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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(人)中国のゴト師

パチンコ屋でバイトをしていた時の話。


例の幽霊騒ぎは一段落したのだが噂を怖がって誰も地下フロアを担当したがらない日々が続いていた

俺にとっては客は疎らだしパチンコ台のホール係と違って出玉の持ち運びもないので快適そのものだったのだが

休みを挟んで出勤すると店長と主任が厳しい顔をして書類とにらめっこしている

「どうしたんですか?」と訪ねるより先に店長に呼び止められた

どうやら2日程前からゴト集団が地下のスロット台を荒らしているらしい

防犯カメラの録画を見せて貰うと確かに数名の中国人らしい男達がカメラを遮って台を開けている

当時のゴト行為は幾つかパターンがあって

①基盤を不正基盤と取り替えてのゴト行為

②磁石やプラ板等の道具での窃盗ゴト行為

③合鍵を使って台を開けてのゴト行為

大まかに分けるとこのパターンなのだが①は店員に内通者がいないと難しく②は挙動不審になるので割が合わない、

そして今回の集団が行っている③は主に中華系が多くやるゴトで出荷時のままの鍵なら楽勝、

変えていても粘土で型を取って合鍵を作りスロット台の中にあるメダルを盗むという大胆な行為だ

大抵は3人~5人位で見張り役と壁(店員やカメラの死角を体で作る)役、抜き取り役に分かれ瞬時に行為を終える

当然地下のスロットフロア担当の俺に厳重な警戒を促されたのだが実際発見しても相手は複数で窃盗のプロ

安いバイト代で命を落としたくはないのでもし見つけたらインカムで店長に連絡する事だけを確約してフロアに就いた


その日は異常なし、問題は次の日にやって来た

地下フロアは利便性の為に地下駐輪場からも出入り出来る様になっていたのだが

防犯カメラが捉えた集団の一人が斥候なのか地下入り口から来店したのだ

当然インカムで店長に報告、犯行の現場を抑える為に社員を一人地下に派遣してきてさり気に監視体制を敷いた

10分程すると他の面子もバラバラに入店し、各々別の島でスロットを打ちだした

「今日はやらないのかな?」と少しホッとした矢先、連中が動いた。一人が社員を呼び止め、台の目押しをリクエスト

二人が最初に入って来た男の背後に立ちまるで立ち話をする様に影を作り俺や社員、カメラからの死角を作る

その瞬間、ブザーが鳴り響いた

万が一見逃しを防ぐ為に防犯ブザーとタコ糸を使って簡易トラップを仕掛けておいたのだが見事に引っ掛かった

「店長、やりました‼」俺は何やら中国語で喚いている連中に駆け寄ると「何してんだ?コラ‼」と叫んだ

と、影を作る役の二人が俺を突き飛ばして逃げた。少しよろめいたが実行犯は動けず上手く確保出来た

(社員は?)と見回したら取り逃がした上に尻餅をついてアワアワしていた

最低限だが実行犯を確保し通報で駆けつけた警官に引き渡し一件落着、となる筈だった


長々と書いたがここまでは序章でこれからが本題。

無事ゴト集団の一角を捕まえ店長や本部から金一封を貰ってホクホクしていたその日の夜、

バイト仲間に終業後の食事を集られ微妙な気持ちで閉店後の掃除をしていた

件の幽霊騒ぎで地下の後片付けはほぼ俺一人でやる事になっていたのだがそれが甘かった

ホッパーにメダルを補充しているといつの間にか背後に人の気配。

振り返るとさっき逃げた内の一人が手に何か光るモノを持って立っている

「あ、ヤベッ‼」と思った瞬間にソイツは手にしたモノを振り上げて襲い掛かってきた

(ガキンッ‼)

慌てて防御した手にはメダルを補充する為の道具があって振り下ろした物体はその道具に当たってポッキリ折れた

と思ったら男の悲鳴、折れた物体が太ももに刺さったらしく途端にのたうち回った

騒ぎを聞き付けた女性スタッフが悲鳴を上げている。良く見たら男が持っていた物体は青竜刀?の様な長い刃物だった

他のスタッフが通報し男を取り押さえている様を脱力した俺が椅子に座って眺めているというシュールな修羅場になっていた

その日は更なる報復を警戒して食事会は中止、俺は店長の計らいでホテルに宿泊する事で難を逃れた


武勇伝自慢かよ、と捉えられていたら心外なので一応断っておくがもし視力が良くて店内も明るかったら

刃物を振りかざして襲い掛かってくる輩を見たら悲鳴なり失禁なりしていただろう

偶然、本当に偶然に上げた手に金属製の道具を持っていた為にまぐれで命拾いしただけの修羅場だった


捕まった犯行グループの供述で全国を荒らしていたゴト集団のほんの一角だと判明し身の危険を感じた俺は

強く引き留める店長や社員を振り切ってパチンコ屋のバイトを辞めざるを得なくなった

去り際に本部から異例の退職金?の様なモノを貰ったのでそれを引っ越し資金にし、慌ただしく実家に帰った


あれから十数年、何事もなく過ごしたが時折あの光景を夢で見てしまう自分を情けなく思っている

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