(人)誰だ?お前?
田舎というものは見知らぬ者に対して異常な警戒心を抱く
それが地の縁者と分かれば途端に人懐こくなるのも常だ
父方の遠縁に海辺に越した親戚がいて初めて泊まりに行った夏の事だった
その親戚自体は祖先が地の者という事で馴染みがあり、時を置かずして交流が出来たのだが
ソコに泊まりに来た俺や従兄弟には最初好奇とも粗雑ともつかない扱いを受けたものだ
「あぁあんた達○○さんトコの親戚かい」
素性が分かれば後は豹変したかの様に優しく接してくれるのだが初っ端の応対がトラウマ過ぎて
子供にはどうも慣れない、というかあまりの変わり身に警戒心を解けなかった
そろそろ夏休みも終わりかけて帰る段になり、締めで夏祭りを見て帰ろうとなったので
子供達は小遣いを貰って意気揚々と夏祭りに出掛けた
お囃子や屋台の発電機の音、賑やかな雰囲気を十分に楽しんだ俺達は満足して帰路についた
「なぁ○○ちゃん(俺)、来年もまた来ような」
一緒に泊まりに来た従兄弟がそう言うと親戚の子供達も
「そうだよ、またおいでよ」
とニコニコしながら答えてくれた
お互い来年の再会を誓いあって歩いていた夜の田んぼ道
「あれ、何だろう?」
通りがかった山裾の神社にポツンと明かりが灯っている
「ここでもお祭りがあったのかな?」
お祭り、にしては明かりが1つしかないし人気も感じない
「ねぇ、行ってみようよ」
好奇心には勝てず恐る恐る境内に続く石段を登って行った
もう少しで登り詰める段で見えた光景は…
蝋燭の明かりの周りに車座に座る大人達だった
子供心に(いけない場所を見た)感を悟った俺達はソッと後退りを始めた時
「誰だ?お前ぇ達は?」
突然後ろから声を掛けられ
「ひゃっ⁉」
みたいな声をあげてしまった為車座の大人達も一斉にこちらを凝視し始めた
「ぼ、僕達○○のトコの者です…」
「あぁ…○○んトコの…」
素性が分かれば優しくなる筈だった大人達は逆に険悪な雰囲気になっていった
幾ら子供でもその程度は察しがつく
これはこっぴどく叱られそうだな、と覚悟を決めていると
「ここぁお前達が来て良い場所じゃね、大人しく家に帰ぇれ」
雰囲気に呑まれてペコペコと頭を下げると一目散に家に帰って事の顛末を話したが
叔父さん達は「村の集まりに子供が顔出したから怒ったんだろ?」と取り合ってくれなかった
いよいよ帰る日になり子供達は改めて再会の誓いをしつつ親戚の家を後にした
翌年の夏、両親に「今年も泊まりに行きたい」と告げても言葉を濁すだけで終わってしまった
それから相当時間が過ぎて事の顛末を従兄弟の親から聞かせて貰った
親戚家族はあれから間もなく村人達に酷い仕打ちを受けて引っ越したらしい
何故そうなったか?は聞かされなかったが田舎に住む人達の禁忌、あの冷たい目を思い出し
今でも他所の田舎を訪れると身構えてしまう
倣って「見て見ぬふり」が一番なのかも知れない