3月「卒業式」
高2の3月のお話。
今日は、私達の先輩の卒業式だ。
桜舞う…なんてことは現実にはなく、3月上旬に行われる。
在校生である私達は、拍手要員として招集される。
そして、帰宅部故に大して接点のなかった先輩達の卒業を祝うのだ。
「面倒」というのが本音だが、授業が無くなるのは有難い。
卒業式からの帰り道。
私と赤松さんは、いつも通り一緒に帰路に着いていた。
「来年には、私達も卒業だね」
「そうだね」
正直、全く実感がないけれど。
これからどんな1年を過ごそうと、来年の3月には卒業式を迎えるのである。
「…ねぇ」
「何?」
隣を歩いていた赤松さんが、ふと歩みを止めた。
私もつられて立ち止まる。
「卒業しても_ずっと一緒に、…。」
そこまで言って、赤松さんは口を噤んだ。
…赤松さんが何を不安に思っているのかは、なんとなくわかった。
私と赤松さんは女同士だ。
偏見も根強くあるし、結婚だって出来ない。
進路のことを見据えた時、「私達の関係に未来はあるのか」と考えてしまったことはある。
「…なんでもないの。ごめんね」
「あ、うん…」
こんな時、気の利いた言葉が言えない自分が嫌になる。
いつも赤松さんに助けられている癖に、肝心な時に自分は何も出来ないのだ。
_その後は、当たり障りのない雑談をして。
少し気まずい雰囲気を残したまま、私達は別れた。
その日の夜、私はベッドの上に寝っ転がりながら考えた。
あの時、私は何を言えばよかったんだろう。
いつも明るい赤松さんが、不安を吐露するなんて相当なことだ。
何も出来なかった自分が情けなくて歯痒くて、嫌になるけれど_
_今の私にも、何か出来ることはある筈だ。
赤松さんの不安を晴らすにはどうすればいいのだろうと悩む内に、その日はいつの間にか寝落ちてしまっていた。
次の日の土曜日。
私と赤松さんは、デートの約束をしていた。
待ち合わせは、初めてのデートと同じ場所。
「お待たせ」
「赤松さん」
パタパタと小走りで駆け寄ってくる赤松さん。
いつも可愛いけれど、デートの時のオシャレした姿も堪らない。
「今日はナンパされてない?大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
心配そうに、眉尻を下げる赤松さん。
初デートの待ち合わせで男の人に声をかけられたところを、赤松さんに助けて貰ったのだった。
それ以来、赤松さんは私より先に待ち合わせ場所に着くことを信条としている(平気だって何回も言ってるんだけどね)。
今日は電車が遅延してしまったようで、「大丈夫?」というLINEがひっきりなしに送られてきていた。
「よかった」
安心したように赤松さんが笑って、私の心がキュンと鳴った。
大切にされてるなぁ、と感じるのはこんな時だ。
…私は赤松さんに、自分の気持ちを伝えたことが何度あっただろうか?
〝改めて好きと言うのは恥ずかしい〟
〝言わなくてもわかってほしい〟
そんな甘えが、赤松さんを不安にさせていたんじゃないのか?
「…赤松さん」
「何?」
赤松さんが、小首を傾げる。
…腹を括れ、私。
赤松さんの目を真っ直ぐ見つめて、私は意を決して口を開いた。
「好きだよ」
驚いたように、赤松さんが目を見開いた。
赤く染まった頬を見られているのが恥ずかしい。穴があったら入りたい。
だけど、ここで目を逸らしちゃダメだ。
ちゃんと伝えなきゃ。
…言葉にしなきゃ、何も伝わらないんだ。
「あ、赤松さん」
「は、はい」
「ちょっと、目を瞑って貰えませんか」
「わ、わかった」
赤松さんが、戸惑いつつも瞼を閉じた。
私はゆっくり彼女に近づいて、そっとその首にネックレスを着ける。
…慣れないアクセサリーショップで、小一時間悩んで買ったシロモノだ。
シルバーで、トップには小さな石がついている華奢なデザイン。
彼女に似合いそうだと、最後は直感で決めた。
「え…」
目を開いた赤松さんが、驚いた様子で呟いた。
驚くのも無理はないと思う。
私は今まで、一切アクセサリーの類を着けてこなかった(単に面倒だった)。
プレゼントにも、アクセサリーを選んだことは無い。センスに自信ないし。
だけど、今日は伝えたかった。
目に見える形で、赤松さんに。
私の、嘘偽りない_正直な気持ちを。
「不安にさせてごめん」
「でも私は、卒業した後も、赤松さんと恋人でいたい」
赤松さんの瞳が、揺れている。
「きっと私は、赤松さんが思っているよりも…赤松さんのことが、好きだから」
赤松さんの瞳から、ぽろりと1粒の雫が垂れた。
「っ…?!え、赤松さ、…」
な、泣いてっ…?!
い、嫌だったのかな?!
「ち、違うの…」
赤松さんが、声を震わせながら言った。
「嬉しくて…」
ぽろぽろと涙を零す赤松さんを、私はそっと抱きしめた。
この人を、大事にしたい。
笑顔にしたい。幸せにしたい。
そう、思った。
「ありがとう…森丘さん」
背中に回された赤松さんの腕が、きゅっと私を抱きしめた。
温もりが愛しくて、言葉に出来ない感情が込み上げる。
「私も、森丘さんのことが好きだよ」
「うん」
「森丘さんが思ってるよりも好き」
「うん」
「何が起きても、誰に何を言われても」
「…うん」
赤松さんの言葉に一つ一つ頷きながら、私はそっと目を瞑った。
少し屈んで、彼女の肩に顔を埋める。
あぁ、…幸せだなぁ。
_もしかしたら赤松さんは、知っているかもしれないけれど。
恋人に贈る、ネックレスの意味。
〝 ずっと一緒にいたい 〟
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