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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(霊)嘘つき

二十代半ばの秋に当時付き合っていた彼女と草津温泉に行った時の事


当日は俺の車で移動する予定だったのだが出発日の数日前に車が当て逃げに遭ってしまった


急遽代車が必要となったが修理を受け付けてくれた車屋の代車が出払っていたので無茶を言って店頭に並んでいた売り物を借りての出発となった


ところが彼女を迎えに行く迄は何ともなかったのだが彼女と合流した途端等電装系のトラブルが頻繁してどうも調子が悪い


寄る先々でエンジンが掛からなかったりもしてイラついたが時間に終われている訳でもないのでのんびり景色を楽しみつつ草津へと到着した


宿は草津温泉の中でも源泉を使っている老舗で詳細は伏せるが湯畑を目の前に望む旅館だった


夕食まで時間があるとの事で西の河原や温泉街の雰囲気を楽しみ湯揉み等を見学して宿に戻った


中々豪勢な夕食を食べお待ちかねの湯も十分に堪能し、酒も入っていたせいかいつもより早目に睡魔が襲ってきた


布団に入ってからどの位経っただろう、喉の渇きでふと目が覚めた


横で寝ている彼女を起こさない様にそっと起き上がろうとすると体が動かない


何とか体を起こそうと努力していると布団の横の方から畳を足で摺っている様な音が聞こえてきた


ヤバいな…と思っていると視界の端に長い髪が見切れた、と思った刹那耳元に息が掛かる感覚


「………き」「……つき」


か細い声で聞き取れないが何か言っているらしいので耳を澄ませて聞き取る努力をすると


「嘘つき…」


その言葉をひたすら連呼しているらしかった。が、当然彼女の声ではない


(えぇ~…俺関係ないし…)


と思っていると気配を察したかの様に語気が荒くなって最後の方は絶叫に近かった


「嘘つき‼」


結構な大声量で耳元で叫ばれ、ビックリした拍子に金縛りが解け叫んでいた主の姿が見えた


カッと目を見開いた長髪の女


その時何故か恐怖を覚えるより先に笑ってしまったのだがそれが良かったのかその女はスーっと消えていった


横にいる筈の彼女の布団はもぬけの殻、力が入らず半ば放心状態で煙草を吸っていると


大浴場に行っていたらしい彼女がタオル片手に戻ってきた


彼女もこの手の話は嫌いじゃないので事の子細を話すと


「えー?見たかったなぁ」


とため息をついた


後日、車を返しに行くとやはり曰く付きの所謂「起こし」車両だったらしい


数ヶ月を経ずにその車は他の客の試乗時にエンジンから出火し人手に渡る事もなく廃車になったと聞いた


気力が衰えていれば何か障りがあるレベルの念の強さを感じていたのでつくづく旅行中の楽しい気持ちの間に遭遇して良かったと思った

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