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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(霊)ライダー


もう二十数年前にもなるだろうか


当時東京に住んでいて実家への帰省には専らバイクを使っていた


その日は仕事の都合で出発が深夜近くになったのだが親族の葬式に出席する為中止には出来なかった


当時大江戸線の工事で所々地上の道路にも鉄板敷きの部分があり

雨の日は滑って危ない事が多々あったので細心の注意を払って走行していたのだが

とうとう危惧していた事故が目の前で起こってしまった


「ギャギャーーーーー❗ガシャン❗」


青信号に変わりスタートしようとしていた俺の目の前に反対車線から横転したバイクと

その持ち主が横っ飛びで滑走してきた


雨上がりの濡れた鉄板で滑っていたバイクとライダーは勢いが止まらず反対車線で

危険を感じて止まった車両や俺の横をすり抜ける様に滑走し、縁石に当たったと思ったら

バイクは木葉の様に回転しながら奥の店舗に

ライダーはポール状の車止めに当たってぐったりしたまま動かない


(こりゃ大変だ!)


俺は路肩にバイクを停めると慌ててそのライダーの元に駆け寄った


「大丈夫ですか!?怪我とか大丈夫ですか!?」


結構テンパって声がけをしたが返事はない


他に助けを求めようと辺りを見回したが片側三車線の道路で交通量が結構あったのに

関わりあいになるのが嫌なのか同じく目撃していた車達もスッと流れて行ってしまった


(薄情にも程があるだろ…)


と苦々しく思っていたらどうやら反対車線でバイクに接触したと思われるドライバーが駆け寄ってきた


「に、兄さん見てたよな??俺が悪いんじゃなくてコイツが勝手に転んで来た…」


「どうでも良いから救急車呼んで!!」


「あ、、、ああ、分かった!」


いきなり言い訳しだしたので怒気を込めて救急車を呼んで貰った


確かにこのライダーは単独事故だったし原因とかどうでも良い

今は返事もしない怪我人を救助するのが先だった


「………う…すいま…せん…」


「あ!良かった、大丈夫ですか?」


意識が少し戻ったみたいで一安心した俺はライダーに改めて声がけした


「イタタ……あ…あの…体が動かないので起こして貰えますか?」


どこか折れてたり破裂してるかもわからないから本当なら動かさない方が良いのだが

このままだと後続車に轢かれる可能性もあるので慎重に歩道まで引き摺っていき

本人がどうしても、と言うので近くのコンクリート製の大きなプランター?に寄り掛からせた


「きゅ…急に滑っ…て…」


「話さないで!どこが怪我してるか分からないからね」


「俺も前からここの鉄板は滑って危ないと思ってたんだよ」


「そ、そうですよねぇ…し、失敗したなぁ…あの……お、俺のバ、イクは……?」


「ん?あぁ、大丈夫、今別の人が起こしてくれてるよ」


「そ、そうで…す……か………」


ヤバい!意識飛んだか??


そうこうしているとさっきのドライバーが戻ってきた


「救急車、すぐ来るって!」


と聞いた直後にはもうサイレンが近づいてきていた


「お兄さん!今救急車来るからね!頑張るんだよ!」


ぐったりしているライダーに励ます様に声がけしたが反応はなかった


救急車が到着し、次いでパトカーも間を置かず到着した

ライダーは救急隊員により救急車に、目撃者の俺と通報者のドライバーは警官達に事情を聞かれた


「…で、ライダーさんがあそこで滑ってこっちに来たのね?」


「はい」


「で、旦那さんは後ろから滑ってきたバイクがぶつかって…」


「すいません!」


「はい?」


「あのライダーさん、結構酷く怪我してたと思うんですけど何で救急車出ないんですか?」


「え?…何で出ないって?」


「早く病院に連れて行ってあげてくださいよ!」


「………あーーー…彼、手遅れだから…」


「…え???」


「既に亡くなってるんだわ…というか即死だね、あれは」


「え??え???」


救急隊員と他の警官とのやり取りで彼は既に亡くなっていた、との判断だった

ライダーは首を支点にポールに激突し脛椎を折ってしまっていた


(え?だってさっきまで少しだけど話してましたよ?)


混乱して上手く伝えられたか謎だが確かに意識を一旦は取り戻し、会話が出来ていた事を伝えた


「えー?本当に??」


あ、そういえば…

ライダーが担架に乗せられる前、横にしようとした救急隊員達の隙間から

不可思議な程変な方向に捩れたヘルメットが背中側にぶら下が……


え?


そうだ、あんな状態で話せる訳がない

でも確かに話してた…よな?


記憶があやふやになって呆然としてきた俺は警官に


「あの…親が入院したと連絡が来てたので行っても良いですか?」と嘘をついた


事故の状況から問題がないと判断されたのか、連絡先とかを聞かれて解放された


「じゃあ後日何かあったら連絡来ると思うから協力してね」


「あ、はい、すいません…」


俺は動転しつつもその場を後にした


後日警察から連絡があり、ライダーの親が当日の状況をどうしても聞きたいとの事で

その可否を俺に尋ねて来たので予定を合わせて警察署の方に出向く事にした


交通課の応接セット?に通された俺はソコでライダーさんのご両親と対面した

やりきれない思いもあるだろう、と出来るだけ詳細に当時の状況等を伝えると

号泣していたご両親から凄く感謝をされた


でも…

あの時ライダーさんと交わした会話はとてもじゃないが言えなかった

せめて…と思い


「あの…自分もバイク好きなんで彼のバイク、直してあげると喜ぶと思いますよ」

と声を掛けて署を後にした

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