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27 アルズール帝国 首都ズッカ

「ジーン、なんていうか、ここはまた、すごいわね」

「だろ?」

「色が、溢れてる!」


 イーファはアルズール帝国の首都ズッカの街並みを見て呆れていた。


 石畳の広い通りの両側にはびっしりと建物が並び、高さもデザインも色も全てバラバラだ。


 野苺のような赤に塗られた高い建物の隣には菜花のような黄色の平家があり、そのまた隣は白く上品な二階建てだ。


 向かい側にも色とりどりの建物が並び、どの建物にも大小様々な大きさと色合いの絵看板が突き出した腕木からぶら下がっている。


 道を歩く人々の服装と髪型と肌の色も様々だ。赤い大きな布をくるりと巻きつけた浅黒い肌の女性、白い肌に明るい茶色の髪の男性は異国風の上下の半袖半ズボン、目が大きく鷲鼻の男性たちは髭を蓄え、皆丸い帽子をかぶっていた。



「アルズール帝国は、小さい国々を一人の知将が制圧してひとつにまとめ上げた多民族国家なんだ。文化も人種も宗教も全部飲み込んで成り立ってるんだよ」


「すごいわね。こんなのをひとつにどうやってまとめたのかしら。想像もつかない」


「まとめた知将もすごいが、そのまま国をまとめ続けてきた子や孫の皇帝もすごいよ。ところでイーファ、この町は美味しい食べ物がたくさんあるぞ」


「わあ!じゃあ早速お昼ごはんをどこかで食べない?ギルドにはそのあとで顔を出しましょうよ」


「そうだな。あの店なんか美味しそうだ」




 

 そして今、二人の前に山盛りの肉団子と野菜たっぷりの辛そうなスープ、小麦粉の平たいパンのようなものが並べられている。


 イーファはいつものようにモリモリと食べていたが、ふと向かいのジーンを見ると、ジーンはやはり食べる動作に品がある。


 大きな口を開けているし、バクバク食べてはいるのだが、食べ方が綺麗なのだ。きっと上流の貴族だったんだろうな、と思う。


 他国と戦っていたと言うから騎士とか軍の偉い人とか、そういう人だったのかな、と思っている。


 イーファほど世情に疎くなければ、ジーンが王族だったことは昔話でわかるのだが、イーファは閉鎖的な海の村で十六才まで育っているので全く気づいていない。


 

 食べ終わった二人はおなかをさすりながらギルドに向かった。イーファの腕の中にはチルダもいる。


 ズッカギルドは市場の近くにあった。明るい緑色の扉は丸い窓があり、なんとも愛嬌のある入り口だ。


 今回はジーンが先に入り、イーファが後から隠れるように入った。毎回の視線の強さに少々疲れ気味なのだ。


 

 二人は依頼が貼ってある掲示板に直行してじっくりと眺めた。掲示板には人種も人口も多いこの地らしく、多種多様な依頼が張り出されている。


「全体的に安価な依頼が多いようね」


「採取も捕獲も簡単なのかもな。まあ、しばらくはのんびり行こうよ」


「そうね。まずは宿を決めなきゃね」


「依頼はどうする?俺は慣れてるツノウサギと緑蛇がいいかな」


「私もそれがいいわ。ついでに薬草が採れたら上々ね」


 ジーンが二枚の依頼を剥がして受付へと向かい、ランク証を見せると受付の女性が笑顔になった。


「はじめまして。ズッカギルドへようこそ!私は受付のレイです。依頼の契約ですね。はい、ランク証を確認しました」


「俺たち今日この国に入ったばかりなんだけど、どこかいい宿はありますか?」


「宿もいいですが、ひと月単位で借りられる家もいいですよ。前払いになりますが、腰を据えて暮らすなら宿よりお安く済みます。ギルドとしても腰を据えて依頼を受けてもらえるのでありがたいんです」


 それを聞いてイーファが明るい顔になる。

「ジーン、家を借りるのはどうかな。そしたらチルダと一緒に安心して暮らせるわ」


「そうだな、そうしよう」


 基本ジーンはイーファの提案を断らない。ジーンにとってどこに住むかはたいした問題ではないのだ。最近はイーファが笑顔ならそれが最上の選択と思っている。


「それでしたら向かいの店が貸し家を扱ってます。それと、緑蛇とツノウサギ、契約しました。無事な帰還をお祈りします」






「いらっしゃいませ。貸し家をご希望ですか?」

 対応に出た若い男性が笑顔で対応してくれて、イーファもジーンも前向きに物件を探す気になった。まずはひと月ごとの契約が可能な冒険者や旅行者向けの物件を探した。


 その中のひとつにイーファが目をつけた。


「ジーン!この小さな家はどうかしら。家賃も安いし小さな庭が付いてる」


「いいけど、ずいぶん安くないか?よほど古いとか?」


「えーと、お客様、そちらの物件は隣に大家さんが住んでまして、ちょっと気難しくて。大家さんの気に入った人しか入れないのでその家賃なんです」


 ジーンが面白そうな顔になる。それを見たイーファも楽しくなった。


「会ってみる?」

「いいね、会ってみよう」


 二人の意見が合って、係の男性に住所と簡単な地図を貰って二人で店を出た。


「私たち、騒いだりしないし」

「昼間は出かけてることが多いしな」

「猫が嫌いだったら困るけど」

「チルダは大人しくて手のかからない猫だって、俺が説得するさ」


 向かった場所は大通りからだいぶ離れた静かな住宅街で、白い壁に赤茶色の屋根の小さな貸し家と、同じ作りだが屋根の色が深い緑色の双子のような家が建っていた。


「可愛いおうち!」

 イーファはひと目で気に入ったらしい。腕の中のチルダはじっと家を見つめて大人しくしている。


「どなたかな?」

 二人と一匹で家を眺めていると、深緑色の屋根の家から白髪の老人が出て来て枯れた声で問いかけた。


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