、逃げられた憎きあいつが机の上にいた…。
初投稿です。頑張って書いていこうと思います。
感想等いただけると執筆の励みになるので、よろしくお願いします。