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8.団体戦② 噛ませ犬、スルメ

お読み頂きありがとうございます。

「では、始め!」


 試合開始を告げる合図が鳴った。


「ヒャッハー! 試合中なら、間違って殺しても事故で済むよなぁ!?」


 試合が始まったと言うのに、不敵な笑みを浮かべ動かないスルメ。


 ……大体コイツの考えている事は読める。

 もはや勝ちは明確だから、どうやって倒してやろうか、などと考えているのであろう。


 だが、しかし……それでは困るのだ。このままコイツに舐めプをされていては、余計に時間が掛かってしまう。

 そんな事したら……俺の腸が耐えられる筈がなかろう。大惨事となる。

 元史上最強の大魔術師である、この”俺”が、大衆の面前でそんな無様な姿を晒す訳にはいかない。


 とは言っても、腹痛が酷くて目眩がし、俺も動けずに居たので、ここはコイツを挑発する事にした。


「いいからかかってこいよ。カァ……スゥ……」


 スルメに向けた人差し指をクイクイッとこちらに向け、青ざめた顔で、気を抜けるよう声で挑発した。

 一般的にはダサい挑発だが、この場面ではかなり有効であった。


「きーさーまー!!」


 怒り狂い、その場で地団駄を踏むスルメ。


 ……いや、そう言うの、いいから。さっさとかかってきて欲しい。

 俺の腸は限界なんだ。

 もう一つ挑発を入れることにした。


「はやく、来いよ。カァ……スゥ……」


「ヒャッハー! お前は二回殺してやるぜー! 俺の名前を聞くが良い! 名を馳せているこの俺の名は、あの――」


「――しめた!」


 こちらに走って来ながら丁寧に自己紹介をするスルメの動きが止まった。


 第六次元魔法である、シャノンの時空操作魔法であった。


 敵を近くに寄せ付けたのは、シャノンの魔力量では時空操作魔法による時間を停止することが可能な範囲が小さかったからである。


 尚且つ、腹痛による目眩のため、魔法を遠方へと命中する事が出来るという確証が無かったから。


 だが、この魔法はかなりの魔力量を消費する。

 特に魔力量の少ないシャノンにとっては、その影響は計り知れないであろう。

 時間を止めれるのも、3秒と言ったところだろう。


 そして、シャノンの右手が黄色く光り始める。


「いくぜ……痺空風(パラリシス・ウィンド)!」


 動きを止めている相手のスルメに対し、右手を突き出し黄色い風を送る。


 痺空風(パラリシス・ウィンド)とは、大気中の空気を、生物を痺れさせる空気へと変化させ、風として対象に飛ばす魔法である。


「この魔法なら……相手を殺さず勝つことが出来る。これこそまさに、”スマート”だ!」


 スルメの体にその風が触れるや否や、スルメは痙攣を起こし、泡を吹きながら崩れ落ちた。


「ど、どうじでぇ……」


 体をピクピクしながら白目で俺の方を向き、スルメは問う。


「……貴様の時間を止めたんだよ。その間に貴様を痺れさせた。それだけだ」


「……ぞんなバガなぁ……」


 苦しそうにスルメはそう言うと、気を失ったのか言葉を発しなくなった。


 ……俺は確信した。もはや、コイツは戦闘不能であろう、と。


「……これは、スルメ選手戦闘不能! よって勝者、シャノン選手!」


 試合終了のアナウンスが鳴った。それと同時に、俺に対するブーイングが会場中に沸き起こる。


『おいお前いま何したんだよ!!』

『つまんねーんだよ! イカサマしたのか!?』

『没落貴族のクセに生意気なんだよ!』


 イカサマと思われても無理はないだろう。なんせ、時間を止める事で相手のスルメを動けなくしたのだからな。

 大体の者が、俺が何をしたのか気付かないであろう。


 だが、俺はそんなモノ気にしない。今一番優先すべき事は、トイレに行くことなのだから。

 無事勝てた事だし、トイレに向かうとしよう。


 プルプルとした足取りで、俺は立ち去ろうとした。


 ――その時だった。


「では第二試合を始めます! 東側は、高等部一年シャノン選手!」


「対する西側は、高等部二年イワシ選手!」


 ――しまったー! この試合、勝ち抜き方式だったー!!


 俺の顔を流れる冷や汗の速度が加速する。


 俺は失態を犯した。史上一番の失態と言っても過言では無いかもしれない。

 ……持ってくれよ、俺の腸!


 かくして、スルメに勝利したと同時に、一回戦第二試合が始まった。

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