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海の娘と砂漠の男と猫の旅  作者: 守雨


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16  根無草と自由     

 イーファは男を落とすと同時に縄を持って枝の反対側に飛び降りた。


 ピンと縄が張り、男との体重差でズルズルとイーファが持ち上がってしまったが、男が着地したのを見届けると縄を手放して飛び降りた。


 あちこち骨折してるらしい男と一緒に警備隊詰所まで戻り、「じゃっ、私はこれで!」と帰ろうとしたが警備隊員に止められた。

 ため息をつくイーファに「聞き取りだろ? 俺も付き添うよ」とジーンが言ったが首を振って断り、ギィワの実が入った袋を手渡してチルダの食事を頼んだ。



「さてイーファさん。災難でしたね。あの男はずいぶん前からあなたを狙っていたようです。奴から大体の事情は聞いたけれど、肝心なことがわからない。男を縛ったのはイーファさんだが、男をぶん投げて木に叩きつけたのは誰かな? あいつは巨大な猿がなんてことを言っているんですよ」

「ぶん投げたんじゃなくて払った、ですかね」

「ほう。誰が払ったんです?」

「知らない人です」


 警備隊の髭の男性は紙に挟んであった黒い毛を何本か机の上に置いた。


「その人はずいぶん毛深いようだ。男の服に何本も付いてたよ」

「あー……」


(これはバレてる。正直に話した方が早く帰れそうね)

 そう観念したイーファが必要なことだけを話した。


「つまり、襲ってきた男を黒毛大猿が薙ぎ払って気絶させ、君は男を縛り上げて地面に転がしてから、うちに知らせに来たと」

「はい」

「黒毛大猿は君を助けた上に犯人を高い枝に運んでから去ったのかい?」

「そこは見ていません」


 髭の男性は少し考えこみ、結論を出した。


「ふむ。この件は王宮の野生動物担当者に報告します」

「えぇぇ」

「報告されると何か困ることでも?」

「困ることはありませんが、また聞き取りかなって」

「それは王国の民の義務ですのでご協力をお願いします」

「……はい」


 うなだれるイーファの前で、髭の男性が話し始めた。


「で、ここからは警備隊長のおじさんの独り言だ。聞き流してもらいたい」

「はい」

「絶滅したと思われてた黒毛大猿は、まず人前に出てこない。棘を抜いてほしくて出てきたのは、百歩譲って理解しよう。きっととてもつらかっただろうからね」

「はい」


 イーファは(自分が大猿を惹きつけたのかも)と思ったが、それは言わなかった。


「だが、棘を抜いてくれた女の子が襲われているからと、敵をやっつけたなんて話はとんでもなく珍しい話だ」

「はい」

「しかも、おそらく森の獣に食われないように犯人を高い枝に引っ掛けておいた。それだけの知能があるってことだ。これはもう、王宮の記録に絶対残るし、もしかすると王様の耳にも届くかもしれない」

「はあ」

「報告はしなきゃならない。私の仕事なんだ。王宮からは担当者が聞き取りに来る。これは確定」

「はい」

「そしてここからは独り言の上に推測の話だ。君は黒毛大猿を誘い出せる貴重な人間として期待をかけられる。王宮動物管理課に長期に協力するよう言われたら平民は断れない。あの課には宰相の親戚がいるという噂だよ」

「ああ……なるほど」


 やっとイーファにも男性の言いたいことが理解できた。


「そういえばこの時期、旅に出るには寒くもなく暑くもなくて最高だな。俺は詰所にこもってないで女房子供を連れて遠くへ旅に出たいよ」

「……」

「おっと、独り言が長くなってしまった。年は取りたくないもんだ。じゃ、お疲れさま。犯人逮捕、感謝します」


 隊長さんの言葉を考えながら宿に戻ると、チルダとジーンが出迎えてくれた。


「お帰り。何か面倒なことになった?」

「うん。またバーノンさんが来ると思う」

「あー。それは仕方ないか」

「お猿さんに助けてもらったのに、お猿さんに迷惑をかけることになりそうで憂鬱」

「そうだな」

「私、旅に出たい」

「バーノンさんが来るのに?」

「来ると知らされる前に出かければ無視したことにはならないわ。あと、もしかしたらだけど、嫌でもバーノンさんに協力させられるかもしれないの。それも長期間」


 ジーンの目が大きく開かれた。


「あー、そういうことか。よし、冒険者らしく旅に出ようか」

「うん! すぐに荷造りをします」


 あっという間に荷物をまとめて宿の支払いを済ませた。ジーンが貸し馬車屋に自分たちの馬車を引き取りに行く。イーファは食糧を買い込み、樽に井戸水を汲んだ。

 チルダを呼んで抱き上げ「遠くへ出かけるから一緒にいて」と耳にささやいた。チルダは大人しく抱っこされていた。


 戻ってきたジーンは宿の人に「他の冒険者に誘われたのでタニの街に行く」とわざと方向違いの地名を伝えて出発した。そして今はもう、馬車に乗ってタニの街とは逆の方向に移動している。ここまで実に手早かった。


「ねえ、ジーンさん」

「なんだ?」

「ジーンさんがいてくれて今、どれだけ嬉しいか。伝えきれないくらい嬉しい」

「それは何より」


 二人ともいい笑顔だ。


 チルダは御者席のイーファの膝でクルクル回って収まりの良い場所を探していたが、やっと納得いく場所を見つけたらしく丸まって眠りについた。


「ジーンさん」

「ん?」

「根無し草って、素晴らしいわね」


 ジーンは笑ってイーファを見た。


「イーファ、そこは『自由』って言ってくれ」

 

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