綿菓子令嬢は、この度婚約破棄された模様です2
うん、失敗失敗(笑)
短編設定、初めてだったので、やらかしました。
でもまぁ、とりあえず、続きをどうぞ!
「うふふふ、やっと、やっと、手に入れましたわ」
フワーライト公爵家。それは、十年前、何の前触れもなく、突如として現れた家です。しかし、そのことに疑問を抱く者は誰一人として居ません。誰もが皆、フワーライト公爵家は由緒正しい、王家に次ぐ家柄であり、そこの令嬢であるわたくしこそが王子の婚約者に相応しいと思っていたのです。
「あ、悪魔……」
そんな、得体の知れない公爵家の令嬢であるわたくしの目の前には、第一王子、トーリ・アルマニーテ殿下が縛られた状態で、真っ黒な天蓋付きの豪華なベッドの上に転がされて、震えていました。白銀の髪に、鮮やかな翠の瞳を持つ美しい王子は、白い肌をさらに白くさせて呟きます。
「まぁっ、うふふ。わたくしの正体を知っていらっしゃるのですね? そうですわ。わたくしは、このアルマニーテ王国の建国の悪魔の一族ですわ」
この国、アルマニーテ王国の建国の祖は、ダイス・アルマニーテという人間の男だと言われています。ただし、真実は違うのです。ダイスという名の人間は、そもそも存在していません。そこに居たのは、ダイスという名の悪魔。彼は、現在の王家の祖である人間に、とある契約を結ぶことで力を貸し、アルマニーテ王国を建国させたのです。その契約内容とは……。
「あなた方のご先祖様は、わたくしのお父様と契約しましたのよ? 敵を討ち、国を造るのに力を貸す代わりに、お父様の一族が見初めた魂を持つ者を捧げると。それは、子孫にまで受け継がれる契約とすると」
お父様の一族であれば、アルマニーテ王家の血筋が続く限り、必ず、一人だけは捧げてもらえるという契約。そう、だから、本来ならば、十年前、わたくしがトーリ殿下を見初めた段階で、わたくしは、すぐにでもトーリ殿下を拐うことができました。しかし、わたくしは律儀で残酷な悪魔。当時八歳のトーリ殿下を拐うのに、わたくしは、国王陛下と王妃様に許可を求めたのです。そして……。
「わたくしは、一つのゲームを提案致しましたの。トーリ殿下を拐われたくなければ、わたくしを第二王子の婚約者になさいと。そして、当時七歳だった第二王子が、十八歳になるまでに、わたくしとの婚約破棄を行わなければ、わたくしは、トーリ殿下ではなく、バッカ殿下をもらいますと。ただし、婚約者である期間は、わたくしの力で、この国を守ってみせましょうと」
その頃、すでにトーリ殿下の優秀さは広まっており、逆に、バッカ殿下の愚かさも広まっていました。とはいえ、まだまだ幼い二人。挽回は可能な段階とも言えました。しかし、どちらかを連れていくと宣言したわたくしに、お父様の契約の力によって逆らうことができない陛下と王妃様は、バッカ殿下を切り捨てることにしたようです。その背景には、当時、大飢饉が起こっており、危機的状況だったからということもありましたが、それでも、彼らは、バッカ殿下を生け贄にすることを選びました。ただし、結末は知っての通り、バッカ殿下は婚約破棄を宣言し、婚約破棄を行った場合、二人とも連れていくという契約が施行されました。
「そ、んな……父上と、母上が……?」
実の両親が、弟を悪魔に売り渡そうとしていたのがよほどショックなのか、トーリ殿下は固まります。
悪魔が好むのは、高潔で清らかな魂。そうした魂こそが、美味しそうで、愛しい。そして、トーリ殿下はまさにそうした魂の持ち主であり、彼が王になれば、それこそ賢王として讃えられただろうと思われます。しかし、今は、フリアという名の悪魔の所有物となり、永遠に、その機会は失われてしまいました。
「バッカは……どうなった?」
「あら? ご自分のことではなく、あの愚かな王子のことを気になさるのですか?」
高潔であるがゆえに、自身のことよりも、危険が及んでいるであろう他者の心配をするその様子に、わたくしは興奮が抑えられず、頬を赤く染め、微笑みを浮かべます。
「答えろっ。悪魔っ!」
初めは震えていたというのに、今は縛られながらも、力強い目で睨むトーリ殿下の様子は……もう、堪りませんでした。ついつい、ゾクゾクする体を抱いて、吐息を漏らしてしまいます。
「あぁっ、なんて愛しいんでしょう。うふふ、心配しなくとも、あの男の魂は、わたくしの眷族達がたっぷりと可愛がっていますわ。肉体の方は、優秀な眷族に乗っ取らせて、ちゃんと種を残すように仕向けてあります。何一つ、問題はありませんのよ?」
今頃、バッカ殿下の魂は、死んだ方がマシだと言えるくらいの拷問にかけられていることでしょう。肉体の方は、それまでのバッカ殿下に関する記憶を書き換えられ、トーリ殿下の存在がなかったことになったアルマニーテ王国で、第一王子として、優秀な人間として、伴侶を迎えているはずです。
「あぁ、トーリ。とても、とっても、可愛い人……わたくしの、唯一無二の伴侶」
わたくしが、すっとその白い頬を撫でれば、トーリ殿下はますます強く睨む。
「うふふ、大丈夫ですわよ? トーリは、これからわたくしのことを心から愛するようになります。それが、悪魔の伴侶ですから」
「何を言っむぐっ」
おこなったのは、深い、深い口づけ。悪魔の、魅了を伴う残酷な口づけ。抵抗できたのは唇が触れ合った一瞬のみ、その一瞬だけで、魅了は成功し、トーリ殿下は堕ちていました。
「ようこそ。トーリ。ここからはずっと、ずぅっと、悪魔の世界で暮らしましょうね?」
「はい。フリア」
とろんとした目で告げたトーリ殿下に、わたくしは綿菓子に例えられるものとは異なる、とびきりの笑みを見せると、そのまま、何度も、何度も、深い口づけを交わし、永遠に、トーリ殿下を閉じ込める箱庭へと、共に向かうのでした。
一応ね?
フリアのトーリ殿下との出会いからのお話とか、バッカ殿下の肉体を乗っ取ったお兄様のその後とか、書けるは書けるんですけど、今は色々と書いてるから、とりあえず短編にして、要望が出たら長編として続きを書こうかなぁと考えております。
それでは、また!