5.カルポネ、再び
俺たちは闘技場に向かう……はずだった。
「おいおい、没落貴族のシャノン”さん”じゃねーかよ?」
おカッパ頭の少し太った貴族に絡まれてしまった。
シャノンは顎に手を当てて少し思考を巡らせた。
あぁ、コイツは……確か、伯爵エンドレ家のカルポネとか言う奴だったな。
俺が転生する前のシャノンの食べ物を奪い取ってた奴だ。
「おい、何ボーっとしてんだ! 話聞いてんのか?」
「なに、大したことではない。何の用だ? カルポネ。」
「き、貴様ーっ! この俺様を呼び捨てにするなど万死に値するわ! やれい、お前ら!」
頭に血が昇ったのか、顔が真っ赤になり怒り狂うカルポネ。
そして、彼の取り巻きの騎士が三人ほど出てきた。
「はっはっは! この俺様に無礼を働いたこと、後悔させてやる!」
……何を言っているのだ、コイツは? たかが敬称を付けなかっただけでは無いか。
それに……この程度の騎士三人で、俺を倒せると思っているとしたら、奴の頭の中はお花畑であろう。
「……まぁ、よかろう。これが正当防衛というモノか?」
「ふんっ。何処まで強がれるかな?」
カルポネは腕を組み、見下すような目で騎士の後方からシャノンを睨む。
「シャノンさん……大丈夫……?」
「なに、心配するな。安心して見ているといい。」
次の瞬間、カルポネの取り巻き騎士三人が一斉にシャノンに襲いかかる。
「一方向から同時に攻めるとは……戦略というものを知らないのか? 知恵が足りないようだな。」
シャノンは、空気を圧縮したような物を指先に乗せ、拳銃のように騎士に目掛けて放った。
――ドーンドーンドーンッ!
一瞬だった。
シャノンの空気砲によって、騎士たちはカルポネの体の横を通り、十メートル程後方に吹っ飛んだ。
「ほう、少し魔力を込めすぎたか?」
「なっ……!?」
カルポネは驚いたような顔でシャノンを睨む。
「どうした? そんなに驚く事は無いだろう。これは第一次元程度の魔法だぞ?」
確かに、シャノンの空気砲は第一次元魔法程度であった。
だが、威力がケタ違いなのだ。
シャノンの魔力量が少ないとはいえ、その都度適切な魔法術式を展開させている為、シャノンが行使する魔法は常に要する魔力量を最小限に抑え、効果を最大限まで引き出せるようになっている。
要するに、シャノンの魔法は”スマート”であるのだ。
「た、立てぇ貴様ら! 奴を倒せぇ!」
カルポネは騎士たちを奮い立たせ、騎士たちは何とか這いずり立った。
「無駄な事を……。」
そして、再び騎士三人衆はシャノンを目掛けて走り出す。
「……仕方の無い奴らだ。重力落下!」
シャノンが騎士に指した人差し指を地面にクイっと向けると、騎士三人衆はすぐさま地面に対しうつ伏せの状態となり動けなくなった。
シャノンが使用した魔法グラビティフォールは、対象に働く重力の大きさをより大きくする効果を持つ。
「ふむ、流石に第四次元魔法ともなると、魔法に要する魔力量は無視出来ぬな。」
今の魔力量の少ないシャノンの体では、第四次元魔法を使うと負担が大きいようだった。
「き、貴様ーっ! どんな小細工をした!?
重力操作の魔法は、貴族の家系能力の筈だぞ!
それを何故貴様が扱える!?」
カルポネの息は非常に荒れていた。
「何を言っているんだ? 重力操作の魔法術式は、俺が開発したのだぞ。」
何を言っているんだ? と言わんばかりの表情を浮かべ、カルポネはポカーンとしていた。
――ピッピッー!
笛が鳴る音と共に、ノーベル第一学院の制服の上に特徴的な服を羽織った女性がこちらに走ってくる。
何だ何だ? と、シャノンは重力操作の魔法を解除し、女性を見やる。
「ま、マズイっ!風紀委員だ!お前たちズラかるぞ!
……おい、シャノン。俺様がお前を勝手に団体戦に登録させておいたからな。お前がボコられる様を、観客席から楽しませて貰うとしよう! ガッハッハ!」
そう言うや否やカルポネ達は足早と去っていった。
ほう。俺を勝手に出場登録したのはこの豚だったのか。
「……そこの君。ここで何をしていた?」
腰辺りまで伸びた艶やかな黒髪をした、Sっ気のありそうな女性が腰に手を当ててシャノンに問う。
なるほど、カルポネが先程この女を風紀委員だと言っていたが……学校内の風紀を取り締まっているという訳か。
「……あぁ、実は――」
そこでシャノンは、ここで起きた事などを全て風紀委員の女性に話した。
そして、この女は風紀委員長のマナと言う者らしい。黒い制服だから、貴族ではないのだろう。
「なるほど、な……。話は分かった。
団体戦は控え選手も居るはずだから、辞退する事も可能なはずだ。私が辞退の手続きをしておこうか?」
シャノンは顎に手を当てて一考し、答える。
「いいえ、それには及びません。俺も闘技大会には興味があったものでね。」
「……そうか。健闘を祈る!」
そして、風紀委員の女性は立ち去った。
ふむ……闘技大会か。この体にも慣れておきたいところだしな。肩慣らしに丁度良かろう。
大会と言うからには、それなりに骨のある奴らが出場するのだろう。
シャノンはクールに装っているが、内心とてもワクワクしていた。
久々に全力で戦うことが出来そうなシャノンにとって、この闘技大会にはとてもワクワクするものがあった。
何せ、約1000年もの間戦っていなかったのだから。
「……あれ?」
気付くと、アルシェの姿が見当たらない。
カルポネと出会った時は俺の横に居たはず。
周りを見渡しても、やはり見つからない。
そして下に目を向けると、腰を抜かしたように尻もちをついたアルシェがシャノンを見ていた。
「し、シャノンさんって強いんだね……とても……」
シャノンの戦いを見て驚いたようだ。少しプルプル震えていた。
貴族の家系能力と言われている重力操作の魔法まで行使したのだからな。驚くのも無理はない。
「俺は最強だからな。……体が震えているぞ、アルシェ。俺の事が怖いのか?」
シャノンはそう言いながら、尻もちを着いているアルシェに手を差し伸べる。
それを聞き、顔をブンブン横に振るアルシェ。
「う、うぅん! 怖くないよ、むしろカッコよかった! 騎士三人相手に、圧勝しちゃうんだもん!」
猛烈な笑みを浮かべながら、シャノンに差し出された手を握り立ち上がる。
さぁ行こうか、闘技場へ!
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