表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
54/441

(霊)パチンコ店員(オッサン幽霊)


若い頃、初就職先がブラックで一年程で退職、

すぐさま田舎に戻るのも格好悪いのでパチンコ屋でバイトをしていた事がある


その店舗はビルの1、2階と地下1階の3フロアあり当時は結構繁盛していたのだが


スロットが置いてある地下フロアは何故か客の付きが悪く長く遊んでくれる客も少なかった


勤めてから直ぐに持ち前の器用さで台の応急処置等をこなしていたら店長の目に留まり翌日から地下担当を命じられた


時給も一気にはね上がったのだが旨い話には裏がある、という事を当時のピュア?な俺は想像もしなかったのだ


地下フロアにはある噂があって店長も社員も近寄りたがらない。


理由は簡単、(幽霊が出る)らしく事実目撃者も多数、

入店したての俺はそれを知るよりも先に地下フロア担当を押し付けられた格好だった


担当となるとバイトとは言え本来なら社員がやるべき閉店後のメダル洗浄等を任された


プラスチックのチップが入ったドラムにメダルを入れて洗浄、排出するだけの単純作業でほぼ自動だし


任されたお陰で時給も更にアップだったしこちらとしては願ったり叶ったりだったがそれなりにリスクがある訳で


その洗浄機は地下フロアの隅、例の目撃談のほぼ半分がその洗浄作業中だった


経験者なら分かると思うが閉店後の店内は営業時間とは別の騒々しさで溢れている


パチンコの玉が川(台の後ろにある循環装置)を流れていく音、大当たり途中の台の効果音、デモ画面の派手な音楽など普段聞けない音で騒々しい


スロットもそうか?と言うと客がいなければホッパーもメダルの落ちる音もせずデモ画面も当時は派手ではなかったので


洗浄機が動いていなければ無音とはいかないもののパチンコの島から比べたら静かなモノだった


前置きが長くなったがここからが本題。


ある日もう1人の新入り年配バイト(以降Oさん)と地下フロアの後片付けをしていた

(俺はメダル洗浄機の前で確認作業というサボり)


30分程してOさんが洗浄機のある機械室に飛び込んできた


「お、俺君‼大変だよ…」

「どうしたんすか?」

「…人がいるんだよ」


あ、これは出たな?と思った。

機械室の入り口を塞ぐ形で立ち尽くすOさんを手で軽くどけてひょい、とドアから顔を出すと台の前に男が立っている


ドラマの刑事役が着る様なコートとくすんだ灰色のスーツ、手にはブリーフケースとビニール傘


何故か雨に濡れた様に肩口からそぼ濡れ傘からは水滴が滴っている


「あー、聞いてなかったですか?アレが例の幽霊みたいっすよ?」

「そ、そうなの?でもさ…」


その雰囲気からして事情が飲み込めてきた


Oさんは入ってまだ間もなかったのだが「彼」に話しかけられてしまったらしい


実を言うと噂には余談があって地下フロアで幽霊を見るのは珍しくないのだがその「彼」に話しかけられると


その後直ぐに辞めてしまう、という事だった


「もしかして話しかけて来られたんすか?」

「うん…そうなんだよ」

「で、何て言われたんです?」

「それが良く聞き取れなかったんだけど何か忘れ物を知りませんか?みたいな」

「ふーん、そうなんすか」

「え?俺君は聞いた事ないの?」

「残念ながらまだっすね」

「そうなんだ…」


Oさんの動揺具合で流石に可哀想になりインカムで社員を呼んで交代して貰ったが社員も社員でビクビクしながらで


その日は一時間以上も残業を強いられてしまった


1週間もしない内にOさんは店を辞めてしまったものだからバイト連中を中心に噂はジンクスとして広まっていった


「俺君、例の幽霊の声は聞いた事ないの?」

とそれから少しして店長に聞かれた


「ええ、ないっすけどね」


と返答をしておいたがどうも腑に落ちないらしい

(府に落ちないのは俺の方だったのだが)


更に数日後、店の前の飲み屋にいたら店長よりも古参の社員が偶々店に入ってきた


そこで折角だから、と少し奢って噂の詳細を聞いてみる事にした


ほろ酔い加減で多少の誇張もあるだろうがおおよそはこんな感じ。


あの幽霊はオーブン当初から出ていたらしい。で、「彼」に話しかけられて当初は相当数のメンバーが辞めたらしい


次に来た店長(現店長)は噂も知っており、就任に当たって本部に店内とスタッフのお祓いを条件に引き受けた


お陰でスタッフが辞める数は少なくなったが「彼」は相変わらず現れるので困っていたらしい


「あれ?じゃあお祓いしたんですね?」

「ああ、だけどダメだったみたいね」

「お祓いしてからは俺には何もないから良いかな?アハハ」


。。。気楽なものだ。。。


真相を聞けた様なそうでない様な微妙な会話でこの日は終わった


数日後、いつもの様に清掃作業をしているとまた「彼」が現れた


気にせず作業を続け、「彼」の後ろを通り過ぎようとした時だ


「。。。知りませんか?」

「はい??」


唐突に声が聞こえたせいで仕事モードな俺はつい返答をしてしまった


しまった!辞めジンクスがとうとう俺にも巡ってきたか…

と思ったが聞いてしまった以上腹を括った


「何かお探しですか?」

と「彼」に聞いてみたのだ


「…がないんです」「書類が…」

とブツブツ呟いている


曰くも何も知らないので真相は分からないがどうやら何か大切な書類を紛失してそれを探していたらしい


「あー、落ちてないですね。1階のカウンターに聞いてみましょうか?」

ともうヤケクソで続けてみた


「いや…いいです…」

と言うとスッと消えてしまった


あーあ、これで美味しいバイト生活も終わりかぁ?とガッカリしながら顛末を店長に報告に行った


「俺君もとうとう…か。だけど辞めないでね」

と無責任な労いの言葉とカップコーヒーを奢って貰いこの日は帰宅した


レンタルビデオを見ながら考えてみた。

何で話しかけられると辞めるか?とか漠然とした疑問を


勿論そんなの答えがある訳でもなく映画を見終わった後にベッドに横になった


うとうとして少しすると部屋の空気が重くなった気がした


金縛り、と迄はいかないが若干体が動かしにくく感じふと横のテーブルに目を移すとそこに人が立っていた


「…知りませんか?」

オッサン、付いてきちゃったのかよ…


過去に辞めた人は多分これが原因だな、と瞬時に理解した


が、実は良く視る質だった俺は気にもしなかった


暫く「彼」はブツブツと呟くとまたスッと消えてしまった

次の日早速店長に報告すると興味津々に乗ってきたが昨日の顛末なんて大した事でもないので直ぐに飽きられた


その日から毎晩ではないが「彼」は部屋に出る様になり逆に店内での目撃がなくなった

結果憑かれてるやん!となって頭にきた俺は次に出た時の為に対策を練る事にした


程なくして「彼」はいつもの様に枕元に現れたので早速実行に移した


「…知りませんか?」

「ありましたよ」


と、用意していた迷惑ポスティングで来た封筒を指指した


少しの沈黙の後、またスッと消えた


失せ物(の代わり)を見つけられて納得したのかこれ以降「彼」は部屋にも店にも出なくなった


店長には事の次第を報告、感謝の意として焼き肉という安い謝礼を頂いた


勿論俺は直ぐに辞める事もなかったがその後ある事件が元でバイト生活に終止符を打つ事になった


以上、オチのない話だけど死んでからも仕事に縛りつけられてるなんて…と悲哀を感じた話でした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ