(霊)語り部
俺が小学生の頃、学校は同和教育に熱心で様々な資料を元に授業をしたりしていた
そんな一環で同和地区出身のお婆さんに話を聞く課外授業を行う事となり皆で出向いた
お婆さんから色々な差別体験や苦悩を聞いて後に作文を提出するので真剣に聞き入っていると
何故かお婆さんの視線が俺と合う機会が多くなって気になっていた
一通り話を聞いた後は質問タイムとなり皆差別の辛さ等を質問していたが
お婆さんは俺が気になるのかチラチラとこっちを見ては同級生の質問に答えていた
質問も粗方出揃いじゃあお暇しようか?となった時にお婆さんに呼び止められた
「あんた、視えるんだろ?」
最初何を言ってるのか分からず愛想笑いをしていると
「私もそうだから分かるんだよ」
ここで何を言わんとしているか漸く分かった
「え?何で(分かったの)?」
「私達みたいな部落はね、身内同士で子を為す内に時折私みたいなのが生まれるのさ」
こんな話をされたら気になって仕方がなくなったが集合時間になりやむ無く学校へ戻った
次の休みの日に自転車で再び訪れてお婆さんに詳しい話を聞いた
同和地区としての差別とは別にお婆さんの様な人は異端扱いをされ昔は家に幽閉されたらしい
そういう話も貴重だったが俺の関心は(何で視えるのが分かったか?)だったので切り出した
「あはは、気付いてなかったのかい?あんた、私のご先祖様にお辞儀してたんだよ」
え?何を言ってるの?と思ったが
課外授業で訪問した時、この家にはお婆さんと娘さんの二人しかいなかったらしい
俺はお婆さんが話し始めた時、部屋を横切ったお爺さんに気付き軽く会釈をしたのだ
「まさかご先祖様に普通にお辞儀するなんてね」
娘さん(おばちゃん)に干し柿やらお菓子やら出して貰いながら逆に質問責めにあった
俺が視える様になった切欠とかどんな風に視えるのか?とか
まさかコレを人に話せて色眼鏡で見られない日が来るとは思わなかったから全て話した
お婆さんは一通りうんうん聞いてくれた後、良かったらまた遊びにおいでと言ってくれた
作文は2学期迄の課題だったのと皆よりも詳しく教えてくれたのが参考になったので
それから二~三度お婆さんの家にお邪魔した
夏休みも終わり山も色づき始めた頃、母親からお婆さんが亡くなったと教えられた
娘さんがわざわざ知らせてくれたそうだ
人の死を経験した事のなかった俺は居たたまれなくなって次の休みにお婆さんの家に行った
娘さんはいつも通り優しく迎え入れてくれてお茶をご馳走になった
亡くなる前、お婆さんは俺の事を((人生で)最後に出来た小さな友人)と言ってくれていたそうだ
お線香をあげて帰りしなにお婆さんから、と数珠を貰った
この数珠は後に俺の身代わりとなってくれた思い入れの品になる
色々教えてくれてありがとう




