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22 コルビーの疑念

 若い冒険者と別れて自宅に戻ったコルビーは、ソトナ湖に巨大な何かがいる可能性について考えていた。


 実はコルビーは、確信こそなかったが(もしかしたら)と思うことが今まで何度もあった。


 湖の東側、漁港がある辺りに何年かに一度、大きなダウラの残骸が打ち上げられるのだ。

 ダウラは湖に棲む大型の魚だ。成長すると人間ほども大きくなる。


 残骸が見つかるのはいつも秋の大風が吹いた後で、湖の北西、つまりイーファ達が漁をしている辺りで食われれば、食われて腐った残骸が吹き寄せられる先は漁港近辺になる。


 数年に一度だから、若い漁師達は大風と残骸を関連づける者はおらず、死んだダウラが他の魚達に食われたのだろうと彼らは思っている。


 だが、本当は頻繁に残骸が発生していて、大風が吹いてない時は誰にも見られてないだけだったら?


 もしくは他の日には残骸を出さずに丸ごと食べ切っているとしたら?



 コルビーが見たところ、大きなダウラは更に大きな何者かに食い千切られていた。他の魚に食われたのは何者かに食い千切られて死んだ後だ。普通の魚は大きなダウラの背骨を噛み砕けない。


 その何者かについてコルビーは誰かに話をしたことがない。証拠もなく不安を煽ることを言えば年寄りの妄想と笑われるだけだ。


 だが、そんな何かが現実にいたとしたら、そいつが絶対に人間を襲わないと、誰が言えるだろうか。


 長いこと心の隅にモヤモヤと溜まって渦を巻いていた疑念を、形にしたのがイーファだ。彼女は『それ』をぼんやりとだが見たし、『それ』に執着されていると言う。


 海の民であるイーファでなければ何を馬鹿なと思う話だが、なにしろ彼女は「あの」海の民なのだ。


 ギルドのマイクに聞いたところによると、イーファは三十五ターデまで支障なく潜れるらしい。先ほどの会話ではサラリと「四十ターデ」と漏らしていた、


 海の民は、長い時間とんでもなく深い場所まで潜れるという話はどうやら本当みたいだ。



 自分は既に六十歳だ。

 この機会を逃せば、長年の疑惑に真っ向から対峙することはもう出来ないだろう。しかも今回はあの海の民と組めるのだ。機会は逃したくない。


 どんな手段でもいいから『それ』を水の中から引っ張り出してこの目で見たい。



 イーファは石化けの痺れ毒を使って『それ』を捕獲して食べてやりたいと言う。


 その考え方も気に入った。

 コルビーが子供の頃の漁師達はみなそうだった。


 今の若い漁師は魚をかねとしか思っていない。いかに楽に大量に魚を獲るか、そればかりだ。


 水中の世界への畏怖も無ければ、その水の中の主人公である生き物たちへの畏敬の念もない。


 昔の漁師の心を持っているあの若い海の民がとても好ましかった。


 あの娘が石化けの毒を『それ』に打ち込み、二人で引き上げるとして、失敗した場合を考えねばならない。


 仕留め損ねた時、イーファが逃げて船に向かう時、どうやって『それ』から守るか。案はいくつあってもいい。いや、いくつもなければならぬ。


 自分は「どうやったら成功するか」よりも「あの娘をどう守るか」をとことん考えるべきだろう。


 「その時はその時」ってのは死んでいく奴の戦法だ。


 あの子を守る、それを考えるのが今回の俺の仕事だとコルビーは思った。


 石化けと呼ばれるきのこ、量はたっぷり用意しないとな。


 それと、石化けではダメだった時のためにヒソヒソの毒も用意しておこう。


 ヒソヒソは探せば割合簡単に見つかる木で、樹液が猛毒だ。木の枝を折って池に漬ければ中の魚は全部浮いてくるし、うっかり木の枝を串にして肉を焼いて食べれば心臓が止まって死んでしまう。

 

 ヒソヒソを使えば獲物の肉を食べることは出来なくなるが、あの冒険者がそれで生き残れるなら用意しておく方がいい。


 網も必要だろう。

 大きくて力の強い獲物がかかっても切れない丈夫な網だ。この辺りにはそこまで丈夫な網は出回っていないから自分で編むところから始めなくてはなるまい。


 やるべきことが沢山ある。

 まずは明日朝、あの娘と共に湖の北西部へ行くことからだ。船に箱メガネを忘れずに積んで、水中をしっかり見ておかなくては。


 

 そこまで考えたところで来客だった。


 誰だろうとドアを開けると、屈強そうな男が立っていた。イーファの相棒のジーンと言う男だった。


「俺に出来ることがあるなら協力させてくれ。イーファを死なせないためならなんでもする」とその男はコルビーをまっすぐ見つめて告げた。

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