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3.平民の女の子、アルシェ

 明朝。

 脳内の記憶を探り、自分が学校に通っていることを確認し、制服やカバンなどを探す。


「この制服の色は、また特徴的だな……。」


 白色がベースの制服を身に付け、家を後にした。


 腹は減っているが、寝た為か昨夜ほどではない。

 朝特有の、小鳥がチュンチュン、と鳴く音がシャノンの耳に響く。


「うむ、実にいい朝だ!」


 耳障りの良い音色を聞き、気分が良くなったシャノンは軽く背伸びをする。

 ふぁ〜あ、と欠伸をして涙を拭うと、目の前には弁当や果物を抱えた女の子がフラフラと歩いていた。

 綺麗な黒髪をした、背丈の小さな女の子であった。


「――あ、あぶないっ!」

 

 フラフラと歩いていた女の子が、あわわ、あわわ、と食べ物を落としそうになった所を、シャノンが思いっきり走り出してスライディングキャッチをし、食べ物は無事だった。


「ズゴォォォォォォォ」


 地面と服が擦れる音が鳴る。

 魔法を使えば簡単に落ちないように出来たはずだが、超空腹状態の彼にそんな判断力があるはずもなく。

 

 俺の制服は泥だらけになり、傷などもついた。

 魔法を使えば簡単に元通りにできるのだが、面倒臭いと言う理由で、泥だらけの制服を放置する。


「あ、あの……大丈夫?」


 女の子がハンカチを取り出し、シャノンの制服の泥を拭いだす。

 そして互いの顔が接近した瞬間……女の子の胸が、ドクンッと鳴る。

 顔が接近したまま、女の子はシャノンの目を見つめ続け、目が離せなくなった。


――ぐぅぅぅぅぅ。


 シャノンのお腹が鳴り、間近でお腹の音を聞いた女の子は、ハッ、と我に返った。

 頬を赤く染め、頬に手を当てながら恥ずかしそうに女の子は続けた。


「ご、ごごごごごめんなさい!」


 うーん、急にどうしたんだ? と、シャノンは疑問に思う。


 この状況を考えれば誰もが、女の子がシャノンに好意を寄せていると気付くだろう。

 だがしかし、シャノンはそれに気付かないのだ。

 何せ、前世では魔法にしか興味がなく女性経験が無かった為、密かに周りでは「童帝リベル」と、呼ばれていた程である。


「あ、あのっ……お腹……空いてるんですか?」


 上目遣いで問う女の子に対し、シャノンは答えた。


「いや、そんな事ないですよ。お腹いっぱいだし!」


 お腹が空いていることが恥ずかしいと思ったのか、意地を張るシャノン。


――ぐぅぅぅぅぅ。


 またもやお腹の音が鳴り、小声で白状する。


「う、嘘です……本当は4日くらい何も食べてません……」


「よ、4日!? 死んじゃいますよ! このお弁当食べてください!」


 驚愕した様子を顔に浮かべ、女の子はオロオロしながら道のど真ん中でシートを敷き、弁当を広げる。

 おいおいおいおいおい、とシャノンが言う。


 周りの人の視線が痛い。

 周りには人が歩いているのに道のど真ん中で弁当を食べ始める奴がいるか!

 そう思ったが、この子のご厚意を無下にする訳にもいかず……何より、腹が減っていたのだ。

 有難く頂戴する事にした。


 そして道のど真ん中で道行く人達に注目されながら、シャノンは弁当を口に含む。


「あのっ、貴方のお名前は……?」


「あぁ、俺はシャノンだ。よろしくな!」


「わ、私はアルシェと言います。よろしくお願いします……!」


――なんと、アルシェの話によると、彼女も俺と同じ学校のようだ。確かに、制服が似ている。

 そして、貴族と平民とでは制服の色が異なるようだ。俺の制服は白色で、アルシェの制服は黒色だった。


 その後も俺達は他愛もない会話を続けていると、周りの人達がザワザワし始めた。


「そこをどけ、平民ども!」


 貴族らしき少年が近づいて来て、道を譲るよう言ってきた。他にも通れる道は沢山あるのに、ど真ん中じゃないと通りたくないのだろうか? そう言うお年頃なのだろうか?


 そうバカな事を考えていると――


「ごごごごめんなさいぃ!」


 アルシェはそう言うと、青ざめた顔をしながら弁当を急いでしまい、俺の手を握り道路の端まで引っ張って行ったのだ。


「ふむ、苦しゅうないぞ。」


 貴族らしき少年はこちらを見て鼻で笑い、ご機嫌そうに去って行く。


 あぁ、なるほど。あやつの言ってた意味が大体分かったぞ。

 さっきの貴族の態度を見て、確信した。この国の貴族共は、血筋が良いだけで何をしても許されると思ってるのだろう。

 祖先が偉いというだけなのに、何を勘違いしているのだろうか。


「アルシェ、あれは誰なんだ?」


「確か、子爵家のご子息だったような……」


 ほう。

 ……ん、あれ? 俺も一応貴族だよな? 没落だけど貴族だよな? アルシェは俺を貴族扱いしないようだが。


「アルシェ。俺も一応貴族なんだが……?」


 そう問い、自分の顔を指差すシャノン。


  「で、でも……没落だし……あぁ!なんでもないですごめんなさいごめんなさい!!」


 あぁ……アレだ。この子、アレだ。俗に言う、天然ってやつだ。道中で弁当を広げたのもそのせいだろう。


「なに、気にするな。元より俺は身分格差反対派だからな。

 ……それより、何故俺が没落だと分かったのだ?」


「それはですね……貴族は胸に紋章を付けているんですよ。その紋章を見れば一目で階級が分かるようになっているんです!」


「俺の胸には紋章が無いのだが……?」


「だって没落だし……あぁ!ごめんなさいぃ!」


 ふむ。貴族でも没落だと紋章は無いのか。

 これでは貴族だか平民だか分からんな。


「気にするな、俺の事は平民と同じだと思ってくれて構わない。仲良くしてくれ、アルシェ。」


 アルシェは、パァっと笑顔になり答える。


「こ、こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします!」


 そして、俺達は学校へ向かった。

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