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7 旅仲間

 俺とイーファは日の出と共に宿を出た。通りには人の気配はなく、まだ朝靄が漂っている。



「ナァーン!」

 白猫が待っていた。



「猫ちゃん!」

「ダメだぞ」

「何も言ってません」

「猫はダメだ。連れて行けない」

「……。じゃあ、仕方ないです。一人で行きます」

「おい」


 猫は俺たちの足元、ちょうど真ん中に座って俺の顔を見上げている。心なしか視線が俺を責めている気がする。


「猫が気まぐれで道を外れたらどうする?追いかけて連れ戻すのか?獣に追われて走り去ったらどうする?探して歩くのか?迷子にでもなったらコイツだって生きていけないだろう?」


「ナアァァァ〜!」

「やめろ。お前は文句を言うな」


「ワアーウゥー!」

「大丈夫だって言ってます。迷子にならないって」


「はああ?猫がいなくなったら?」

「私が責任を持って探し出します」

「……ああもう、勝手にしろ!」


 俺の言葉を理解してたかのように、猫は先頭になって歩き出した。

 イーファも猫のことになると強気だ。





 猫は利口だった。


 尻尾をピンと立て、先頭に立って俺たちのペースで歩き、時折振り返っては俺たちがついて来ているか確認までする。

 

 イーファはご機嫌で鼻歌を歌いながら猫の後を歩いていた。


「そろそろ朝飯にするか」

草むらに腰を下ろして肉の薄切りとチーズとピクルスを挟んだパンにかぶりついた。宿の女将さんのお手製だ。


 少しパサついたパンにしっとりした薄切り肉が合う。ピクルスのスライスもちょうどいい酸っぱさだ。


「パンに塗ってあるの、何かしら」などと呟きながらイーファも大きな口で食べている。




 猫は肉とパンのかけらを食べ水をもらって飲んでいたが、急に背中を山なりに、尻尾をブラシのように膨らませて草むらに向かって唸り始めた。


「シャーッ!フーッ!」


 俺とイーファが同時に立ち上がりナイフを構える。


 用心しながら草むらに近づき、落ちていた枝で草をかき分けると、そこは大人の親指ほどもある皇帝蟻が列をなして俺たちに向かって行進しているところだった。こいつは危ない。


「皇帝蟻だ。離れろ」


 俺が注意するとイーファが荷物を二人分持って距離を取る。こういうところがこの娘は優秀だ。離れる理由を聞いたりしない。


 経験が浅いと男でもなかなか難しいことだ。たいていは「どういうことだ」とか「どんなやつだ」とか言って貴重な危険回避の時間を無駄にする。


 俺たちはだいぶ離れた場所に座り直して昼食を再開した。


「皇帝蟻って、どんなのですか?」

 パンをモグモグ食べながらイーファが尋ねる。


「肉食の蟻で大きさは俺の親指くらい。噛み付いたら強い酸で肉を溶かしながら獲物を食べるんだ。酸の匂いで他の個体も集まって来て群がって食べまくる。牛や馬でも骨しか残らない」


「噛みつき魚なみですね。猫ちゃん、お利口だったね!」

「ナーウー」


 白猫はゴロロロと喉を鳴らしてイーファの膝にゴツンゴツンと頭突きを繰り返している。



「やっぱり猫ちゃんを仲間にして良かったです」

「今回はな」

「猫ちゃん、ありがとうね」



 イーファがご機嫌で笑い、猫はその膝で丸まってご満悦だ。



 午後はひたすら歩いた。歩きながらイーファが子供の頃から猫を飼いたかったことを話してくれた。


 船暮らしだから猫はダメだと言われても諦めきれなかったこと。

 月に一度の買い物のとき、市場で子猫を見つけて服の中に入れて持ち帰ろうとしたこと。

 父親にすぐ見つかって叱られたこと。

 子猫と別れる時散々泣いたこと。


「じゃあ、人生で初めての猫か?」

「はい。私の初めての猫です!」

「じゃあ、名前を付けろよ。一緒に旅に出るのに猫ちゃんはあんまりだ」

「いいんですか?」


 返事の代わりにニヤッと笑ってやった。




 考えてみればイーファは十六やそこらで故郷を追放されたんだ。全てを手放した彼女が猫くらい手に入れたって罰は当たらないさ。


 俺はその歳の頃、仲間と楽しく遊んで贅沢に暮らしてた。猫一匹でこんなに嬉しがるイーファを見てると泣きたくなる。



「今のお前には猫しかいないんだ、そのくらいいいさ」


「猫だけじゃありません。私にはジーンさんもいます」


「今、さりげなく俺と猫を同じくくりにしなかったか?」


 少々の照れ隠しで茶化したらイーファがまた喉を見せて笑った。




 太陽が頭の真上に来た。

 日陰を探して休もうとしていると後ろから馬車が来た。


 幌付きの大型の馬車で、商人らしい身なりの男が御者席に座っている。


「おーい!」

 俺が両手を振って待っていると止まってくれた。


「どこまでですか?」

 商人が聞いてくれた。これはツイてる。


「ナーシャを目指してる。途中まででもいいんだ、乗せてくれないか。運賃は払う」


 男がチラリと帽子を被ってるイーファを見て

「もしやそのお嬢さんはさっきの町でオカリナを披露したっていう?」


「そうだ、よく知ってるな」

「立ち寄った飯屋で大変な話題でしたよ!」



 商人が了解してくれたので俺たち二人と一匹は馬車に乗せて貰うことになった。俺が最初に幌をめくって乗り込んだら、立ち上がる前に左右から棒で殴られた。




 もしやとは一応考えてたが、当たりだったか。くそっ。



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