7.団体戦① シャノンの苦悩
「俺は、何故闘技大会に出てしまったんだ……。」
目の前の屈強な男を前にして、シャノンは冷や汗を流し強く後悔する。
試合が始まる直前でお腹が痛くなってきたのだ。
もしかして今日弁当を食べすぎたせいか? それとも腐ってたりでもしたのか? そう言えば食後のデザートのバナナの味が変だったような……
とにかくお腹が痛すぎて冷や汗が止まらない。
いや、決して屈強な男を前にしてビビってるとか、そういう訳ではない。いや、本当に。
「ヒャッハー! もしかしてこの俺を前にしてビビってるのか!? ガッハッハッ!」
リング上で相対している相手の男が、勝ち誇った笑みを浮かべてシャノンに言う。
いかにも、かませ犬のような男である。
その男に乗じるように、会場の観客たちに笑いが起こり、様々な声が上がる。
『ハハハハ! あの没落貴族、ビビってやがんぞ!』
『いやーん戦う前から汗ダラダラじゃーん! まじキモーイ!』
様々な声と言っても、大概が俺に対する罵声であった。いや、全てと言っても過言ではなかろう。
そんな中、会場に突き刺すような黄色い声が響き渡る。
『シャノンさーん! そんな奴に負けないで! 絶対勝ってー!!』
なんと、アルシェの応援であった。
会場中で俺を応援しているのは、恐らくアルシェくらいであろう。
馬鹿なヤツだ。敵地に一人で突っ込むようなものなのに。
だが、それは俺を奮起させるのに十分であった。
たった一人による応援が、これほど嬉しいと感じたことはない。
だだっ広い観客席から、身を乗り出して声を出しているアルシェを見つけた俺は、「任せろ」とでも言わんばかりに、アルシェに対し、拳を向けた。
「ふっ……決まった……。」
俺は内心カッコつけたつもりでいた。
だが、それは少々頼りなく見えたであろう。
なんせ、腹痛を我慢していたため、足がプルプル震えていたのだ。
その様子を見ていたアルシェは、苦笑いをしているように見えた。
そしてシャノンは、相手の男に対し、続ける。
「この俺がビビるだと……? お前など、俺にとっては取るに足らぬ存ざ……ヴッ……!」
冷や汗をダラダラ流しながら苦しそうに言う。
腹痛が頂点近くまで上り、発する声も少し震えていた。
だが、顔は常にクールを装っていた。
元とはいえ史上最強の大魔術師であるこの俺が、弱みなど他人に見せれるはずがなかろう。
「お前……! もう死んだぞ! お前死ぬの確定! ハイ確定!」
頬をぷっと膨らませ、怒っている。ガタイに似合わず、子供のような怒り方でなんだか可愛く感じる。
しかしこいつは……本当にかませ犬のようだな。もはやこいつの種族は、人間ではなくかませ犬族とかでは無いのだろうか?
そんな事を考えていると――
「ではこれより、闘技大会団体戦第一回戦を行います! 」
試合の始まりを告げるアナウンスが始まった。
「東側は、高等部一年、一番手シャノン選手!」
「対する西側は、高等部二年、一番手スルメ選手!」
「では、始め!」
アナウンスの合図と共に、闘技大会がいよいよ幕を開けた。
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