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『奇憚(きたん)雑記』  作者: とれさん
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(謎)のんのさん


地元の寺に近所の年寄り達が拝みにくる寄合所がありその中に「のんのさん」と言われる御神体が奉られている


御神体自体はただの石に赤い布を巻き付けた素朴なモノだがご利益があると言われており


祈る際に悩み事を伝えその御神体を持ち上げようとすると是なら軽く持ち上がり、非なら持ち上がらない

というシンプルな判定が出来るらしい


俺の祖母がよく通っていた事もあり幼少期は週末になると寄合所に連れていかれていたが

子供ながらに(そんなの当たる訳がないよ)と訝しがっていたので専ら庭で暇潰しをしていたのを覚えている


時は流れ俺もいいオヤジになり久しくその存在を忘れていたある日、我が身に人生の岐路が迫ってきた

どちらも良し悪しがあり一家の主としては間違った選択は出来ない、と言う思いから日々煮詰まっていった


親族の葬儀で久しぶりに再開したお年寄りに顔色が悪いのを見破られ、ついあらましを話すと


「悩んでる時は(のんのさん)に聞くと良いよ」と言われた


祖母が他界してから聞いていなかったその言葉に藁をも縋る思いで乗ってみる事にした


数日後、寺を訪れると記憶より更に古ぼけた寄合所は未だに健在だった


寺から鍵を借りて中に入ると昔と変わらず(のんのさん)は座布団の上に奉られていた


用意した供え物を置き線香を炊くと早速悩み事を打ち明けた

ここでの秘訣はイエス/ノーの2択にする事だ


イエスなら軽く持ち上がりノーなら持ち上がらない

打ち明けてからおもむろに(のんのさん)を抱き抱え、持ち上げてみる


…重くて持ち上がらなかった


試しに選択を逆にして持ち上げてみたが同様にびくともしなかった

(なんだよ、やっぱり頼ったのは間違いだったな)

こんな時に神頼みしてるなんてどうかしたるな、と思いつつ家路についた


それからも選択肢に悩み、困り果てていた所、別件で開業の話が持ち上がりそれに乗る形で事業を始めた


最初の頃は苦しかったが何とか軌道に乗せる事が出来、生活も安定してきた頃

以前悩んでいた選択肢の1つの会社が倒産した噂を聞いた


もう一方は個人的に家庭を犠牲にしなければ成り立たない職業で高給だったが今では選ばなくて良かったと思っている


もしあの(のんのさん)が一方を勧めていたら弱気になっていた俺は進んでいたかも知れない


後日、(のんのさん)に訪れお礼の供え物を捧げた


その時何の気なしに家族の健康を祈って持ち上げてみると以前持ち上げる事も出来なかった御神体は

適度な重さを伴ってひょいと持ち上がった


信心かも知れないし思い込みかも知れない。


が、(のんのさん)は今でも近所のお年寄り達に丁寧に奉られている

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